唯一無二のクラフト・ジントニック缶を製造する〈LONGGOOD/長良酒造〉を訪ねる。

クラフトジン蒸溜所を巡る旅【LONGGOOD/長良酒造編】

2022年「ASIA'S BEST BAR」のベスト100に選ばれた岐阜の〈BAROSSA cocktailier(バロッサ コクテリエ)〉は、県外からもファンが訪れる名店。オーナーの中垣繁幸さんは数々のカクテルコンテストでの受賞歴を持つ名バーテンダーだ。そんな中垣さんが岐阜市に蒸溜所を立ち上げ、今までにない缶入りのクラフト・ジントニックの製造にチャレンジしているという。トップバーテンダーが手がける自作のクラフトカクテル、その味わいやこだわりを直に感じに、今回は〈LONGGOOD/長良酒造〉を訪れる。

「自宅でも本格的なジン・トニックを楽しんでほしい」という思いから


愛知県名古屋駅から電車に揺られて約20分。岐阜県岐阜市に到着した。岐阜市は岐阜城を冠する金華山などの観光スポットがある自然豊かな地域で、市の中心部には清流長良川が流れる。今回訪れる〈LONGGOOD/長良酒造〉は長良川のほど近く、岐阜駅からバスで15分ほどの位置にある。明治建築の土蔵をリノベーションした酒造は風情があって、思わず写真に収めたくなるようなレトロな外観。
〈LONGGOOD/長良酒造〉入り口
〈LONGGOOD/長良酒造〉入り口
「ここは明治に建築された土蔵で、空襲の激しかった岐阜市で戦火を逃れた数少ない場所です。蒸溜所を作るなら、 “岐阜”の良さが伝わる場所と考えていたので、ここに決めました」と話してくれたのは、代表取締役の中垣繁幸さん。

中垣さんは遠心分離機や真空調理器をはじめとしたカクテルの新しい技法の先駆者でもあり、コンペティション審査員やセミナー講師、レシピ開発など、国内外で活躍するプロのバーテンダー。岐阜市内にあるバー〈BAROSSA cocktailier〉には県外からもファンが訪れる。そんな中垣さんが蒸溜所を立ち上げたのはコロナ禍がきっかけだったという。
〈LONGGOOD/長良酒造〉〈BAROSSA cocktailier〉ともに代表取締役の中垣繁幸さん。金土日の夜はバーテンダーとして、平日の日中は酒造家としてカクテルづくりに励んでいる。
〈LONGGOOD/長良酒造〉〈BAROSSA cocktailier〉ともに代表取締役の中垣繁幸さん。金土日の夜はバーテンダーとして、平日の日中は酒造家としてカクテルづくりに励んでいる。
「新型コロナウイルス感染症の流行で、バーを休業せざるを得ない状況になりまして…。期限付きの酒販免許を取り、店のお酒を販売するなどしていたんですが、バーのお客様から『マスターが作ったカクテルを詰めて売ってほしい』といったありがたい声をたくさんいただいたんです。もともと国内外の蒸溜所を巡って製法を学ぶことが好きでしたので、いつかは自分で酒造りをしてみたいという気持ちがあって、この機会にチャレンジすることにしました」

2021年に物件を決め、2022年には内部のリノベーションを終えて酒造免許を取得。酒造メーカーの立ち上げに関わるなど、もとより酒造りに関する知識は十分持っていた中垣さんだったが、実務を学ぶべく山梨の〈ファーイースト ブルーイング〉での研修後、2022年に〈LONGGOOD/長良酒造〉を本格的にオープンさせた。さまざまなカクテルがあるなかで、なぜジントニックを選んだのか。そこには中垣さんのカクテルに対する熱い思いがあった。
LONGGOODシリーズ3種。左から「黒文字+ベルガモット」、「カフィアライム+ローズ」、「グリーンティー+ジャスミン」。
LONGGOODシリーズ3種。左から「黒文字+ベルガモット」、「カフィアライム+ローズ」、「グリーンティー+ジャスミン」。
「『高品質なカクテルをご家庭にお届けする』をテーマに考えた中で、世界中で愛されているリフレッシング・カクテルであり、日本のバーでも“1杯目の定番”として定着しているジントニックを題材にしたいと考えました。

