京都駅チカのお寺に、絶景と癒しのニュースポットが誕生。


青もみじと苔が潤いにあふれる頃。桜や紅葉の時季に比べ人出も少なく、京都本来の良さ、風情に浸るなら今の季節がおすすめだ。今年(2025)の4月下旬、京都駅からも近い泉涌寺山内の今熊野観音寺に、絶景を眺めながら、癒しも感じられるという茶所〈閑坐〉が誕生した。今後ますます注目を集めそうなニュースポットを、実際に訪ねてみた。
京都駅から市バスに乗って15分ほど、目的地である今熊野観音寺へは「泉涌寺道」バス停から徒歩で向かう。清水寺周辺や祇園などとは様子が変わり、観光目当てと思われる人はそれほど見当たらない。おおよそ近隣に住む人たちのようだ。泉涌寺に向かう緩やかな上り坂を、期待に胸を膨らませて歩いていく。バス停から10分ほど歩いたら、左手側に伸びる下り坂へ。まるで俗界との境界線であるかのような橋が見えてきたら目的の場所は近い。橋を渡り、一歩一歩浄化されるかのように緑のトンネルを進むと、いよいよ境内にたどり着く。
青もみじが美しい鳥居橋
青もみじが美しい鳥居橋
今熊野観音寺は一説によると、平安時代末期、弘法大師空海がこの地に庵を結んだことに始まる。秘仏である本尊の十一面観世音菩薩は、空海により彫られたと伝わる由緒ある一躯だ。西国三十三所観音霊場の第十五番札所に列し、年間を通して熱心に巡礼する人が後を絶たない。

バス停からの道は、車も行き交い生活感の漂う住宅街であったが、境内は郊外の山寺にでも訪れたかのような静けさに包まれている。京都駅からもさほど遠い場所でないということが驚きだ。本堂でお参りを済ませ、「その場所」へ向かうことにした。
本尊を祀る本堂
本尊を祀る本堂
今年(2025)の4月25日(金)、境内にオープンしたのが、茶所〈閑坐〉だ。新築されたものではなく、ここ数年利用されていなかった参拝者用の休憩所をリノベーションしたものであるという。開業から2ヶ月ほどではあるが、閑坐を目的にお寺を訪れる参拝者も少しずつ増えてきているそうだ。中に入ると、まず目を引くのが緑を映したリフレクション。漆塗りの黒床に、建物の外を取り囲む青もみじが見事に溶け込んでいる。鏡のようにはっきりとではなく、少し揺らいだ水面のようで、「わざとらしくなく」奥ゆかしい。この絶景を前に、抹茶と菓子で至極の一服を楽しめるのだ。抹茶に使われる水は、境内で採れる「五智水(ごちすい)」。空海が寺を開く際に掘り出し、自ら命名したと伝わる霊水で、今も涸れることなく湧き続けている。「五智」とは、密教において「宇宙の根源とされる大日如来が備える5つの智恵」のこと。ご利益も感じられ、ここでしかいただくことができない一服と言えそうだ。

菓子の内容は日替わりで、創業200年を超える老舗「亀末廣」の菓子か、寺内で手作りされるものが出されるという。こちらは訪れるたびの楽しみ、といったところだろうか。
「閑坐」とはなにか、そしてこの名前に込められた思いとは。副住職に尋ねると、ある禅語に由来していると返ってきた。

「『閑坐聴松風(かんざしてしょうふうをきく)』という禅語があります。字のごとく、ここで静かに座って、木々の葉が風に揺れる音、鳥のさえずりを聞いてもらいたい。自分と向き合ったり、自然に癒されたり、リラックスしたひと時を過ごしてもらいたいという思いを、この名前に込めました」と、副住職は言う。
 
室内に設けられた席はたったの4つ。「美しい京都の風景を、心静かに満喫したい…」という、京都好きなら一度は憧れる理想のひと時を、この場所は叶えてくれそうだ。
一服を終えしばらくする頃、スタッフの方から「黒床にも是非あがっていってください」とすすめられた。嬉しいことに、緑を映す黒床に上がることができ、そこに座って風景を楽しんだり、記念撮影をしたりできる。この日は、角度を様々に変え、写真撮影を満喫した。
建物の外側にはテラスが設けられていて、自由に出入りが可能だ。希望すれば、抹茶・和菓子は外でいただくこともできるので、より近くで自然と寄り添いたい場合は、こちらを利用するのも良いだろう。

テラスの一角に目を移すと、「水面鏡(すいめんきょう)」と名付けられた水盤に映る緑も美しい。ふと、「水面に赤いモミジの葉が舞い散る頃も良さそうだ」、という思いが沸き起こった。訪れるたびに、きっと新たな印象を抱くに違いない。季節だけでなく時間帯や天候を変えて、改めてこの“特等席”を訪ねてみたい。現在、閑坐の利用には事前予約の必要も、利用時間の制限もないという。しかし今後、注目を浴びることは想像に難くなく、それらのルールも変更される可能性があるそう。まずは今のうちに、由緒ある古刹に誕生した癒しの絶景スポットを訪れてみてはいかがだろうか。

