モノづくりの精神が息づく街・常滑。

やきものの街・常滑をめぐる。

日本六古窯(にほんろっこよう)のひとつである愛知県常滑。古くからやきものの産地として知られ、街中には製陶所の煙突や土管などが今でも残り、レトロな雰囲気を醸し出している。今回は、そんな常滑の街でやきものの歴史と伝統を感じる旅。千年のやきものの歴史を持つ常滑で、モノづくりの精神を感じてみよう。

〈INAXライブミュージアム〉で土の魅力に触れる体験を。


名古屋駅から名鉄常滑線に揺られ35分ほど。知多半島の西海岸中央部に位置する常滑市は自然あふれるのどかな地域。良質な陶土を活かし、平安時代末期からやきものづくりが盛んに行われてきた。甕や壺などの日用雑器のほか、土管や急須など多くのやきものが生み出され、今でも常滑焼として多くの人に親しまれている。
駅の東側にある“やきもの散歩道”には、製陶所の煉瓦造りの煙突が未だに残っており、その歴史を感じることができる。今日の目的地は、やきもの散歩道に沿ってめぐった先にある〈INAXライブミュージアム〉。水まわり製品のメーカーである当時のINAX(現LIXIL)が1986年に「窯のある広場・資料館」を開設したのを皮切りに、「世界のタイル博物館」「土・どろんこ館」などの施設を追加し、2006年にグランドオープンした文化施設だ。2012年には「建築陶器のはじまり館」が加わり、現在は6つの館がある。常滑はINAX創業の地であり、創業者の祖先は常滑の陶工だったそう。大正時代に創業者の伊奈長三郎と、その父・初之烝が建築家のフランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテル旧本館のスダレ煉瓦(後のスクラッチタイル)を製作したことをきっかけに、INAXの前身である伊奈製陶株式会社を常滑に立ち上げた。長年モノづくりに関わってきた企業として、〈INAXライブミュージアム〉では「発見と継承」をキーワードに、やきものの展示や体験教室などを通して常滑の近代産業の歴史、土とやきものの魅力・ものづくりの心を伝え続けている。
特に人気なのは「土・どろんこ館」の体験教室「光るどろだんごづくり」。大人も子どもも楽しめる教室で、これまで35万人以上の人々が体験し、話題となっている。
「光るどろだんごづくり」教室、考案者の磯村司さん。
「光るどろだんごづくり」教室、考案者の磯村司さん。
「光るどろだんごづくり」教室誕生のきっかけは、磯村さんが左官職人である榎本新吉さんに左官(建物の壁などをコテで塗り仕上げる作業のこと)の技術と材料を活用したどろだんごづくりを教えてもらったことから 。美しい出来映えに感動し、ミュージアムでも同様の体験を提供できないかと、やきもの用の粘土を使ったオリジナルのどろだんごづくりを考案した。作り方は、削る・色付け・磨くの3工程で非常にシンプル。約60分の体験で、土の感触や色の変化などモノづくりの楽しさを存分に味わうことができる。
 
粘土の粒子は2ミクロン以下で非常に細かいのが特徴。表面を押さえる・磨くなどの工程で粒子の向きを揃えることで、光をきれいに反射できるようになり、美しい光沢が生まれる。のちの工程でどろだんごをまんべんなく磨くためには、最初に真球に仕上げることが大切なのだそう。金属の道具を使い、出っ張っている部分を丁寧に削っていく。
まずは粘土を丸めた「タネ」の形を道具を使って整える。
まずは粘土を丸めた「タネ」の形を道具を使って整える。
次に化粧どろを手に少量のせ、押さえつけるように転がしながら徐々に着色していく。複数の色を混ぜることもできるが、今回は初めてなので単色でチャレンジ。厚塗りしてしまうとどろだんごが湿ることで、輝きが鈍ってしまうため、薄く均一に色をのせることがポイント。最後は磨きの作業。粒子の向きを揃えて、光るどろだんごに仕上げていく。どろだんごが乾いていたほうがよく光るので、時折手で転がしながら水分を飛ばし、磨くという作業を繰り返す。まず1分ほど優しく全体を押さえつけたあと、少し力を加えて表面を整えていく。強く磨きすぎると化粧どろを削ってしまう可能性があるため、力加減が大切だ。
瓶の口を使って表面を磨く。
瓶の口を使って表面を磨く。
夢中になって手を動かしているとあっという間に数十分が過ぎていた。こんなに集中してモノづくりに没頭するなんていつぶりだろう? 最初の状態と完成品を比べてみると、シンプルな工程ながらもここまで美しく仕上げることができるのだと驚いた。同時にもっとピカピカに仕上げてみたいと、創作意欲がくすぐられる。「2007年から定期的に全国で『光るどろだんご大会』を開催していました。大人も子どもも対等に競えるのが魅力で、毎回さまざまなドラマが生まれるんですよ。自分なりに道具を工夫して、大会に挑んでくれる人もいて、表現力の豊かさに毎回驚かされます。モノづくりの楽しさをもっと多くの人に知ってほしいですね」と磯村さん。
※コロナ禍以降は休止しています。
まさに、大人が童心に帰れるどろだんごづくり。楽しく遊びながら、土に触れるよろこびの原点を感じることができた。

