2024年4月に、静岡県三島市が行った「絵本のまち三島宣言」。絵本を活用して街づくりを目指す、新しい取り組みだ。じつは三島市内にはもとより、絵本作家が開いた書店や民間団体が運営する図書館など、絵本にまつわるお店や施設がたくさんあるそう。絵本にゆかりのある場所を巡りながら街を旅したら、三島のさらなる魅力や絵本の新しいおもしろさに気づけるに違いない。

三島在住の絵本作家さんが4人も!絵本にゆかりの多い街。


絵本で街を盛り上げるために始まった“絵本のまち三島”プロジェクト。「絵本のまち三島宣言」のメンバーのひとり、絵本作家・えがしらみちこさんの書店〈えほんやさん〉で、三島市役所産業文化部 文化のまちづくり課の課長・加藤裕子さん、中村麻美さんにも集まっていただき、プロジェクトについてお話を聞いた。
右)三島市役所産業文化部 文化のまちづくり課 課長・加藤裕子さん左)同課の中村麻美さん
右)三島市役所産業文化部 文化のまちづくり課 課長・加藤裕子さん
左)同課の中村麻美さん
加藤さん「『三島を絵本のまちにしたい』という思いは、二代前の担当者の頃からありました。じつは三島にはえがしらさんを含め、三島にゆかりのある絵本作家さんが4人もいるんです。〈えほんやさん〉の隣には、絵本作家の宮西達也さんが開いた〈TATSU'S GALLERY〉があって、絵本に関連するお店が並んでいる地域はなかなかないと感じています」

えがしらみちこさん、宮西達也さんに加え、三島出身のスギヤマ カナヨさんと三島在住の竹山美奈子さんの4人の絵本作家が、「絵本のまち三島宣言式」に立会人として同席。今後もアドバイザー的な役割で、三島市の取り組みをサポートするそう。
絵本専門店〈えほんやさん〉のオーナーであり、絵本作家としても活躍するえがしらみちこさん。
絵本専門店〈えほんやさん〉のオーナーであり、絵本作家としても活躍するえがしらみちこさん。
中村さん「もともと三島には古くから詩人・評論家として活躍された作家の大岡信さんや、児童文学者の小出正吾さんなどがいらっしゃいました。三島の豊かな自然が多くの作家さんを育んだのかなと感じます。そのおかげか、市民が自ら絵本の魅力を広める活動がかねてよりありました」

個人宅の一室で本の貸し借りを行う〈てんとうむし文庫〉が開かれたり、ボランティア団体が本の読み聞かせを行ったりなど、三島には絵本のまち宣言の前からさまざまな活動が根付いている。さらにここ数年で絵本に関するお店や施設がより増えたという。えがしらさん「私が三島に移住して本屋さんを始めたのは2018年頃です。同じ頃から絵本に関するお店は増えているように思います。文庫活動や読み聞かせなど、絵本に関する活動をしている方々が集まって、何か取り組みができたらおもしろそうと思っていたので、『絵本のまち三島宣言』について声をかけてもらったときは嬉しかったですね」

こういった絵本にまつわる土壌ができあがっているからこそ、三島市民の文化・芸術に関する意識は非常に高い。三島市役所が市民に対して行ったアンケートでは、「身近で気軽に文化芸術に触れられること」、「子どもが文化芸術に触れられること」を求める声が多かったそう。市民の熱量もまた高まっている。

 

市民が自発的に活動を。官民一体で街を盛り上げる。


“絵本のまち三島”の魅力を伝えるツールとして、見せていただいたのは「絵本のまち三島絵屏風」のパンフレット。こちらの冊子はもともと、“絵本のまち三島”の活動を市役所全体で推し進めるために、各課に配った資料のひとつだという。すべて中村さんの手描きで作られているというから驚きだ。中村さん「最初は1枚のじゃばら折りの冊子だったのですが、印刷の関係で今は裏表のパンフレットにしています。こちらは説明のために庁内に配ったもので、開いたときにほかのメンバーにも興味を持ってもらえるよう大きく広げられる形にしました。

