駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)や木工指物、染めものなど、伝統工芸が今も残っている静岡県。かつて徳川の時代に駿府城や浅間神社を造営するために各地から職人が呼び寄せられ、この地に住みつくようになったのがきっかけと言われている。そんな静岡県の丸子(まりこ)地区には、伝統工芸の技術を体験できる大型施設〈駿府の工房 匠宿(たくみしゅく)〉がある。

2021年にリニューアルされた〈駿府の工房 匠宿〉は体験施設やカフェ、物販店などが一体となり、より伝統工芸を見て、触れて、楽しめる施設となった。今回は伝統工芸を体験して、自分のお気に入りを見つける旅。静岡の歴史に触れながら、暮らしに伝統工芸品を取り入れる良さを感じてみよう。

伝統工芸を継承し、未来へつなぐ体験施設。


静岡駅から車で約15分ほど。丸子(まりこ)地区にある大型体験施設〈駿府の工房 匠宿〉が見えてきた。〈駿府の工房 匠宿〉は静岡の伝統工芸を伝える場所として1999年の4月にオープン。2021年5月には指定管理者の株式会社創造舎によって全面的にリニューアルが行われ、地元の伝統工芸をさらに盛り上げる施設として生まれ変わった。建築デザイン事務所の創造舎は施設の周りにも宿泊施設や飲食店を増やしていて、〈駿府の工房 匠宿〉を中心とした地域づくりも行っている。
建物はそのまま活かしながら、国内最大級の工芸体験施設としてリニューアル。
建物はそのまま活かしながら、国内最大級の工芸体験施設としてリニューアル。
入口すぐのエントランスでは、駿河竹千筋細工で作られた照明や、茶葉を染料として使用したお茶染めのタペストリーなど、数々の伝統工芸品がお出迎え。新しいロゴマークには、よく見ると「未来」の文字が隠れていて、〈駿府の工房 匠宿〉が歴史と未来をつなぐ場所になってほしいという思いが込められているという。エントランス以外にも、施設内の建物には至るところに伝統工芸品が自然にあしらわれていて、来場者に静岡に根付いた伝統工芸の良さを伝える役目を担っている。2021年のリニューアルで、体験者数がぐんと増えた〈駿府の工房 匠宿〉。駿河竹千筋細工や染めものの体験ができる「工房 竹と染」や、陶芸が楽しめる「工房 火と土」などいくつかの工房があり、それぞれ職人が工房長として在籍している。各工房で、職人のモノづくりの現場を間近で見られるのも特徴。職人を目指す若者が弟子入りした工房もある。静岡発祥の総合模型メーカー「タミヤ」の模型工房もあり、初心者向けの簡単な体験から、じっくりモノづくりを行いたい人向けの体験まで幅広いメニューが揃っている。まさに大人から子供まで1日楽しめる施設となっている。
施設は背景の山を生かした造りで没入感のある空間に。
施設は背景の山を生かした造りで没入感のある空間に。

伝統工芸品をしつらえた空間が素敵なカフェ「HACHI&MITSU」。


伝統工芸の体験をする前に、まずは施設内を散策してみよう。〈駿府の工房 匠宿〉にはリニューアルをきっかけにカフェや和菓子屋がオープンし、ゆったりとした時間を過ごすこともできる。なかには地元のきんつばの名店「吾作」の味を引き継いだ和菓子屋「蓬きんつば ときや」も。地域で愛され続けてきた味わいを食べ歩きで堪能するのもおすすめだ。
散策の途中で伝統工芸品のしつらえが素敵なカフェを発見。「HACHI&MITSU」は丸子地区の特産品であるハチミツと和紅茶を中心に提供するオリジナルのカフェ。手作りスイーツやカレーなどのランチメニューを、丸子紅茶やハチミツ入りドリンクとともに味わえる。