現在、コンビニで缶ビールは100〜1,000円単位のものまで幅広い価格帯の商品が販売されていますが、缶カクテルは100円台の低価格帯で香料や添加物が多用されているものがほとんどです。バーに訪れるカクテル愛好家は従来の缶カクテルでは満足されず『缶ビールは飲むけど、缶カクテルは飲まない』という方が多くいらっしゃいます。対して従来の缶カクテルのユーザーの多くは、バーのカクテルは敷居が高いと感じる方が多いようです。この両者間にある深い溝を埋めたいという思いで『缶製品、だけど中身は高品質』というクラフト・ジントニックを製品化したいと考えました」

海外では栓を空けてすぐ飲めるRTD(Ready To Drink)製品が流行しているとも話してくれた中垣さん。日本にもその流れが来ると見越していたのも、缶カクテルに挑戦するきっかけのひとつになったようだ。

 

すべて手造りのクラフト・ジントニック「LONGGOOD」


〈LONGGOOD/長良酒造〉のクラフト・ジントニックは、現在全部で3種類。いずれもクラフトジンやトニックウォーターの製造から、ブレンド、缶詰めまで、すべて手作業で行っている。
蒸溜所内には減圧蒸留器や遠心分離機、タンクなどの機器が揃っている。
蒸溜所内には減圧蒸留器や遠心分離機、タンクなどの機器が揃っている。
「2つのタンクで約2,600本の缶ができる計算です。将来的に1ヶ月あたり10,000本の製造を目標にしています。缶に詰める作業は骨が折れますが、みなさんにご自宅でおいしいカクテルを楽しんでもらいたいという思いで、頑張っています」と中垣さん。クラフトジンは、ベーススピリッツを白樺の活性炭で濾過したのち、ハーブやスパイスなどの天然ボタニカルを漬け込んで再度蒸留する。ボタニカルの組み合わせを変えることによって、キャラクターの違う個性的なクラフトジンを生み出すことができる。多くの蒸溜所では複数のボタニカルを一度に蒸留する製法が主流だが、「LONGGOOD」ではボタニカルを1種類ずつ蒸留した原酒をブレンドする方法で、3種類のクラフトジン造りを行っている。
1種類ずつ素材を漬け込み、蒸留させ原酒を作る。写真は自社栽培しているコリアンダー。
1種類ずつ素材を漬け込み、蒸留させ原酒を作る。写真は自社栽培しているコリアンダー。
「複数種の原酒をあらかじめ蒸留しておいて、製品ごとにブレンドしています。自分がバーテンダーだからこそのやり方ですね。『LONGGOOD』の強みでもあります」

入れるタイミングによってもちろん香りや味わいは変わる。仕上がりをイメージして逆算する作業は、さすが名バーテンダーの技だ。香料も一切使用しないという徹底ぶりで、バーで味わえる本格的なカクテルに負けないおいしさと充足感をお届けすることを目標にしている。
蒸溜所内には一般のお客さんは通常入れないが、年4回ほど蒸溜所内を見学できる「蔵開き」を行っている。
蒸溜所内には一般のお客さんは通常入れないが、年4回ほど蒸溜所内を見学できる「蔵開き」を行っている。
さらにトニックウォーターの製造に使う水にもこだわりがある。仕込み水は環境省の「おいしさが素晴らしい名水百選」で全国5位に輝いた長良川の伏流水と同じ水脈の水を使用している。

「岐阜の水はそれだけでもおいしいのですが、溶存酸素量を減らす脱気システムや、マグネシウムやカルシウムを除去する軟水システムなどを使い、より飲み心地の良い仕上がりを目指しています。クラフトビールやナチュラルワインなど質の高いものを求める人に向けて、選んでもらえるようなカクテルを造りたいと考えているので、お酒の本質である水にはとてもこだわっています」
〈LONGGOOD/長良酒造〉ほど近くを流れる長良川。
〈LONGGOOD/長良酒造〉ほど近くを流れる長良川。
1,300年前から続く古典漁法「鵜飼」が有名な長良川。現在も毎年5月から10月に「ぎふ長良川の鵜飼」が行われている。長良川のエッセンスを取り込んだ「LONGGOOD」は、2023年度「鵜飼開き」のウェルカムドリンクとして採用された。岐阜を代表するお酒として、今後も注目を浴びそうだ。

 

自然に恵まれた岐阜の豊富な素材の良さを伝えたい


自然が豊かで南北に長い岐阜県は、じつは多くの農作物が栽培されている地域。中垣さんは自店の〈BAROSSA cocktailier〉でも、地元産の果物を使った自然派のカクテルを積極的に提供しているそう。