この冊子を配る前に、市役所の上層部を説得するために作った資料もすべて手描きです。副市長が『小さい頃、飛び出す絵本が好きだった』と話されていたので、仕掛け絵本のような造りにしました」
いずれの資料も家庭に絵本がある風景や、学校に絵本が浸透するイメージなど、絵本がある街の素晴らしさをイラストとともに伝えている。絵本風の資料にしたのは、文字だけの資料よりもその魅力を伝えられると信じたからだ。加藤さんと中村さんが所属する文化のまちづくり課以外にも、絵本を活用した取り組みが広がってほしいという思いも込められている。

加藤さん「絵本自体が自由なツールなので、どの課でも取り入れやすいと思うんです。福祉や教育などの課題解決にも役立つのではないでしょうか。ほかの課でも今年度、絵本を活用してLGBTQの理解を深めるための講演を行いました。こういった取り組みをどんどん広げていきたいですね」
加えて、官民一体の活動にも力を入れる。“絵本のまち三島”のロゴマークを公募したり、三島フードフェスティバルに合わせて「音と絵本のマルシェ」を開催したりなど、市民を巻き込んだ取り組みを積極的に行ってきた。

加藤さん「特に今後、力を入れたいのは『まちかど絵本箱』の取り組みです。街歩きをした際に、本に出会えるような仕組みづくりをしたいと考え、『まちかど絵本箱』の看板を作り、各所でコーナーを整備しようと考えています。飲食店をはじめ、本棚を置いているお店が市内にあるので、点を線としてつなげていきたいですね」小学校や中学校でも“絵本のまち三島”の本棚を作ったり、保育園で絵本をテーマにした運動会が開催されたり、学校や各所でも自発的な取り組みが進んでいる。市役所宛てに「“絵本のまち三島”の取り組みに協力したい」という市民の声も届いているそうで、活動の輪がどんどん広がっている。

観光客にも“絵本のまち三島”を楽しんでもらいたい!


これらの活動を通して、子どもだけでなく大人にも絵本のパワーが届いている。5月開催の「みしま花のまちフェア」で絵本の読み聞かせを行ったところ、感慨深い瞬間に出会えたそうだ。

中村さん「『JRさわやかウォーキング』に参加した観光客の方がたくさん来てくださいました。年配のご夫婦が読み聞かせに大変感激してくださって、『今日はすごく素敵な日だったから、帰ったらカレンダーにはなまるをつけなきゃね』と話されているのを聞いて、私も大変感動しました」
〈えほんやさん〉で子どもから大人まで多くのユーザーと触れ合っているえがしらさんも絵本の魅力をこう語る。

えがしらさん「小さい頃に読んで一緒に過ごしたキャラクターや物語は、大きくなっても支えてくれる存在だと感じます。ずっと心のなかで側にいて寄り添ってくれて、迷ったときに『あの主人公ならどうするかな』と力をくれる瞬間があると思うんです。そんなパワーのある絵本が私は大好きです。子どもも両親に絵本を読んでもらった時間を忘れないし、愛情表現ができる良いツールだと思っています」
 
絵本のパワーを多くの人に伝えるため、市民だけでなく市外の人や観光客にも三島を楽しんでもらいたいと考える。三島市はコンパクトな街なので、スポットを回りやすいのもポイント。絵本を楽しめるおすすめのスポットも教えていただいた。

