京都北部、海での暮らしに触れる旅。

京都府の北部、日本海に面した地域は「海の京都」の別名を持つ。日本三景の一つに数えられる景勝地・天橋立や、海に浮かぶ小さな町・伊根の舟屋、美しい海岸風景など、自然豊かで気持ちのいい観光スポットが点在するのが、このエリアの特徴だ。伊勢神宮に縁(ゆかり)があるとされる福知山市「元伊勢外宮豊受大神社」を起点に、各スポットを訪ねてまわった。

天照大神ゆかりの地、元伊勢三社へ


京都観光といえば、碁盤の目に広がる京都市内を想像しがちだが、南北に長く広がる京都府には、実は海側のエリアをめぐる楽しみ方もある。なんといっても丹後半島を中心とする日本海に面したエリアは「海の京都」とも呼ばれるほどで、一度は訪れておきたいスポットで溢れている。
丹後半島の入り口にあたる福知山市でまず行きたいのが、〈元伊勢三社〉と称される元伊勢内宮皇大神社・元伊勢外宮豊受大神社・元伊勢天岩戸神社だ。
 
言い伝えによると、三重県にある伊勢神宮は現在の場所に落ち着くまでのあいだに、いくつかの候補地に鎮座したそうだ。元伊勢三社はその候補地のひとつだったと伝わる場所。伊勢神宮と同様に外宮(元伊勢外宮豊受大神社)から内宮(元伊勢内宮皇大神社)、そして天岩戸神社の順に巡ることにした。
元伊勢外宮豊受大神社
元伊勢外宮豊受大神社
境内へ向かって歩き出すと、凛とした空気が流れていてなんとも心地いい。すっと高く伸びた木々には青々とした葉が生い茂り、神聖な雰囲気を醸し出している。
元伊勢外宮豊受大神社の「豊受大神」とは、衣食住を含む産業の守護神のこと。天照大神がこの地に鎮座したときに近くに豊受大神を祀ったことが、元伊勢外宮の起源だ。その後、天照大神は聖地を求めて20数カ所移動し、最終的に伊勢の地に鎮座することに。やがて、昔のことを思い出した天照大神が豊受大神を現在の場所へ呼んだことで、京都のこの場所では、かつて神々が鎮座したとされる場所を祀るようになった。
 
外宮で参拝したら、車で7分ほど移動して今度は内宮へ。三重県の伊勢神宮に比べて参拝客は少ないため、ゆったりと落ち着いて参拝できるのがここの魅力。風で木々が揺れる音に耳を澄ませながら、じっくりと手を合わせられる。
元伊勢内宮皇大神社の本殿と龍灯の杉
元伊勢内宮皇大神社の本殿と龍灯の杉
内宮から天岩戸神社へは渓谷を歩いて移動する。とにかく緑が豊かで、空気は爽やか。川が流れているので、せせらぎも聞こえてくる。ハイキング感覚で歩いているうちに、気持ちがどんどんリフレッシュしていくようだ。
日室岳の下を流れる宮川渓流に、元伊勢天岩戸神社の社殿はある。岩壁にはりつくように鎮座しているため、参拝の際は鎖をつたって岩を登っていく。また、同じ場所には神々が座したと伝えられる巨大な岩「御座石」もあるので、こちらも見所だ。
天岩戸神社の社殿(右)と御座石(左)
天岩戸神社の社殿(右)と御座石(左)

京都から日本海を一望、天橋立、伊根の舟屋


いよいよ海へと近づき、日本三景の一つ、〈天橋立〉へ。天橋立を南側から望む「天橋立ビューランド」は、「股のぞき」で有名な場所。この場所に立って逆さから見る天橋立は天に舞う龍のように見えることから、「飛龍観」と呼ばれている。
天橋立を出て海岸線を移動すること約30分。たどり着いたのは、伊根湾の中央に位置する〈伊根浦公園〉。近年、観光名所として注目度が上がっている「伊根の舟屋」を間近で見ることができるスポットの一つだ。
遊覧船に乗ると、海上から舟屋群を眺めることができる。伊根湾の5kmに及ぶ周囲には、約230軒の舟屋が建ち並ぶ。海辺ぎりぎりに建ち並んでいるので、沖から一望するとまるで海に浮かんでいるかのよう。また、この舟屋群は漁村では全国で初めて国の重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けている。

舟屋は、1階は舟のガレージ、2階は居間や客間とする伊根の伝統的建造物。江戸時代中期にはすでに存在していたという。木の舟は天日にさらすと割れ、海につけておけば腐る。そこで、舟を日陰の陸に揚げておけるように家の1階が船着場と作業場になったのが、舟屋の始まりだ。保存されたり、展示しているのではなく、これらの舟屋では今も現地の人が暮らしていて、日常生活を営んでいる。だからこそ、この景色を眺めていると「いろんな暮らしがあるんだなぁ」と心に沁み入るものがある。
 
