子育て世代も気軽に立ち寄れる“公民館”のような場所

古くは東海道五十三次の宿場町として栄えた静岡県三島市。街中には美しい川が流れ、緑も多く、自然が豊かな街として知られている。自然と利便性が融合した三島は住みやすい街として知られており、ここ最近ではますます移住者が増えているそうだ。そんな三島を「人が温かい街」と話すのは、絵本専門店〈えほんやさん〉代表のえがしらみちこさんだ。

「私ももともとは他県出身で、結婚を機に三島へ越してきました。当時は知り合いもいないし、見知らぬ土地での子育てにすごく寂しい想いをしていて…。そんなときにたまたま寄った小さなお店のスタッフさんに『いつでもおいでね』と声をかけてもらえて、とても感動したんです。あと、三島の方って赤ちゃんを連れて歩いていると、よく話しかけてくれる印象があります。優しい人が多いのでしょうね」
絵本専門店〈えほんやさん〉代表のえがしらみちこさん。絵本作家としても活動している。
絵本専門店〈えほんやさん〉代表のえがしらみちこさん。絵本作家としても活動している。
この経験から、特に自分のような子育て世代にとって“何かあったときに頼れる場所”が必要と感じたえがしらさん。2014年に絵本作家として活動をはじめ、他県の絵本専門店を訪れた際に、そのヒントを得ることになる。

「子育ての話をちょっとしながら、おすすめの本を紹介するという、お客さんと店員さんの何気ないやり取りが素敵だなと思って。いつでも立ち寄れる、まるで公民館みたいな場所だなと感じたんです。三島にも子育て世代の人たちが頼れる場所があるとよいなと思ったことが、お店の立ち上げのきっかけになっています」根底にあったのは、「絵本を介して人と人がつながれる場所が作りたい」という思い。三島市の協力や、クラウドファンディングへの挑戦を経て、2018年に三嶋大社からほど近い現在の場所に店を構えた。今では子育て世代を中心に、若い女性や子育てがひと段落した世代まで幅広い人々が集まる憩いの場となっている。
店の外には、三島市と地元の建設会社が協働して作ったデザインマンホール。イラストはえがしらさんの描き下ろし。
店の外には、三島市と地元の建設会社が協働して作ったデザインマンホール。イラストはえがしらさんの描き下ろし。

絵本のパワーを多くの人に伝えたい


〈えほんやさん〉では、主に「親子でコミュニケーションがとれる本」を選定して取り扱っているそう。その選書理由は、えがしらさんのこれまでの子育て経験によるもの。

「娘が生まれ、子育てをするなかで、絵本が持つパワーを実感できたのが大きな理由です。読み聞かせをするとちゃんと反応してくれるし、こういう表現で笑うんだという気づきも得ることができる。絵本って子どもとのコミュニケーションを助けてくれるツールだと気づいたんです」
絵本はえがしらさんと、店長である妹の福江さんで相談しながら選定している。
絵本はえがしらさんと、店長である妹の福江さんで相談しながら選定している。
「絵と文章のバランスが優れた絵本や、自分とは異なる感性で作られた絵本にも惹かれて、よく仕入れています」と、自ら絵本作家として活動するえがしらさんならではの選書理由も。そんなえがしらさんが今回、旅に出る前に読みたい本として選んでくれたのは、うえだまことさんの「りすとかえるとかぜのうた」と「りすとかえるのあめのたび」だ。
「りすとかえるがいつも旅の妄想をしながらも、なかなか旅に出かけないという話なんです。作者のうえださんの高校時代の思い出がベースになっているのだとか。小さな生き物たちがこそこそと旅の話をしている雰囲気が愛らしくて、いやされます。旅って当日も楽しいですけど、計画を立てているときが一番盛り上がったりもしますよね。こんな旅をしたいと計画を立てるのが、じつは旅の醍醐味なのかも。絵と文章のバランスもさることながら、うえださんの絵の表現や言葉も素敵で、夢中になって読める本です」
絵本の読み聞かせや作家の原画展など、さまざまなイベントを行い、街の人との交流も図っている〈えほんやさん〉。今年からは「大人が絵本に出会う夜」という新しいイベントをはじめ、子どもだけでなく大人にも絵本のパワーを届けている。

「コロナ禍は通販に力を入れるなどさまざま試みましたが、やっぱりお客さまひとり一人とよい時間を過ごすことが大事だなと気づきました。お店に来て『気持ちが明るくなった』『楽しかった』と言ってもらえると本当にうれしいです。これからも皆さんの心のよりどころになれるような場所を目指していきたいと思います」旅に思いを馳せながら、日々を楽しむりすとかえる。日常があるから、旅の非日常をおもしろく感じることができるし、帰る場所があるからこそ旅は楽しいのだ。〈えほんやさん〉も、きっと三島の人たちにとって「ただいま」と言って帰りたくなる場所になっているに違いない。


▼記事の中で紹介されている絵本作家・植田真(うえだまこと)さんによる「旅のプレイリスト」はこちらから



Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う静岡県観光には、三島市の〈えほんやさん〉がおすすめ。

えほんやさん


所在地静岡県三島市中央町4-10
アクセスJR三島駅から徒歩約10分
電話番号055-900-1052
URLhttps://tenkiame.com/ehonyasan/
営業時間10:00〜17:30
休業日木曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。