「岐阜は果物をはじめ、おいしい素材が豊富な地域。岐阜出身の人間としてその良さを多くの人に伝えられたらという思いがあります。『LONGGOOD』シリーズでも、岐阜県産の白川茶や和紅茶、伊吹山麓の黒文字(クロモジ)などを使っているので、ジントニック缶を通じて『岐阜県』の魅力を感じてもらえたら嬉しいですね」
トップバーテンダー兼酒造家として、レシピ開発に関わることも多々ある中垣さん。昨年からは地域物産専門店とコラボし、季節限定の新たなジントニックづくりに励んでいる。その第三弾として、今年の春には岐阜県柳津町の高桑星桜の葉を使ったジントニックを販売した。
岐阜産の甘夏。来年の販売に向けて今から仕込みを。
岐阜産の甘夏。来年の販売に向けて今から仕込みを。
「旬の素材を使ったカクテルを、旬の時期に楽しんでもらいたいので、準備は1年前から始めています。採取した素材を新鮮なうちに蒸留し原酒を溜めて、次の年にブレンドして活用しています。昨年秋に販売したキンモクセイのジントニックも大変人気だったので、次の販売に向けて前回より多くの蒸留原酒をストックしているところです」
中垣さんのこだわりと思い入れが詰まったクラフト・ジントニック「LONGGOOD」。ここまで妥協せずに造られたナチュラルなカクテル缶は唯一無二の存在と言える。ただ、自然派のカクテル缶は今までにないジャンルで、軌道に乗るまで多くの苦労があったそう。都内の展示会への参加や、酒販店への直接営業なども行い、今では北海道や関東、関西、四国などでも「LONGGOOD」を購入することができるようになった。
 
さらに4月からは都内の百貨店や、オーガニック・スーパーのチェーン店での販売スタートが決定しているそう。「LONGGOOD」の知名度は着実に高まりつつある。

 

岐阜の自然を感じながら至福の一杯を


〈LONGGOOD/長良酒造〉の物販スペースではクラフト・ジントニックの購入のほか、試飲(有料)もできる。購入して自宅でじっくり味わうのも良いが、岐阜の自然を感じながら現地で味わうジントニックもまた格別だ。サーバーから注ぐタップ・カクテルのジントニックも楽しめる。
物販スタッフの小泉さんはもともと〈BAROSSA cocktailier〉の常連だったそう。中垣さんのことを「親しみやすいけど、ストイックで情熱がある人」と話す。
物販スタッフの小泉さんはもともと〈BAROSSA cocktailier〉の常連だったそう。中垣さんのことを「親しみやすいけど、ストイックで情熱がある人」と話す。
今回いただいたのは、女性的な仕上がりをイメージして開発したという「LONGGOOD カフィアライム+ローズ」。香り高く、柔らかな口当たりでローズの余韻が華やか。物販スタッフの小泉さん曰く、スパイスカレーとの相性も良いそうだ。

スッキリとした爽快感があり、男性的な味わいの「黒文字+ベルガモット」、老若男女誰でも飲みやすく、白川茶の香りが清々しい「グリーンティー+ジャスミン」と、それぞれ個性が際立っているので、飲み比べてお気に入りの一杯を探すのがおすすめ。
「LONGGOOD」のロゴは、「L」と「G」をもじった月のマークが印象的。「のんびり、ゆったりお酒を楽しんでほしい」、「人々の生活の一部にスッと寄り添えるようなブランドでありたい」という意味が込められているそうだ。
「『LONGGOOD』は長良川の“長良”を直訳したもの。地元の人には親しみがあり、県外の人には良い印象を持ってもらえるような気取り過ぎない名称を目指しました。これからも自分たちのルーツである岐阜を大切にし、岐阜に来てくれた方が喜んでくれるような製品作りに励んでいきます。これまでの出会いに感謝し、今自分たちができることを淡々とやることが、『LONGGOOD(長く良い関係)』につながっていくと信じています」
ひと口飲んでカクテル缶の認識が変わるような衝撃。「LONGGOOD」はカクテル缶の新しい扉を開くきっかけとなる製品だと感じた。「LONGGOOD」に出会ったことで、中垣さんがバーテンダーとして作るカクテルもぜひ飲んでみたいと新たな興味が沸いてくる。また、岐阜に訪れてカクテルの奥深さを感じたい。



Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki



いつもと違う岐阜県観光には、岐阜市の〈LONGGOOD/長良酒造〉がおすすめ。


LONGGOOD/長良酒造


所在地岐阜県岐阜市玉井町12 土蔵
アクセスJR岐阜駅から車で約12分、または岐阜バス長良橋経由線「長良橋」から徒歩約4分
電話番号058-262-1099
URLhttps://longgood.jp/

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。