「昔は丸子地区で養蜂が盛んだったんです。ここでは季節や時期ごとに地元丸子のハチミツをさまざま用意していて、フレンチトーストやチーズケーキなどにたっぷりかけて召し上がれます。さらに、丸子地区は和紅茶発祥の地としても有名なんです。和紅茶のパイオニアとも言われた村松二六さんが、この地で栽培を始めたのがきっかけと言われています。ドリンクも豊富なのでぜひ味わってみてください」と話すのは店長の見城梢さん。
「HACHI&MITSU」店長 見城梢さん。
「HACHI&MITSU」店長 見城梢さん。
せっかくなので定番メニューのひとつ「はちみつフレンチトースト」をオーダー。卵液にひと晩漬け込んだバゲットをオーブンでカリッと仕上げた自信作だそうで、クセがなくまろやかな甘みのハチミツ「もち」をたっぷりかけて贅沢に楽しめる。フレンチトーストは噛むとジューシーな食感でハチミツとも相性が良く、やみつきになること間違いなし。
はちみつフレンチトースト 800円。
はちみつフレンチトースト 800円。
駿河竹千筋細工の照明やインテリアパネル、お茶染めの作品などがセンスよく配置されたモダンでおしゃれな店内は、居心地が抜群に良い。ひと息つきながら周りを眺めていると、凛とした美しさのある伝統工芸は洋の空間にも映え、現代的なインテリアとも相性が良いことに気づく。敷居が高いイメージのある伝統工芸品だが、自宅にさりげなく取り入れる暮らしはきっと素敵に違いないだろう。
繊細で美しい駿河竹千筋細工のインテリアパネル。
繊細で美しい駿河竹千筋細工のインテリアパネル。

各地の伝統工芸品が揃う生活用品店「ギャラリー Teto Teto」。


施設を眺めていると、実際に伝統工芸品を自宅に迎え入れたくなってきた。次に訪れたのはギャラリー兼生活用品店の「ギャラリー Teto Teto」。静岡市だけでなく、全国各地の伝統工芸品や暮らしの道具を集めるお店で、〈駿府の工房 匠宿〉で活躍する職人の作品も販売している。ここなら自分のお気に入りを見つけられそうだ。
商品の選定を担当するのは、店長兼バイヤーの酒井恵さん。伝統工芸品を身近に感じ、気軽に取り入れてもらうためにも、こちらのお店では生活に取り入れやすい商品を中心にラインナップしている。必ず現地を訪れ、作家やメーカーに直接声をかけた上で、商品を仕入れているそう。
「取り扱う商品の基準は、既製品ではなく必ず人の手で作られているもの。伝統工芸品は昔からあるものなので、使い手のことを考えて作られていて、使い勝手が非常に良いと感じています。静岡だけでなく全国に素敵な作家さんやメーカーがあるので、お客様にとって新しい出会いがあればうれしいです」〈駿府の工房 匠宿〉の職人が手がける商品は、本人が「ギャラリー Teto Teto」まで届けに来るため、タイミングが合えば直接お話を聞くこともできる。なかには工房に立ち寄って商品について尋ねる来場者もいるそう。作り手の顔が見える商品を購入できるのも、「ギャラリー Teto Teto」ならでは。店内にあるギャラリーは、およそ1ヶ月ごとに展示内容を変えているそう。いずれも酒井さんが作家に直接声をかけて、企画展を調整している。企画展の内容に合わせ、店内のラインナップも多少入れ替えるため、いつ訪れても新しい発見のあるお店となっている。
企画展スペース
企画展スペース
さて、ひと通り施設内を楽しんだ後はさっそくモノづくりの体験にチャレンジしてみよう。(後編へ続きます)
 

Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki



いつもと違う静岡県観光には、静岡市の〈駿府の工房 匠宿〉がおすすめ。
 

駿府の工房 匠宿(たくみしゅく)


所在地静岡県静岡市駿河区丸子3240-1
アクセスJR静岡駅から車で約15分、バス停「吐月峰駿府匠宿入口」から徒歩で約5分
電話番号054-256-1521
URLhttps://takumishuku.jp/
Instagram@sunpu_takumishuku
営業時間10:00〜19:00
休業日月曜(祝日の場合は営業、翌平日休館)


 
※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。