京都の思い出をより鮮明に残す。スマホに頼らない旅のすゝめ。
デジタルデトックスの旅【京都編】
東京から新幹線で2時間少し、JR京都駅に降り立った。今回のひとり旅のテーマは、デジタルデトックス。便利なスマホを使わず、事前に調べた情報をもとに目的地をめぐる。いつもはスマホのスクリーンショットに頼ってここまでしっかり調べ上げないから、行く先を想像しながらワクワクする時間はとても新鮮だった。この日の京都は数年ぶりの大雪で、一段と美しい光景に。凛とした空気感に、思わず背筋が伸びた。さて、駅のコインロッカーにスマホを預けたら、いよいよ旅のはじまり。今回はどんな旅になるんだろう?
〈かみ添〉で出会う京都の古き良き伝統。
よし、まずはひとつ目の目的地に向かうため、鞍馬口駅を目指そう。いつも頼りにしているスマホが手元になく、心細い気持ちはあるのに、これから始まる旅に期待値が高まっている自分がいる。路線図を見ながら乗る路線を確認。切符を買うのは久しぶりで、ちょっとドキドキする。
「基本的に、唐紙は和紙に胡粉を塗り、版木を使って雲母で文様を型押ししてつくられます。作業はすべて手作業です。普段は和紙職人や版木を作る職人、襖や障子を貼る職人とチームになって仕事をしていて、私は主にデザインの考案、染めと手刷りの作業を担当しています」
寺院の壁紙や屏風をつくったり、修復したりなど、建築関係の仕事が多いと話してくれた嘉戸さん。現在は企業からの依頼も増えていて、伝統技術や昔ながらの仕事のやり方を生かしながら、唐紙づくりをおこなっている。
「木版刷りは印刷の基礎ですから、非常に興味を持ちました。作業自体はすごく単純なのですが、長年つくり続けても飽きない不思議な魅力があります。和紙や顔料、接着剤の役割の布海苔(ふのり)など、自然のものだけを使っているところも健康的で好きな部分です」と嘉戸さん。2009年にショップ兼工房をオープン。当初より続けているのが封筒やメッセージカードなどの販売だ。
「小さい商品は手に取りやすいので、唐紙の魅力を伝えるきっかけになるのかなと思っています。京都には昔からおもたせ文化があり、添えるメッセージカードや便箋を探している方も多いんです。手紙を受け取った方が興味を持ってくださって、お店に来ていただくこともあります」
〈LIFETIME〉で異国のガーデンツールにひと目ぼれ。
入口には〈LIFETIME(ライフタイム)〉と書かれたボードがある。そっと覗き込むと、おしゃれなガーデニング用品が見えた。気になって入ってみることに。〈LIFETIME〉はガーデンツールや日用品などの輸入雑貨を扱うセレクトショップ。と思いきやアパレル用品、インテリア雑貨など、お店のなかはさまざまなジャンルの商品であふれ返っていた。奥へ進んでいくと、次々と発見があって、見て回るだけでも楽しい気分に。
オーナーの説田 稔さんに聞くと、「何のお店ってよく聞かれるのですが、じつは決まったコンセプトはないんです。時代の流れや、お客さんの声を見聞きしながら、常に変化を続けているお店です」と答えてくれた。
「それ以来、すっかりガーデニングにハマって、道具を集めたいと思うようになったんです。音楽をやっていたこともあって、道具に対するこだわりが強い傾向があったのかもしれません。でも当時の日本には自分が使いたいと思うガーデンツールがなくて…。そのときに海外で過ごしていた時期に訪れた、都市部のホームセンターを思い出しました。日本と違ってホームセンターにおもしろい道具がたくさん揃えてあるんです。なかでもガーデニングの本場であるイギリスのクラシカルな道具が好きで、少量から輸入するようになりました」
現在はイギリスだけでなく、ポーランドやドイツなどヨーロッパを中心に、ガーデニング用のはさみやラバーブーツ、じょうろなどを取り寄せている。説田さんのセンスが光る品々にファンも多い。若い女性から、年配の方まで、老若男女問わずさまざまな方が訪れる。
「この『スモック・クラウド』というシャツは、子供が着ているスモックの大人版が欲しいと思ったことをきっかけにつくったんです」と話す説田さん。その発想もユニークだ。海外の生活を経て、人生の価値観が変わったとも話してくれた。改めて日本の好きなところを再発見したという。古くから繊維の街として名高い岡山のデニム生地や帆布のエプロンも豊富だ。楽しそうに商品の良さを語る説田さんに接客してもらったら、買い物の時間がより一層充実した気がする。