加藤さん「私は、ひと箱の本棚にそれぞれオーナーさんがいる〈あひる図書館〉をおすすめします。会員にならなくても立ち寄って本が読めますし、絵本以外の本もたくさんあります。もちろん三島市役所の『まちかど絵本箱』にもぜひ見に立ち寄ってみてください」そのほかにも木工のワークショップを行う〈根継商店〉には建築関係の絵本が置いてあるそう。市役所と一緒に持ち運べる小さな本棚「おちゃのま絵本箱」のワークショップを開催したり、絵本の読み聞かせを行ったりなど、さまざまな活動を実施している。2023年12月にオープンしたばかりの〈ジンジャーブックスカフェ〉もおすすめスポットのひとつ。三嶋大社近くにあるお店で、絵本だけでなくアートの本を多く取り揃える。中村さん「さりげなく本を置いていたり、絵本に関する活動をしていたりなど、そんなお店や場所がまだたくさんあると思うので、意外なところももっと掘り起こしていきたいですね。市民のみなさんが参加しやすいよう今後の取り組みを考えていきます」

加藤さん「11月30日の絵本の日に合わせて、三島市では11月にたくさんのイベントを行います。イベントのときはロゴマークが入ったフラッグが大通りに並ぶので、ぜひ市内外の多くの方に盛り上がってもらいたいです。新しい絵本に出会うことで心の豊かさにもつながると信じています」
昨年の宣言以降、さまざまな取り組みが行われるなかで、その効果を着実に感じているとえがしらさん。

えがしらさん「実際に私の店にも市外から多くの方が来てくれています。佐野美術館を観て、カフェや三嶋大社などに行ったあと、お店に来てくれた方もいました。お店の前に私と宮西さんが描いたデザインマンホールがあるのですが、それを見つけてふらっと立ち寄ってくださる方も。さらに今度、『絵本のまち三島宣言』をきっかけに絵本作家さんが三島に移住するなど、街の変化を感じています。ゆくゆくは“三島=絵本のまち”というイメージがしっかり定着してくれたら、嬉しいなと思います」
絵本の魅力を活用して、子どもから大人までウェルビーイングの向上を目指す三島市。お話を聞いてから市内を巡ってみると、確かに絵本の良さを感じられる場所やお店が点在しており、自然とあちこちに立ち寄ってみたくなる。これから三島はさらに絵本のようなワクワク感のある街へ変化していくのであろう。


Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki



いつもと違う静岡県観光には、三島市の〈三島市役所〉〈えほんやさん〉〈あひる図書館〉〈根継商店〉〈ジンジャーブックスカフェ〉がおすすめ。
 

三島市役所


所在地静岡県三島市北田町4-47
アクセスJR「三島駅」から徒歩約15分、伊豆箱根鉄道「三島田町駅」から徒歩約5分
電話番号055-975-3111
URLhttps://www.city.mishima.shizuoka.jp/ipn003128.html
開庁時間8:30〜17:15
閉庁日土曜、日曜、祝祭日


 

えほんやさん


所在地静岡県三島市中央町4-10
アクセスJR「三島駅」から徒歩約10分、伊豆箱根鉄道「三島田町駅」から徒歩約5分
電話番号055-900-1052
URLhttps://tenkiame.com/ehonyasan/
Instagram@ehonyasan.ega
営業時間10:00〜17:30
休業日木曜


 

あひる図書館


所在地静岡県三島市芝本町9-12 風土2階
アクセスJR「三島駅」から徒歩約8分
URLhttps://mamatone.net/ahiru-library/
Instagram@ahiru_library
営業時間・休業日詳しくはホームページをご確認ください。


 

根継商店


所在地静岡県三島市本町7-30 1階
アクセスJR「三島駅」から徒歩約13分、伊豆箱根鉄道「三島広小路駅」から徒歩約2分
電話番号055-955-5770
URLhttps://netsugi.jp/shop/netsugi_shouten/
Instagram@netsugi_shouten
営業時間10:00〜17:00
休業日火曜


 

ジンジャーブックスカフェ


所在地静岡県三島市芝本町3-10
アクセスJR「三島駅」から徒歩約7分
URLhttps://gingerbooks.base.shop
Instagram@ginger_books_cafe
営業時間平日11:30〜17:30、土日祝10:00〜18:00
休業日水曜、木曜


 
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