京都の桜を楽しむ秘訣


春の京都旅はいつだって憧れの的。古くからあるお寺や神社で見る桜は奥ゆかしくて、美しさが際立って感じられる。叶うならば静かにお花見を楽しみたいけれど、いまや京都は世界を代表する観光都市。あきらめ半分でいた私に、旅慣れた先輩がJR東海の「春の特別拝観」プランがおすすめだと教えてくれた。なんでも、通常とは違う時間に拝観できたり、非公開の場所に入れたり、混雑を避けてお花見を満喫できるらしい。今回は、アクセスのことも考えて京都駅から地下鉄を乗り継いで行ける醍醐寺の早朝貸切拝観を予約した。
「醍醐の花見」の翌年に建てられた唐門(国宝)
「醍醐の花見」の翌年に建てられた唐門(国宝)
醍醐寺といえば、豊臣秀吉が行った「醍醐の花見」が有名だ。秀吉は畿内各地から桜を集め、700本以上の桜を境内に植えたという。現在も、たくさんの品種が約1か月にわたって咲き継ぎ、見頃の時季に行けば、なにかしら花に出合えるというのも嬉しい。
西大門(仁王門)
西大門(仁王門)
地下鉄「醍醐駅」から歩いて13分ほど、お寺の入口にあたる総門へたどり着くと、早速、桜が出迎えてくれた。早起きして良かったと、思わず心の声が漏れる。

これからの拝観に期待を膨らませながら、桜並木を抜けて受付の西大門(仁王門)を目指す。今回、早朝に拝観できたのは、国宝の金堂や五重塔がある伽藍エリア。ちょっと心配だったスマホでの受付も、スタッフさんに教えてもらってスムーズに完了。
奥に見えるのが国宝の金堂
奥に見えるのが国宝の金堂
まずはご挨拶という気持ちでご本尊が祀られている金堂へ。次第に見えてくる桜色に心を弾ませて歩みを進めると、言葉を失うほど素晴らしい春景色が待っていた。“咲き乱れる”とはまさにこのことで、ただただ空を仰いで魅了されるばかり。心が自然に清らかになっていく気がする。
五重塔の周りも桜が美しい
五重塔の周りも桜が美しい
ゆっくりとした時間は五感を研ぎ澄ませるのか、日常とは異なる感覚が目覚める。鳥の声に耳を澄ましてみたり、五重塔の造りに美しさを見出したり、桜以外に感動する自分を、少し褒めたくなる。

京都でこんなに桜をゆっくりと楽しめたのは初めてかもしれない。

 

秀吉の栄華、ここに極まる


早朝拝観の受付で、伽藍エリア以外の共通拝観チケットを購入できると案内を受けた。拝観者が多いときは、チケットを購入するのにも並ばなければいけないらしい。朝から動いている私には、まだまだ時間はたっぷりある。三宝院エリアと霊宝館エリアも拝観することにした。
表書院
表書院
三宝院の見どころは建物と庭だ。秀吉が「醍醐の花見」を契機に整備し、絢爛豪華な襖絵が飾られた表書院は国宝に指定されている。
三宝院庭園
三宝院庭園
国宝建築にふさわしく、庭は国の特別史跡・特別名勝だ。「醍醐の花見」の計画と時を同じくして、秀吉みずからが設計に携わったという。秀吉は完成を見届けられなかったが、夢は受け継がれ、桃山時代を代表する庭として今に伝わる。
藤戸石
藤戸石
三宝院庭園には、秀吉の命により“天下の名石”と謳われる「藤戸石」が聚楽第から運び込まれた。かつて織田信長も所有したといわれる権力の象徴たる石だそうだ。

桜の華やかさとはまた違う、荘厳な美しさを感じられる。時間を忘れて眺めていたくなる庭だ。もうひとつ心を動かされたのが室内に咲く桜。平成に浜田泰介画伯によって描かれた襖絵で、月の光を受けて花びらが舞う姿に風情を感じる。桜を堪能したあとだからこそ、繊細な筆致にいっそう感じ入るものがあるのかもしれない。

 

花を愛でながら昼食を

霊宝館
霊宝館
醍醐寺は建築物以外にも国宝や重要文化財に指定された寺宝を数多く所有する。その数、なんと75,000点以上に及ぶと聞く。霊宝館では春と秋に特別展が行われ、テーマに沿って寺宝を公開している。

また、国宝の薬師三尊像をはじめ、平安時代の作を中心とする仏像も見どころだ。
霊宝館庭園のしだれ桜。見頃の時季の写真
霊宝館庭園のしだれ桜。見頃の時季の写真
エリア内にはおよそ25本から30本ほどのしだれ桜が植わる。また、見頃の時季になると、霊宝館の裏手にあるしだれ桜も見学が可能だ。ほかにも、樹齢約100年を迎えるソメイヨシノや八重桜など、順に咲き継いでいく。これだけ多くの桜を見たのは、いつぶりだろう。事前に下調べして楽しみにしていたのが、霊宝館のエリア内にあるフレンチカフェで食べるランチ。店名の「ル・クロ スゥ ル スリジェ」はフランス語で“桜の樹の下で”という意味で、しだれ桜が満開になると、名前通りのロケーションで食事をいただけるのだ。しだれ桜が散ってしまったあとも、手毬のように可愛らしい八重桜が彩りを添える。トリコロールの器に、メイン、サラダ、デザートがそれぞれ入ったランチをいただいた。メニューはパリと大阪にお店を構える「ル クロ」のオーナーシェフ、黒岩功氏による監修だ。醍醐寺のご本尊が薬師如来であることにちなんで薬膳ハープスープが付くというのも味わい深い。

食べ終わって時計を見たら、まだ12時30分。午前中だけで、かなりの充実だ。桜を満喫できる朝観光にはまってしまいそう。ほかの特別拝観プランにも行ってみようと思う。



Text:Riko Hanahusa
Photo:Kazuaki Toda


 

いつもと違う京都府観光には、京都市伏見区の〈醍醐寺〉がおすすめ。
 


醍醐寺


所在地京都府京都市伏見区醍醐東大路町22
アクセス地下鉄東西線 醍醐駅から徒歩約13分
電話番号075-571-0002
URLhttps://www.daigoji.or.jp/

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