日常から少し離れて見たいもの、触れたいものとたっぷり向き合うそんな旅。記憶に刻まれ心を豊かに満たしてくれる、自分だけの大切な時間。
VISONを訪ねる旅〜前編〜
伊勢神宮への参拝客で賑わうJR伊勢市駅から、高速に乗って30分ほど。三重県のほぼ真ん中に位置する多気郡多気町に、VISON(ヴィソン)はある。と、ここで「なるほどちょっとオシャレに作った巨大ショッピングモールね」と、早飲み込みをすることなかれ。ショッピングや娯楽だけではなく、オリジナリティの高い“ここだけ”のスポットが点在しているのがVISONの大きな魅力なのだ。地元を愛し自然を愛する、多くの人の想いを受けて開かれた新しい村。とっておきの場所と人を、訪ねる旅に。
人は、“つくって食べる”生きもの。
古(いにしえ)のキッチンウエアと空想で遊ぶ「KATACHI museum」。
周りとは雰囲気が明らかに異なる、箱のような建物。ここ「KATACHI museum(カタチ ミュージアム)」は、陶芸家・造形作家の内田鋼一さんがプロデュースし館長も務める、“食にまつわる古い道具”の博物館だ。VISONのテーマのひとつである「食」を、飲食やショッピングとは違った視点でとらえた文化施設として設立されたという。
展示物はすべて、若い頃から世界中を旅してきた内田さんが、長い年月をかけてコツコツと集めてきたプライベートコレクション。アフリカ、南米、ヨーロッパ、中国、日本など国籍はもちろん時代もバラバラで、中には紀元前のものもあるという。「同じ用途であっても、国や時代によって違うカタチになっていたりします。あえて説明文を設置していないので、道具を見ながら「これをどんなふうに使っていたんだろう」「どうやってこのカタチにたどりついたんだろう」と、イマジネーションを働かせて楽しんでいただける場所になっています」(KATACHI museum shop 店長・杉野貴将さん)
ベンチに座ってもう一度、全体を見渡す。じっくり見たつもりでもまだ、見逃しているものがありそうだ。
次回の楽しみに、とっておく。
VISONを周って、三重を知る。
地元出身のオーナーが仕掛けるカフェ&レンタルモビリティの店「raf」。
「米田達弥くんてね、地元でずっと農業してる友達で。VISONができる前から一緒にお米を作ってたんですけど、3年前から国産でインディカ米をやってみようっていうことで。サリークィーンってバスマティの日本版で専用米を作ってもらっているんです」。
多気町に戻ってからは、溶接屋をしながらデザインをしたり、廃材を使ったアート作品を作ったり。そのうち什器や普段も使えるものを作るようになると、服屋さんがオーダーしてくれるようになった。
もうこれは図々しく、厚かましいくらいでいこうと。夜な夜なお酒飲みながら大工さんや職人さんらを口説いていったんです。違うものの見方とか考え方とかを話したり、このままだと地域も元気がなくなっていくよーっていうのを、時間かけて。そうすると、やっぱりどっかでそういう気持ちを持ってる人たちもいたりして。そこから段々アイアンアートだけじゃなくて内装も任されるようになって、そのうち本格的に内装をやり出して…… で、建築方面を伸ばしていった感じですかね。そんなして戸建てや大きなリノベーションみたいなことを、この10年くらいはやっているかな。設計士さんや職人さんと大きなチームみたいにして動いていて、それを軸としてやっています」
「デザイン集団の〈TOMATO〉ってあったじゃないですか。若い頃はあれに影響受けてね。京都でクリエイターの団体を作ろうかって思ってたんですよ。好きなことを専門的にやってる人たちをグループ化したら、どんな仕事でも取れるんじゃないかなって考えとって。結局こっちに帰ってきましたけど、それで今も、結果的にそういう形で仕事してますね」
「巨大施設が入ることで雇用が生まれるっていうのは確かにそうなんですけど、人材には限りがある。だから結局ぜんぶ引き抜くってことになるじゃないですか。商店街の小さなお店屋さんがつぶれるのと一緒で、地域が一気にぐらつくのは見えたんで、基本は反対だったんです。仕事以外で地域力を上げたいって思ってたんで。(VISONに)参画すれば築いてきた信頼がゼロになるだろうし、そこにこだわりまくっとった人間なんで……でも、それをおいてでもやらんと、と。地域の次の課題が、もう見えていたんです」
地域の魅力を伝えていくこと。そして、人との関わりをどうしていくか。
「rafの共同経営者の西井(勢津子)さんは自転車を専門としている人なんですが、そこから“自転車を使う”ことを考えました。ただ、広大な山道のVISONなので、自転車だと移動だけでも大変だなと」
その想いが、VISON内のレンタルモビリティとなって生きている。rafが扱うのは、電動キックスクーター。
「街中だったら無人で簡単にレンタルされてるものだけど、この田舎でその部分をスマートにしたところで来てる人って楽しめるの?って思って。だったら地元の人ともコミュニケーション取れて、この辺りの空気感も楽しめる場所にしたらいいんじゃないかと、飲食店をやることにしたんです」
まさかの、カフェメインのスタートではなかったということに驚いた。
「若い人はもちろんですが、僕と同世代とか上世代の方にももっと利用してもらいたい。ここは大台ヶ原があって、鈴鹿山脈があって…… 天気がころころ変わっていろんな景色が楽しめるんです。(キックスクーターに)乗って走ると本当に気持ちいいんで、VISONの距離感とか広大さ、自然、空気を感じて過ごしてほしいですね」。
「地元で暮らしているからこそ、地元とVISON、そして来てくれる人たちとの仲介役をしていきたいですね。娘も友達と一緒に自転車で来て、カフェでお茶したりしてます。そんなのも、VISONがあるからできること。彼女らが大きくなった時には、ここもしっかり雇用ができるような体制ができていたらいいなとは思いますね。ま、それまで持てばですけど(笑)」
Text: Kei Yoshida
Photo: Hako Hosokawa
いつもと違う三重県観光には、VISON〈KATACHI museum〉〈raf〉がおすすめ。
KATACHI museum / museum shop(カタチ ミュージアム)
所在地 | 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 アトリエ4 |
アクセス | JR松阪駅からバスで約40分 |
電話番号 | 0598-67-0725 |
@katachi_museum_vison | |
営業時間 | 10:00〜17:00(入館は16:30まで) |
休業日 | 年中無休 |
その他 | 入館料 1,000円(税込) |
raf − ramble and fox(ラフ)
所在地 | 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 サンセバスチャン通り13 |
アクセス | JR松阪駅からバスで約40分 |
電話番号 | カフェ 0598-67-8400/レンタルモビリティ 070-7570-3556 |
@raf_vison | |
営業時間 | カフェ 11:00~18:00/レンタルモビリティ 12:30~17:00(16:30受付終了) |
休業日 | 水曜 ※祝日の場合は営業 |
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