京都における“リフレクション写真”の火付け役的存在。


SNSをきっかけに、大人気スポットへと変貌を遂げることがある。市街地から大原へと抜ける途中、普段はひっそりとした八瀬の地に佇む〈瑠璃光院(るりこういん)〉もそのひとつだ。机に映り込むモミジの絶景が話題となり、京都を代表する寺院となった。春季、夏季、秋季に期間限定で公開されるが、最も大勢の人出で賑わうのは紅葉の秋。今年こそはぜひ行きたいとお考えの方も多いことだろう。秋に訪ねた模様をお届けしよう。
※本記事の写真は2024年以前に撮影したものも含みます。
紅葉が見頃となる時季に瑠璃光院を拝観するのであれば、一部期間を除いて、希望する拝観日時を指定した「事前抽選予約」への申込みがマスト。公式ホームページから申込みをして当選となれば、当日、指定の拝観時間を目指して現地へ向かうことになる。〈瑠璃光院〉への最寄り駅となるのは、叡山電鉄の「八瀬比叡山口駅」。「京都駅」からJR奈良線に乗って「東福寺駅」まで向かい、京阪電車本線に乗換えて「出町柳駅」へ。そこから叡山電車本線に乗換えれば到着だ。2度の乗換えは億劫に感じるが、秋の京都旅では交通渋滞が悩みの種。渋滞に巻き込まれることがなく、時間が「読みやすい」電車は、旅の心強い味方となるのだ。〈瑠璃光院〉の拝観には「時間指定」があるので、なおさらに電車利用がおすすめだ。


静寂な庭のある名刹と森深い古社を散策。


「八瀬比叡山口駅」から瑠璃光院までは、歩いて13分ほど。まっすぐ向かうのも良いが、周辺観光も予定に組み込んでみることにした。「八瀬比叡山口駅」の一つ手前の「三宅八幡駅」で下車して、歩いて8分ほどの〈蓮華寺〉へ。
書院前の庭
書院前の庭
ハイライトはなんと言っても、鶴亀の島を配した書院前の庭園。安土桃山時代から江戸時代初期に、武将としても文人としても活躍した石川丈山によって作庭されたと伝わっている。曇りや雨などしっとりとした天候がよく似合うお庭で、お寺の方によると、紅葉の見ごろは例年11月下旬から12月上旬にかけてという。本堂に向かうと、天井に描かれた龍の図を鑑賞できる。明治時代に焼失した狩野探幽の作品を、仏師であり嵯峨野にある愛宕念仏寺の住職でもあった西村公朝氏が、昭和53年(1978)に復元したものだ。特に秋であれば、「ちょっと立ち寄る」にはもったいないお寺。あらかじめスケジュールに入れて、じっくりと拝観したい。
本堂
本堂
〈蓮華寺〉の山門から、国道沿いを東に1分ほど歩けば〈祟道神社(すどうじんじゃ)〉の鳥居が姿をあらわす。恐ろしい由緒で語られることもあるが、「都の守護神」という側面を持つとされる社もあわせて参拝する。ご祭神である早良(さわら)親王は、桓武天皇が平城京から長岡京に都を遷そうとした際に起きた、遷都の責任者ともいえる藤原種継(たねつぐ)暗殺に関わったという容疑をかけられてしまう。親王は幽閉され、無実を訴えるため断食を行ったが、最後は淡路島への流罪の途中で命を落とした。親王亡き後、都では疫病や洪水が発生。また桓武天皇の母、皇后などの近親者に、相次いで不幸が訪れたことから、原因は「親王の祟り」と噂され、その怨念を鎮めるために「祟道天皇」と追号されることになった(早良親王は桓武天皇の同母弟で、後に皇太子となった)。そして、その怨霊を「御霊」として手厚く祀るために〈祟道神社〉は創建された。鎮まるのは、京都御所から見て北東の位置、「鬼門」の方角。強大な力を持つ御霊を、都の守り神として祀ったのだ。長い参道を歩いて、親王を祀る本殿前へ。そこで感じられるのは、恐ろしさや不気味さではなく、手を広げ深呼吸をしたくなるような神秘的で清浄な雰囲気だった。境内はゆったりとした広さで、安らぎさえ感じられる神社である。


