みんなが集まれる場所をつくりたい。60歳を前にしての独立開業

大小の道路が東西と南北に直行し、碁盤の目に例えられる京都のまち。JR京都駅と交差しながら南北にのびる烏丸通と、京都市役所と交差しながら東西にのびる御池通。2本の主要道路が交わる烏丸御池には、京都市営地下鉄・烏丸御池駅がある。そこから歩くこと約10分。烏丸通から4本目の高倉通を北へ進み、押小路通を越えたあたりに、小西徹さんが営む〈レティシア書房〉はある。

「このあたりは昔、住宅ばかりでした。最近はおしゃれなカフェなど個性的なお店も増えてきて、“ちょっと賑わい”です」と小西さんが教えてくれた。あたりは静かな住宅街に、老舗のお店や個人商店がぽつりぽつりと点在するひそかなエリアだ。
〈レティシア書房〉の開店は2012年。小西さん60歳目前での独立開業である。どんないきさつがあったのか。振り返ってもらった。

「大学を卒業して入ったのは、輸入盤レコードを仕入れる会社。でも10年くらいで倒産するんです。それで商品を卸していた会社に拾ってもらいました。地元でチェーン展開していたレコードショップです。お店をひとつ任せてもらい、レコードやCDだけでなく音楽誌や新刊本も扱うようになりました。そこでは20年くらい働かせてもらったと思います。

最初の10年はCDショップ。後の10年はCD&BOOKのお店。でも親会社は別業界の会社だったので、社長交代を機にレコードショップ事業から撤退。次に声をかけてもらったのが、大手チェーン店の本屋さんでした。300坪の新店を立ち上げで、店長をしましたが、新刊書店の現状に疑問を抱きました。そうしているうちに50代後半。いつかは自分の本屋さんもやってみたかったですし、みんなが集まれる場所をつくりたいという思いもありました。まあ、失敗しても少し我慢したら年金が入ってくる。そんな思いにも後押しされてお店を始めることにしたんです」。

スッと入れて、スッと出ていける。敷居ゼロのお店であり続けたい


音楽の世界から本の世界へ。さまざまな経験は、お店づくりにも反映されている。新刊本、古本、従来の出版取次を介さないミニプレス(小数部発行本/自費出版物)、CD、ギャラリースペースで展示・販売しているアート作品など、さまざまな表現者の作品と出会える。特にミニプレスは、全国から「置いてほしい」と依頼が寄せられ、取り扱い数は常時200を超える。基本的には来るもの拒まずで、3か月間は預かっているという。
「レコードショップでの経験が大きいですね。あるときインディーズバンドが『置いてほしい』と自作のCDやカセットテープを持ってきたんです。店頭に置いたら瞬く間に完売。『これは売れないだろう』と思った作品の中にも、売れた作品はいくつもありました。それで思ったんです。自分のセンスはそんなもんかと(笑)」。

自分で枠を決めて収めるようなやり方はしない。この考え方は、ミニプレスだけにとどまらない。例えば、以前は数が少なかった海外文学も、常連客の推薦や要望に応えていくうちに充実していった。「自転車で10分くらいのところに同志社大学 があるんですよ。英文科の学生の何人かがよくお店に来てくれて、『この本ない?あの本ない?』なんて話しているうちに増えましたね。ウチの棚は、お客さんが作っていっているんです」と小西さんは言う。新刊本と古本はあえて分けずに、同じ棚に並べているのもユニークだ。「京都の人は本質を見ているというか、気取ったものに抵抗がある気がします。新刊本でも古本でもミニプレスでも、読みたかったら買う。それでいいんだと思います。『どうだ、かっこいいだろ』みたいな、お客さんの先を行き過ぎると嫌がられますから(笑)」。

 
いろいろな人の意見を取り入れて商品を選んでいる小西さん。旅に出る前に読みたい本として選んだ本も、知り合いから紹介されたミニプレスだった。イラストレーター・まごさんの「よあけのたび」。「京都でイラストレーターをしている作者が、ひたすらカフェのモーニングを食べて、写真や文章で食事の感想やお店の雰囲気を紹介している本です。
京都市内のカフェも9つ紹介していますが、どこもあまり雑誌では紹介されていないお店ばかり。お店の地図も入っているので、この本を片手にカフェ巡りもできます。そういう意味では旅したい気持ちになれる本だと思います」。当初、作者のまごさんは、あるカフェに「こんな本を出したので置いてもらえないか」と持ち込んでいた。そのカフェの店長が小西さんにつないでくれ、〈レティシア書房〉で扱うことになった。今では続編も出版されるほど好評だという。
1967年に公開されたフランス映画〈冒険者たち〉。物語のヒロインにちなんで名付けられた〈レティシア書房〉。どのような冒険を続けていくのか、今後の野望・展望を小西さんに聞いた。
「大それたことは考えてないです。みんなが集まれる場所にしたいと始めたお店なので、いろいろな若い人に来てほしいですね。70代になって若い人とおしゃべりできるのは、とても楽しいですから。本だけでなく、ギャラリーの展示やお店のBGMなど、本を売っているお店の雰囲気を楽しんでもらえたらうれしいです。昔、ある人に『お坊ちゃん商売』と言われたことがあるんです。例えば大阪なら、お店を活気づけたり、新しいものをどんどん入れたり、お祭りみたいにしていかないと商売を続けるのは難しい。でも京都には、ひとつのものしか売っていないのに、ずっと続いているお店がたくさんあるんです。おとなしいお坊ちゃんのように、日々、淡々とやっている。お店側も気取らない、お客さんも構えない。誰もがスッと入って、スッと出て行ける。そういう敷居ゼロのお店でありたいなと思います」。

Text:Atsushi Tanaka
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う京都府観光には、京都市中京区の〈レティシア書房〉がおすすめ。

レティシア書房


所在地京都市中京区高倉通り二条下がる瓦町551
アクセス京都市営地下鉄 烏丸御池駅から徒歩10分
電話番号075-212-1772
Instagram@laetitia__books
営業時間13:00〜19:00
休業日月曜、火曜

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