作り手を応援するべく立ち上げたギャラリー併設の本屋さん


東京を代表する観光地のひとつ「谷根千」は、谷中・根津・千駄木の頭文字をとった下町エリア。夏目漱石など文豪にゆかりのある“本の町”として有名であるとともに、猫が多く住む“猫の町”としても知られている。そんな谷根千に、猫の名前がついた本屋がある。緑の屋根が目印の〈ひるねこBOOKS〉だ。
「谷中は夏目漱石や森鴎外などが住んでいた地域として有名で、文学との親和性が高い町です。他の地域に比べ、本屋さんの数も多いと感じます。小さな店や路地があり、古き良き面影が残っているのも特徴。都会なのに親しみやすい雰囲気が好きですね」と話してくれたのは、〈ひるねこBOOKS〉の店主・小張隆さん。小張さんは「自分の好きな町で本屋を開きたい」と考え、2016年に〈ひるねこBOOKS〉をオープンした。前職は児童書出版社での営業。作家を呼んでイベントができるギャラリー併設の本屋を開いたのは、“新しい作家を応援したい”という思いがあったからだ。

「イラストレーターさんや絵本作家さんなどを招いて展示を行っています。出版社の編集者の方などが展示を見て、新しい本の出版につながることもあるようです。本を売るだけでなく、出会いの場になるような発信拠点としての活動がしたかったので、実際に新しいつながりが生まれると大変うれしいですね」
柔らかい雰囲気の店内が素敵。女性や子ども連れのお客さんが多く訪れるそう。
柔らかい雰囲気の店内が素敵。女性や子ども連れのお客さんが多く訪れるそう。
2021年4月からは同じ通りの中で、より敷地の広い現在の場所へ移転。児童書を中心に、北欧やフェミニズム、ジェンダー関連の本など幅広く揃える。もちろん、猫の本も。人の心を和ませるお店を目指し名づけた「ひるねこ」という店名は、小張さんが昔飼っていた猫の昼寝姿から連想したそう。穏やかで温かみを感じられる〈ひるねこBOOKS〉は、町の雰囲気にもよく合っている。

新しい出会いが生まれる本も、旅であり冒険


〈ひるねこBOOKS〉は古書を中心に、新刊や少部数発行の個人出版物(リトルプレス・ZINE)なども置いている。新刊などは小張さんのセレクトによるものだが、古本はお客さんが持ち込む本を買い取りラインナップに加えている。

「自分が選ぶ本だけではテーマが狭まり、どうしても窮屈な印象になります。でも、古本の買い取りによってさまざまな本が舞い込むことで良い隙が生まれているように感じます。ここにしかない個人出版物もいくつかあるので、お客さまにとって新しい出会いにつながればいいなと思います」
「本は新しい出会いを生む、心の旅のようなもの」とさらに話してくれた小張さん。今回、旅におすすめの本として紹介してくれたのは、「ぼうけん図書館 エルマーとゆく100冊の冒険」。2020年に立川にオープンした美術館「PLAY! MUSEUM」で開催された「エルマーのぼうけん展」がきっかけで誕生した書籍だ。
「人気展示のひとつ『ぼうけん図書館』というコーナーで各界で活躍する100人が『冒険』をテーマに本を紹介しました。この書籍では、『ぼうけん図書館』で集められた絵本や児童書がまとめて紹介されています。

新しいものに出会える旅は、冒険のようなもの。その楽しさやワクワク感を本書を通じて感じてもらえるのではないかと思います。実際に行けない場所も、本なら無限にどこまでも行けますし、読むと実際に冒険(旅)したくなるはず。本の中の人物に託して旅をする、それが心の奥底まで沁みこんでくるというのが冒険の本の良いところだと感じます」
〈ひるねこBOOKS〉自体も今後は本の出版に力を入れていきたいと考えているそう。これまで絵本を9冊出版してきたが(2024年10月に10冊目が発売予定)、これからは絵本に限らずさまざまな本を出版していく予定だという。小張さんは書店運営以外にも、谷根千の盛り上げにも力を注ぐ。地域の書店や飲食店などを紹介する「不忍ブックストリートマップ」の代表となり、谷根千の魅力を発信し続けている。そのほかにも〈ひるねこBOOKS〉のある「谷中キッテ通り」でイベントやワークショップを開催。じつは通りの名前は近隣の店舗と協力して6年前につけたそうだ。
「町は関係性のなかで作られる」と最後に話してくれた小張さん。古き良きお店と新しいお店がうまくつながり、融合しながら谷根千はもっともっとおもしろい町になっていきそうだ。

Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う東京都観光には、台東区谷中の〈ひるねこBOOKS〉がおすすめ。

ひるねこBOOKS


所在地東京都台東区谷中2-5-22-101
アクセス地下鉄千代田線 「根津駅」「千駄木駅」から徒歩約7分
URLhttps://www.hirunekobooks.com/
Instagram@hirunekobooks
営業時間12:00〜20:00(土日祝〜18:30)
休業日火曜、第2水曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。