いよいよ〈瑠璃光院〉の“絶景”へ。


〈祟道神社〉から国道を東に12分ほど歩き、高野川に架かる「雰囲気のある橋」を渡ると「ケーブル八瀬駅」へ。そこから、川と並行する道を下流方向に7、8分歩けば、いよいよ〈瑠璃光院〉が見えてくる。山門脇の受付で拝観の手続きを済ませ境内へと進む。霊峰比叡山の山麓に位置することもあってか、玄関手前に広がる「山露地(やまろじ)の庭」は、霊気が漂うかのようで、エネルギーに満ちあふれてくる心地さえする。空を覆うモミジと青々しい苔が美しく、まずはここで息を整えよう。
山露地の庭
山露地の庭
玄関を入ると、「写経セット」を手渡された。紅葉を愛でるだけではなく、写経で心を静められるのは、お寺に来たという実感が沸く。 目線を上げると「喜鶴亭(きかくてい)」の文字が目に入った。瑠璃光院の前身は、京都の実業家 田中源太郎の“別荘”。その別荘は、公卿出身の明治の政治家 三条実美(さねとみ)により「喜鶴亭」と名付けられた。院内に目をやると、数寄屋造りの建築様式からも、自然に囲まれた山荘のような風情が漂っている。
「喜鶴亭」の文字は三条実美による揮毫
「喜鶴亭」の文字は三条実美による揮毫
2階へ進むと、“あの光景”のお出ましだ。目にした瞬間、何物にも代えがたい喜びが押し寄せる。思わず笑みがこぼれそうになった。部屋の柱や鴨居を額縁と見立てれば、一幅の絵巻といったところだろうか。部屋の照明が落とされているため、外のモミジの美しさがより際だっているように感じられる。
机に近づくと、現実離れした “あの絶景”があらわれる。嬉しいことに、結界が置かれており、机の向こう側に人の出入りは無い。マナーを守り、周りの人と譲り合えば、確実に絶景写真を撮影することができるのが嬉しい。 リフレクションを写し込むのであれば、カメラやスマホを机の天板に近づけるか、または机に置いてシャッターを押すと良いらしい。やや暗い部屋ではあったが、机に据えて撮影することでブレの無い写真に仕上がった。
書院2階の一角には、写経机が並べられている。玄関で渡された「写経セット」の出番だ。薄く印字されたお経の一節を、ボールペンでなぞるという簡単なものではあるが、これもまた非日常の体験。5~10分ほどではあるものの、しばし心を落ち着かせることができた。写経を終えたら1階へ。リフレクションの絶景に気を奪われがちになるが、実は1階に降りて以降も見どころが多い。最後は駆け足で… とならないように、時間配分には注意したい。 階段を降りたらまずは左側へ。突き当りまで進むと、少し異様な佇まいの「八瀬のかま風呂」が姿をあらわす。「風呂」と言っても、今でいうサウナのようなもので、熱と蒸気によって心身を癒すというものだ。 かつて壬申の乱で、背中に矢を受けて負傷した大海人皇子(後の天武天皇)が、八瀬の地でかま風呂に入って傷を癒したという。「背に矢を受けた」皇子が傷を「癒した」ことから、「矢背」または「癒背」となり、やがて「八瀬」という地名に転じたという話も伝わっているそうだ。唐突に聞き覚えある歴史上の人物の足跡に触れられるのは、京都観光の醍醐味のひとつである。
 
かま風呂を後にして院内を進むと、「机の部屋」のちょうど真下へ。紅葉と主役争いをするかのような美しい苔に目が奪われる。それぞれの彩りだけでなく、苔とモミジのコントラストもじっくりと目に焼き付けたい。
瑠璃の庭
瑠璃の庭
本堂を抜け、拝観エリアの最奥となる「臥龍(がりょう)の庭」へ。ここまで進めば、見どころの多い院内で拝観者が分散することもあってか、幾分混雑も少ない。苔と紅葉が美しいお庭であるが、縁側の床が磨かれており、隠れたリフレクションスポットとしても知られている。腰を据えることのできる最後の場所となるので、この後の旅の行程はここでおさらいをして、玄関へ帰ることにする。趣きも異なる「山露地の庭」「瑠璃の庭」「臥龍の庭」の3つを有するだけでなく、リフレクションや緑とのコントラストなど、様々な風情の紅葉風景を楽しめるのが、秋の瑠璃光院の大きな魅力だ。屋内での拝観が主となるので、雨の日でも安心できるのが嬉しい。既述の通り、秋の特別拝観は「事前抽選予約制」となるが、これは今年(2025年)からの試み。現在、10月30日をもって3次抽選予約が終了となったが、「満席」の日程も多いよう。今後の申し込みを希望する人は公式ホームページをチェックしてほしい。
そして最後に、紅葉時季の瑠璃光院で「ライトアップ」を楽しむことができるスペシャルなプランを紹介しよう。

〈瑠璃光院〉のライトアップが見られるのは、JR東海の「秋の特別拝観」のみ!


JR東海では、例年春と秋に「特別拝観」を実施し、「プラン限定開催のライトアップ」が目玉の一つとなっている。要するに、一般向けには開催されておらず、特定のプランを購入した人のみが参加できる夜間拝観のことだ。〈瑠璃光院〉でのライトアップは、やや高価格ではあるものの、人数限定で幻想的な紅葉風景を楽しめるため、毎年好評であるという。今年で9年目の開催ということからも、その人気ぶりが窺える。〈瑠璃光院〉までのアクセスに便利な、「叡山電車1日乗車券」や「叡山ケーブル・ロープウェイ往復乗車券」もセットになっているので、沿線の名所めぐりと一緒に楽しんでみては?
瑠璃光院
瑠璃光院



Text & Photo:Kazuaki Toda


 

いつもと違う京都府観光には、〈瑠璃光院〉がおすすめ。


瑠璃光院


所在地京都市左京区上高野東山55(Google Map
アクセス叡山電鉄叡山本線「八瀬比叡山口駅」から徒歩約13分
京都バス「八瀬駅前」バス停から徒歩約7分
URLhttps://rurikoin.komyoji.com/
拝観時間10:00~17:00
※秋の特別拝観は2025年10月1日(水)~12月14日(日)
※2025年11月8日(土)~12月7日(日)の拝観は、事前予約抽選制となります。予約方法などは公式ホームページよりご確認ください
拝観料2,000円


蓮華寺


所在地京都市左京区上高野八幡町1(Google Map
アクセス京都バス「上橋」バス停からすぐ
叡山電鉄叡山本線「三宅八幡駅」から徒歩約7分
電話番号075-781-3494
拝観時間9:00〜17:00
拝観料500円


祟道神社


所在地京都市左京区上高野西明寺山町34(Google Map
アクセス叡山電鉄叡山本線「三宅八幡」駅から徒歩約8分
京都バス「上橋」バス停から徒歩約2分
電話番号075-722-1486 
拝観時間境内自由
拝観料無料

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