常滑焼の古窯を活かした〈バー&ビストロ 共栄窯〉。


〈INAXライブミュージアム〉で体験教室を楽しんだ後は、やきもの散歩道に戻りランチを。常滑焼を製造してきた工場と窯を改装した〈バー&ビストロ 共栄窯〉を訪ねる。
〈バー&ビストロ 共栄窯〉は2014年にオープン。10年前、この場所は陶芸教室およびギャラリーとして運営されていたが、ギャラリー閉店に伴い、窯を取り壊すしかないという状況に陥っていたという。歴史的建造物を次世代につなぐべく、当時常滑市でレストラン〈大野町ダイニング kurama〉を運営していた合同会社バーライフがこの場所を借りて、〈バー&ビストロ 共栄窯〉を立ち上げた。「〈大野町ダイニング kurama〉で地元のお客さまから、ギャラリー閉店のお話を聞いたことが立ち上げのきっかけです。弊社のオーナーは以前ギャラリーに伺ったことがあり、『こんな素敵な場所でレストランが経営できたら』と考えていたようで、お客さまとのご縁に感謝しています」と話してくれたのは、店長の鈴木さん。
〈バー&ビストロ 共栄窯〉店長兼バーテンダーの鈴木雄太さん。こちらのお店ではスタッフ全員がバーテンダーの資格を持っているそう。
〈バー&ビストロ 共栄窯〉店長兼バーテンダーの鈴木雄太さん。こちらのお店ではスタッフ全員がバーテンダーの資格を持っているそう。
店内はバーカウンターを増設するなど多少のリノベーションを施したのみで、ギャラリー時代の内装をそのまま活かしている。お店の中央には、1954年の倒炎式角窯(とうえんしきかくがま)を活用した空間があり、その迫力に圧倒された。ここでは1971年まで実際に土管を焼成していたという。表面には釉薬が付着し、流れた跡があり、ここで常滑焼を製造していた人たちの時間とモノづくりの歴史に思いを馳せることができる。
古窯をそのまま活かしたバースペース。
古窯をそのまま活かしたバースペース。
〈バー&ビストロ 共栄窯〉では空間だけでなく、随所に常滑の魅力を感じられる工夫を凝らしている。料理提供時は積極的に常滑焼の食器を利用。モノづくりの街である常滑は作家さんが多く、職人に依頼して食器をつくっていただくこともあるそう。そのほか知多半島の食材を積極的に活用するなど、地元の魅力をふんだんに盛り込んでいる。
知多牛と知多豚のハンバーグはジューシーで食べ応え抜群。食器は陶芸家・大澤哲哉さんの作品。
知多牛と知多豚のハンバーグはジューシーで食べ応え抜群。食器は陶芸家・大澤哲哉さんの作品。
ランチのおすすめは、メイン料理を選べる「セレクトランチ」。肉または魚介のメイン料理に、地元野菜を使った前菜、ライスまたはパンがセットに。メインは知多牛を使ったビーフシチューやスープカレーなど、6種類から。お好みでドリンクやデザートを追加することもできる(別料金)。ランチと陶芸体験がセットになった、常滑らしいコースもある。職人の方が丁寧に教えてくれるので、初心者にもおすすめだそうだ。

「共栄窯に来ていただけたら、常滑のすべてが体験できるようなそんなお店にしていきたい」と鈴木さん。素敵な空間で、地元の食材を楽しんだら、常滑の魅力をさらに発見できそうだ。