今では多くの船がFRP(繊維強化プラスチック)製となり、また大型化したため、船を陸へ引き上げずに舟屋の前に留めているところも増えている。船を収納することがなくなった舟屋は、空いた一階を魚を料理する際に使ったり、あるいは洗濯物を干したりと暮らしの場として活用されることも。また、多くの住民は舟屋ではなく道路を1本挟んだ向かいに建つ母屋で暮らしている。
伊根町の漁港
伊根町の漁港
ところで、伊根町には魚屋がない。食堂の店主も、町民も、みんな漁港で魚を買うのだ。毎朝、漁船が沖から戻る頃、町内にはその日の水揚げ量と魚種を伝えるアナウンスが流れる。そして定置網漁を終えた漁船が着くと、人々はバケツやカゴを持って並び、ブリやアオリイカ、サバ、アジ、イワシといった近海で獲れる魚を順々に買っていくのだ。遊覧船に乗っているとカモメの群れに遭遇することも。海を眺め、自然に触れ、「海の京都」をしっかりと満喫した頃には、少しずつ日も暮れ始めていた。

若鶏と京地どりを堪能する焼き鳥店〈tensen〉


伊根の舟屋の景色を堪能した後は、車で40分ほど移動し京丹後市へ。夕食で訪れたのは、焼き鳥店〈tensen(テンセン)〉。
店は古民家を改修した建物で、趣深さと清潔感を兼ね備えた外観を見ただけでも気分が高揚する。さらに店内に入れば、開放感のあるオープンキッチンやそれぞれ形が違う10灯の提灯に圧倒される。店主の大垣翔平さんによれば、〈tensen〉という店名は、食材・人・場所など地域の「点」を「線」で結ぶ存在でありたいという想いに由来するもの。そのコンセプトは建物の設計の段階から貫かれ、古民家を改修する際には丹後の職人の技術や地元素材、既存の建具なども活かしながら空間を完成させたという。

「設計には、兄で1級建築士の大垣優太にも協力してもらいました。オープンキッチンにしたのも、お客さんとのコミュニケーションを大切にしたいという思いがあったからでした」
と、大垣さん。さらには使用する器も、地元の作家である大江志織さんらの作品が揃う。この店では、若鶏と京地どりの両方を焼き鳥にする。若鶏は近畿北部で40〜45日程育てられ、峰山町で解体された新鮮な若鶏。飼育環境がいいため臭みもなく、身が柔らかくとてもジューシーなのだ。

一方、京地どりはシャモと黄斑プリマスロックを掛け合わせた鶏。鶏を1羽まるごと仕入れ、余計な水分を飛ばすため店で乾燥・熟成をかけてから解体し、串を打つ。しっかりとした歯応えがあり、味も濃く、噛むたびに美味しさが口の中に広がるのが特徴だ。
いずれも、部位によって火入れの仕方、塩加減、焼き加減を巧みに変え、それぞれの個性を最大限に引き出していく。炭火でジューシーに焼き上げた鶏肉は、皮はパリッとした食感と焼いた香ばしい香りが魅力で、身の部分は弾力があって噛むほどにジュワッとエキスが染み出す。じっくりと噛み締めながら食したい。大垣さんは、京都市内のフレンチで修行後、故郷の京丹後市に焼き鳥とビストロフレンチの店「あみけん」で店長を経験。「焼き鳥を突き詰めていきたい」という思いから独立し、2023年に同市内で〈tensen〉をオープンさせた。

これまでの経験を生かして、焼き鳥には醤油だれのみならず、ドライトマトなどを使ったオリジナルのソースを添えることもある。メニューをよく見ると「せせり」などの部位とともに「大根」「富士酢」とソースの内容も添えてあり、なんと串の一本一本に異なるソースが用意されているのだ。これが、一見すると意外な組み合わせなのだが、食べてみると驚くほど相性がいい。海沿いの街をめぐるという京都の思いがけない楽しみ方を知り、焼き鳥の意外な味わい方を堪能して1日を締めくくる。そんな、新鮮な気持ちになれる旅だった。



Text:Ayano Yoshida
Photo:Yuki Arimitsu



いつもと違う京都府観光には、〈元伊勢三社〉〈天橋立〉〈伊根浦公園〉〈tensen〉がおすすめ。

元伊勢三社(元伊勢外宮豊受大神社)


所在地京都府福知山市大江町天田内60
アクセス福知山市営バス「外宮」から徒歩約5分
京都丹後鉄道「大江高校前駅」から徒歩約15分
電話番号0773-56-1560
URLhttps://www.city.fukuchiyama.lg.jp/soshiki/65/1115.html
Instagram@motoise_geku


 

天橋立(天橋立ビューランド)


所在地京都府宮津市文珠437(天橋立ビューランド)
アクセス京都丹後鉄道「天橋立駅」から徒歩約7分
電話番号0772-22-1000(代表)
URLhttps://www.amanohashidate.jp/spot/viewland/
営業時間HPをご確認ください。
休業日年中無休


 

伊根浦公園


所在地京都府与謝郡伊根町平田494
電話番号0772-32-0277
URLhttps://www.ine-kankou.jp/


 

tensen


所在地京都府京丹後市大宮町善王寺1162-2
アクセス京都丹後鉄道「京丹後大宮駅」から徒歩約26分
電話番号0772-60-4100
Instagram@tensen.__
営業日時Instagramをご確認ください。


 
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