今熊野観音寺から歩いて巡ることのできる、青もみじの名所をご紹介


泉涌寺/泉涌寺 雲龍院

泉涌寺は「皇室の菩提寺」として知られる、非常に由緒のある寺院だ。一見したところ境内には常緑樹が多いが、かつて京都御所にあった御殿を移した御座所内の庭園は青もみじと苔が美しい。堀の向こう側に、数々の天皇を埋葬する陵墓があるためか、お庭にも清浄で静謐な空気が流れているように感じる。
御座所庭園
御座所庭園
本山を後にし、泉涌寺境内から伸びる参道を進めば、雲龍院はすぐそこだ。このお寺では、ちょっと変わった視点で緑を楽しみたい。

その楽しみ方というのが、「窓や障子越しに眺める」というもの。四枚の雪見障子からなる「色紙の窓」は、左から椿・灯篭・青もみじ・松がその姿を覗かせる。青もみじ・苔・サツキの刈込みによる一面の緑が広がる「大輪の間」や、丸い「悟りの窓」と四角い「迷いの窓」が並ぶ「悟りの間」など、ひと部屋ごとに味わい深い光景が広がっている。
色紙の窓
色紙の窓

東福寺/東福寺 光明院


雲龍院から裏道を15分ほど歩けば、京都屈指の紅葉名所にたどり着くことができる。泉涌寺の“おとなり”とでもいうべき立地の東福寺だ。

境内にある渓谷にはモミジが約2,000本植えられ、臥雲橋から望む通天橋は“定番風景”といえるだろう。通天橋では、橋の上からモミジの大海原を眺めるのも良いが、緑の海底に沈んだかのように、庭の中に身を置いて仰ぎ見るのもおすすめだ。
臥雲橋から望む通天橋
臥雲橋から望む通天橋
苔の美しさに心を惹かれたなら、本坊庭園もあわせて拝観したい。昭和の作庭家 重森三玲によって、方丈の周りを取り囲むように造られた4つのお庭からなり、東福寺の見所となっている。とりわけ注目したいのが、四角く区切られた切り石と苔によって造形される「北庭」。このお庭は、太陽光が遮られることなく降り注ぐため、夏場は苔にとってやや厳しい環境かもしれない。かの画伯 東山魁夷も描いた青々とした風景を楽しむなら、雨続きの日に訪ねたい。
本坊庭園(北庭)
本坊庭園(北庭)
通天橋から南へ10分ほど歩けば、東福寺の塔頭寺院のひとつ、光明院へ。拝観料は玄関に添えられた竹筒に入れる少し特異な“無人スタイル”。「粋」にも感じられるから不思議だ。

境内の中央を占める波心庭は、東福寺本坊庭園と同様、重森三玲の作庭によるもの。多く配された巨石に目を取られるが、緩やかな傾斜と曲線で描かれた苔と、丸みを帯びたサツキとツツジの刈込みから感じられるのは優しい印象。禅寺の庭というと少し気難しい印象もあるが、涼し気に揺れる青もみじとも相まって、心安らかに眺めることができるお庭だ。

閑坐


所在地京都市東山区泉涌寺山内町32(Google Map
アクセス市バス「泉涌寺道」バス停から徒歩約12分
電話番号090-4011-8170
URLhttps://www.kannon.jp/chajyo-kanza(今熊野観音寺HP内)
拝観時間10:00〜16:00(最終受付15:45)
拝観料2,000円
※秋の紅葉シーズンは3,000円
定休日不定休


今熊野観音寺


所在地京都市東山区泉涌寺山内町32(Google Map
アクセス市バス「泉涌寺道」バス停から徒歩約12分
電話番号075-561-5511
URLhttps://www.kannon.jp/
拝観時間8:00〜17:00
拝観料無料(境内自由)


泉涌寺


所在地京都市東山区泉涌寺山内町27(Google Map
アクセス市バス「泉涌寺道」バス停から徒歩約12分
電話番号075-561-1551
URLhttps://mitera.org/
拝観時間9:00〜17:00(16:30受付終了)
※12〜2月は〜16:30(16:00受付終了)
拝観料500円、御座所500円


泉涌寺 雲龍院


所在地京都市東山区泉涌寺山内町36(Google Map
アクセス市バス「泉涌寺道」バス停から徒歩約15分
電話番号075-541-3916
URLhttps://www.unryuin.jp/
拝観時間9:00〜17:00(16:30受付終了)
拝観休止日毎週水曜 ※11月を除く
拝観料400円


東福寺


所在地京都市東山区本町15-778(Google Map
アクセスJR奈良線 東福寺駅から徒歩約10分
電話番号075-561-0087
URLhttps://tofukuji.jp/
拝観時間9:00〜16:30(16:00受付終了)
※11月〜12月初旬は8:30〜、12月初旬〜3月は16:00まで(15:30受付終了)
拝観料通天橋 600円(11月中旬〜 1,000円)
方丈 500円
通天橋・方丈共通券 1,000円(11月中旬〜12月上旬を除く)


東福寺 光明院


所在地京都市東山区本町15-809(Google Map
アクセスJR奈良線 東福寺駅から徒歩約15分
電話番号075-561-7317
URLhttps://komyoin.jp/
拝観時間7:00頃〜日没
拝観料500円



Text & Photo:Kazuaki Toda


 

いつもと違う京都府観光には、今熊野観音寺の〈閑坐〉がおすすめ。
 


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