映画とカフェと本屋が一体となった複合施設、出町座にある、唯一無二の本屋。


京阪電鉄・叡山電鉄の出町柳駅から高野川の河合橋、賀茂川の出町橋を渡って東へ歩くこと約5分。出町桝形商店街のアーケード街に「出町座」という文化複合施設がある。映画館やカフェ、ギャラリーなどとともに〈CAVA BOOKS〉も入居している。

店主の宮迫憲彦さんに話を聞いた。「本と映画がこれほど近くにあるのは、日本中おそらくここだけだと思います」。そんな唯一無二の魅力を持ちながら、外には看板もない。なぜか。「別にCAVA BOOKSと思って来てもらわなくてもいいというか。映画館もカフェもコンパクトにまとまったこの場所に価値があるので。カルチャー拠点としての「出町座」に来てもらえればいいんです」。
出町柳はかつて、福井から京都へ魚介類を運んだ鯖街道の終点となっていた街。この土地らしさに加え、フランス語で「元気かい?(Ça va?)」という意味があることから〈CAVA(サヴァ)〉を店名にしたそうだ。京都在住のアートユニット、tupera tupera(ツペラ ツペラ)さんが描いたブックカバーも鯖がモチーフになっている。

人が人を呼び、カルチャー好きが集まる拠点に。


映画館にある本屋だからといって、映画関連の本ばかりではないと宮迫さんは言う。「基本的にはオールジャンルです。ただ、ビジュアルの本とテキストの本に分けるとしたら、読み応えのあるテキストの本が多いです。例えば料理なら、作り方ではなく『この料理はなぜ生まれたのか?』みたいな、上流にあるものを考えるような本ですね」。こうした品揃えになったのは、この土地ならではだという。「東に京都大学、西に同志社大学があって、学生だけでなく学術書を書かれる先生もお客さんとして来てくれます。実用書やビジネス書よりも少し読み応えのある本のほうがウケがいいんです」。社会の変化や客のニーズにあわせて、本屋のラインアップは成長していく。
出版社で働きながら〈CAVA BOOKS〉の店主を務める宮迫さん。旅と本というテーマで選んだのは、イタリア文学者・翻訳家として活躍した須賀敦子さんのエッセイ集「トリエステの坂道」。トリエステはイタリアの詩人、ウンベルト・サバにゆかりのある町だ。「タイトルの短いエッセイがお気に入りです。須賀さんはサバの作品を翻訳するなど、とても影響を受けた詩人。須賀さんの亡き夫も好きな詩人だったそうです。そんなサバが詩に書いた町を、亡き夫の思い出とともに旅をするという話です」。本好きとして、作品に出てくる土地を旅する気持ちにも共感できるという。「聖地巡礼というか、とてもいい体験ですよね。読んでいると『旅したいな』と思う本です。物語の世界に入ったときの、場所や時間を越える感覚。あれが好きで昔から海外文学を多く読んでいました。だから私にとっては、本は旅そのものというイメージもあるんです」。
2017年のオープン以降、本を通じてカルチャーを発信してきた〈CAVA BOOKS〉。最近は発信だけでなく、人や情報が集まるのを感じているという。「やっぱり場所があるっていうのが、とても大事で。私は会社員なので、普段はお店には居ませんが、名刺を置いて帰られる人もけっこういます。そういうご縁から一緒に仕事をしたり、イベントを企画したり、できそうですよね」。京都の繁華街からは少し離れているが、それでも人が集まってくる。「出町座でしか観られない作品もたくさんあります。出町という立地もそうですが、上映作品や揃えている本も必ずしも王道とはいえません。だからこそ好きでいてくれる人がいるのだと思います」。出町座ができてから周囲には古本屋のほか、京都国際写真祭(KYOTOGRAPHIE)の事務局兼ギャラリーもできたそう。人が先か、場所が先か、文化的な場所になりつつあるという。「人が人を呼んで、出町座が多くの人が集まるカルチャー拠点になっていったらいいですね」。


Text:Atsushi Tanaka
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う京都府観光には、京都市の〈CAVA BOOKS〉がおすすめ。

CAVA BOOKS


所在地京都市上京区三芳町133 出町座1F
アクセス出町柳駅から徒歩約5分
URLhttps://cvbks.jp/
Instagram@cavabooks
営業時間09:00台〜22:00台(日によって変動)

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