行き場のなくなった本を引き取り、スタートした独立書店
富士山の伏流水が湧き出る池や小川などがあり、「水の都」とも称される静岡県三島市。最近では絵本のまちとしても知られており、街中には独立書店や私設図書館など本を楽しめる場所がさまざまある。今回訪ねる〈ジンジャーブックスカフェ〉もそのひとつ。三島駅南口から徒歩で約7分。湧き水の流れる桜川の近くに、水色の扉が印象的な〈ジンジャーブックスカフェ〉がある。
〈ジンジャーブックスカフェ〉外観
「クレマチスの丘で、美術館のチケット窓口と監視員を経験したあと、併設するミュージアムショップ〈NOHARA BOOKS(ノハラブックス)〉に勤務しました。2022年に美術館とともに閉館することになり、そこで扱っていた本を引き継ぎたいという思いで始めたお店です」
〈ジンジャーブックスカフェ〉オーナーの岩村知子さん。
「三島は都内からも訪れやすいですし、小さな町なのでスポットがぎゅっと詰まっていて、歩いて周りやすいのが魅力だと感じます。クレマチスの丘へのバスも三島駅から出ていたので、以前のお客様も通いやすいかなと思ったのも理由のひとつ。お店の目の前を流れる桜川沿いには文学碑が立ち並んでいて、本屋さんを始めるにはぴったりの場所だとも思いました」
町のいたるところに小川が流れ、清流のせせらぎを感じられる三島。
選書のテーマは何度でも繰り返し読みたくなる本
もともと出版社で雑誌編集者として働いてきた岩村さんにとって本は常に生活の一部だったという。現在は〈NOHARA BOOKS〉から引き継いだ本が減ってきたため、ご自身で仕入れを行っている。選書のテーマは「ずっと手元に置きたい本」。何度でも開きたくなる本を揃え、良い本を見つけたいときに立ち寄れる場所でありたいと思いを込める。ジャンルはアート本をはじめ、エッセイ本や写真集、絵本など新刊・古本問わず多彩だ。
「ドリンクの提供はオープン当初から行っています。自分自身が本屋へ行ったときに、一緒にお茶を飲みたくなるので始めました。定期的に通ってくださる方がいるのは嬉しいですし、町の本屋さんらしいですよね。ドリンクを読みながらじっくり本と向き合って、お気に入りの一冊を見つけていただけたら」
「イタリアで長く暮らし、翻訳や随筆などで活躍した須賀敦子さんの詩集です。ちょうど30歳の頃に綴られた約1年間の詩がまとめられています。
彼女はキリスト教徒でもあったので、この詩集では生きることや祈ることについて深く触れています。特に私が好きなのは冒頭の部分。誰かといても自分を見失わずに生きることの大切さに気付かされます。
読むたびに印象が変わるのも詩の良いところ。旅をしているときに読んだら、より深く詩に触れることができると思います」今後は店内の展示などに力を入れたいと岩村さん。三島ならではの地域のつながりもあり、〈ジンジャーブックスカフェ〉では羊毛フェルトのワークショップを行う〈くろねこ羊毛部〉に期間限定で本を置くなど、さまざまな活動を行っている。
「同時期にオープンした独立書店〈ヨット〉さんに誘われて、近くの白滝公園でイベントに参加したこともあります。三島は個人店が多く、みんな仲が良いんですよね。本のイベントも多いので、来ていただけたら楽しめると思います」
最近、個人店が増えて魅力がさらに増している三島。三島を訪れたときは、〈ジンジャーブックスカフェ〉をはじめ、本にまつわるスポットをさまざま巡って楽しむのがおすすめだ。
Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka
いつもと違う静岡県観光には、三島市の〈ジンジャーブックスカフェ〉がおすすめ。
ジンジャーブックスカフェ
所在地 | 静岡県三島市芝本町3-10 |
アクセス | JR三島駅から徒歩約7分 |
@ginger_books_cafe | |
休業日 | 水曜、木曜 |
※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。