癒しの空間〈Take Coffee Roastery〉でコーヒーブレイク。


最後はやきもの散歩道でひと休みして帰ろう。近年、やきもの散歩道はおしゃれなカフェや雑貨、ギャラリーが増え、若い人たちにも人気の場所になっている。
訪れたのは、カフェ兼雑貨屋さんの〈Take Coffee Roastery〉。ドライフラワーとアンティークが印象的な店内は居心地が良く、癒しのひとときが過ごせる。
〈Take Coffee Roastery〉店主の竹本真規子さん。
〈Take Coffee Roastery〉店主の竹本真規子さん。
もともとキッチンカーで、コーヒーをメインとした移動販売を行っていたという店主の竹本さん。やきもの散歩道にあるお店の駐車場などでも出店する機会があり、その縁で物件を紹介してもらったのだそう。

「ちょうどここで何かお店を始めたいなと思っていたタイミングでコロナ禍になって…。移動販売が難しくなったので、まわりの後押しもあり、思い切ってお店を開業することにしました。以前このお店はカフェだったので、内装をそのまま活かせて、調度品などを足すのみで、1〜2ヶ月の短期間でお店をオープンできたんです」
カフェラテ550円、チーズケーキ620円。チーズケーキはまったりとした口当たりで濃厚な味わい。
カフェラテ550円、チーズケーキ620円。チーズケーキはまったりとした口当たりで濃厚な味わい。
天井を彩るドライフラワーやテーブルを飾るアンティーク雑貨、食器に至るまで、竹本さんの洗練されたセンスやこだわりが詰め込まれている。ゆったりとした時間が流れる落ち着いた空間で、今日の旅路をしっとり振り返るにはぴったりの場所だ。
かねてよりお菓子づくりが趣味だったという竹本さん。提供するスイーツ類はすべて竹本さんの手づくり。コーヒーは厳選した豆を常時6〜7種類そろえており、自家焙煎している。スイーツとの相性も抜群だ。
人気メニューのプリン 500円。昔ながらの固めプリンで、懐かしい味わい。
人気メニューのプリン 500円。昔ながらの固めプリンで、懐かしい味わい。
入り口付近は物販スペースとなっており、アクセサリーや雑貨小物など、竹本さんセレクトの素敵な品々が並ぶ。県内に限らず、各地の作家さんの作品を集めて販売しているのだそう。

「気になる作品があれば、Instagramなどですぐ連絡して取り寄せるんです」と竹本さん。ここだけの一期一会の出会いが楽しめる。
ほっとするような落ち着いた雰囲気が魅力の〈Take Coffee Roastery〉。あまりの居心地の良さについつい長居してしまいそうだ。次、常滑に来た際は、本を読みながらまったり過ごしてみたい。
千年続くやきものの歴史から、自然とモノづくりの文化が育まれてきた愛知県常滑市。街中には古い窯や煉瓦の煙突などが残り、窯業で繁栄した時代の面影を見ることができた。近年ではやきものの歴史を紡ぐ場所や、モノづくりのおもしろさを味わえる体験など感性を刺激されるようなスポットがたくさんでき、現代にもその伝統はしっかり引き継がれていると感じる。新旧が入り混じり、常滑はこの先どう変わっていくのだろうか。また訪れてその奥深さを感じてみたい。


Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki



いつもと違う愛知県観光には、常滑市の〈INAXライブミュージアム〉〈バー&ビストロ 共栄窯〉〈Take Coffee Roastery〉がおすすめ。
 

INAXライブミュージアム


所在地愛知県常滑市奥栄町1-130
アクセス常滑駅から徒歩約25分
電話番号0569-34-8282
URLhttps://livingculture.lixil.com/ilm/
営業時間10:00〜17:00
休業日水曜(祝日の場合は開館)、年末年始
入館料大人700円、高・大学生500円、小・中学生250円、シニア(70歳以上)600円、障がい者手帳所持者無料(付き添い1人まで)
体験料光るどろだんごづくり(60分)900円/個


 

バー&ビストロ 共栄窯


所在地愛知県常滑市北条2-88
アクセス常滑駅から徒歩約4分
電話番号0569-34-7786
URLhttp://bar-kyoueigama.com
営業時間昼11:00〜14:30(L.O.13:30)、夜17:00〜24:00(L.O.23:00)
休業日年中無休 ※年に数回の臨時休業あり


 

Take Coffee Roastery


所在地愛知県常滑市栄町3-72
アクセス常滑駅から徒歩約10分
Instagram@takecoffee_roastery
営業時間平日12:00〜17:00、土日祝11:30〜17:30
休業日木曜、金曜


 
※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。