独創性あふれる〈To.〉の創作イタリアンに感動。
さぁ、もう夕方だ。今日の最後の目的地である居酒屋〈To.(トゥ)〉へ急がなければ。京都に来たら絶対に食べに行きたいと、一週間も前から予約していたのだ。
まずは北大路駅まで戻ろう。〈LIFETIME〉を出て、近くのバス停まで移動する。
2020年にオープンした〈To.〉は、イタリアのエッセンスを加えた創作料理を提供する居酒屋。人気イタリアン〈fudo(フウド)〉の姉妹店で、オープン当初から注目を浴びていたお店だ。コンセプトは「人と人がつながる場所」。まるで友人宅に招かれたかのようなアットホームな雰囲気で、女性ひとりでも入りやすい居心地の良い空間が魅力的。カウンター席に座って目の前にあるメニューを見ると、気になる料理がたくさん! 選び切れずに迷っていると、吉田さんがおすすめの料理を紹介してくれた。
「もともと創作料理が好きだったのですが、京都のカフェで8年半料理長を務めた際、ジャンルを問わない料理をいくつもつくった経験が今につながっているような気がします。あと、〈To.〉は台所をイメージして作られているので、じつは2口タイプのコンロや電子レンジといった限られた設備しかないんです。制約があるなかでいろいろ試行錯誤したことも、創作の幅を広げてくれたのだと思います」と吉田さん。料理だけでなくお酒にもこだわりがあり、特にナチュラルワインや日本酒は珍しい銘柄を揃えている。料理に合う一杯をおすすめしてもらい、ペアリングを楽しむ。おいしくてどんどんお酒が進んでしまいそうだ。
「数種類をちょこちょこ食べたい、数人でシェアしたいなどさまざまな要望があるので、量の調節ができる料理のときは必ずひと声かけているんです」と吉田さん。〈To.〉が女性に人気のお店という理由がわかった気がした。
帰りの新幹線で、今回の旅を振り返る。めったに見ることができない京都の雪景色は幻想的で、息を飲むほどの美しさだった。澄んだ空気のなか、自然と心が洗われるような気持ちになった。
思いつきで始めたデジタルデトックスの旅だったが、不思議といつもの旅より思い出が色濃く残っている気がする。いつもであればスマホのマップばかり見て歩いていたし、ことあるごとに写真ばかり撮っていたであろう。でも顔を上げて歩いたことで京都の街をより感じられたし、道中で〈LIFETIME〉に出会うことができた。写真に撮らなくても〈かみ添〉の唐紙の美しさや、〈To.〉の素晴らしい料理の数々は、心に鮮やかに残っている。スマホに気を取られ、いつもよく見えなかったものを、今回は心から感じることができたに違いない。
Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki
いつもと違う京都府観光には、〈かみ添〉〈LIFETIME〉〈To.〉がおすすめ。
かみ添
所在地 | 京都市北区紫野東藤ノ森町11-1 |
アクセス | 京都市営地下鉄烏丸線「鞍馬口駅」より徒歩16分 |
電話番号 | 075-432-8555 |
URL | https://kamisoe.com/ |
営業時間 | 12:00〜18:00 |
休業日 | 月曜、その他不定休 |
LIFETIME
所在地 | 京都府京都市北区紫野上築山町21 |
アクセス | 京都市営地下鉄烏丸線「北大路駅」より徒歩16分、京都市バス「建勲神社前」より徒歩1分 |
電話番号 | 075-415-7250 |
URL | https://lifetime-g.com/ |
営業時間 | 13:00〜17:00 |
休業日 | 水曜、日曜 |
To.
所在地 | 京都府京都市中京区高田町500 ポポラーレ御池1F |
アクセス | 京都市営地下鉄烏丸線・東西線「烏丸御池駅」より徒歩3分 |
電話番号 | 075-708-3720 |
URL | https://www.fudokyoto.com/to/ |
営業時間 | 17:00~23:00 |
休業日 | 木曜 |
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