世界遺産・白川郷から車で10分。山道を登った先にある、泊まれる自然學校


世界遺産・白川郷合掌造り集落を有する岐阜県大野郡白川村。霊峰白山をはじめとする山々に囲まれたこの地では、冬は優に背丈を超す高さまで雪が降り積もる。厳しい自然環境の中、ひとびとの暮らしが営まれ、独自の文化が育まれてきた。そんな“日本の故郷”とも言える原風景を求め、多い年には年間200万人を超える観光客が訪れる。「トヨタ白川郷自然學校」は、その白川村の雄大な自然とふれあい、アクティビティを満喫し、ゆったりと食事や温泉、宿泊が楽しめる体験型ホテルだ。
JR高山駅から車で約1時間。観光客で賑わう合掌造り集落がある白川村荻町にたどり着く。さらに白山白川郷ホワイトロードを走ること10分。トンネルを抜けた先に、木々の緑に囲まれた「トヨタ白川郷自然學校」が現れる。かつては小さな集落があったが、豪雪のために人々が集団離村したこの馬狩(まがり)地区に、トヨタ自動車株式会社が白川村や環境NGOと連携し、「トヨタ白川郷自然學校」を開校したのは2005年のことだ。
キャッチフレーズは“Wild and smile ―天気が良い日は外へ出よう”。「子どもから大人まで、誰でも森で遊ぶことができる施設というのがコンセプトです」と、開校当初からこの施設の運営に携わる黒坂真(しん)さん。季節ごとの体験プログラムも充実。東京ドームの約37倍ともなる広大な敷地で、自然の中を散策し、身体を動かし、豊かな生きものたちとふれあうことができる。また、開放感のあるホテルのロビーで窓の外の緑を眺めながら物思いに耽ったり、本を読んだり、冬は暖炉の前でくつろいだりという、何もしない贅沢なひとときを満喫するのもいい。

みずみずしい自然を感じながら森を散策し、温泉で疲れを癒す


ホテルに到着したら、まずは森を散策しよう。周囲の森には散歩道や小径がいくつも整備されている。中でも黒坂さんがおすすめしてくれたのは、馬狩展望台に向かうコース。片道30分ほどのハイキングが楽しめ、展望台からは自然學校の全貌を見下ろすことができる。
また、自然學校近くには水芭蕉が群生する池や、自然學校が維持管理している合掌家屋、東屋などが点在している。気の向くままに足を向け、木々や花の香りを感じたり、川のせせらぎや鳥たちのさえずりに耳を澄ませたり、木漏れ日の美しさにはっとしたり…。五感を解放して、じっくりと全身でこの豊かな自然を味わいたい。
散策後の心地よい疲労感を癒してくれるのは、自家源泉の天然温泉と、ゆったりとくつろげるゲストハウス。客室はベーシックな洋室や和室から、家族連れでもゆとりのあるデラックスルームなど全6タイプ。どの部屋も天井が高く、梁を生かした造りが印象的だ。随所に木材が贅沢に使われた温もりのある雰囲気で、旅の特別感を味わいながらも、ゆったりと自然体でくつろぐことができる。
デラックスツイン(35,000円〜/1人)は1〜3名が広々と過ごせる人気の部屋。ユニバーサルデザインで、バリアフリーにも対応している。
デラックスツイン(35,000円〜/1人)は1〜3名が広々と過ごせる人気の部屋。ユニバーサルデザインで、バリアフリーにも対応している。
白山麓に湧き出る天然温泉はとろりと柔らかな泉質で、肌をなめらかにしてくれる“美肌の湯”。露天風呂では、春や夏には蛙や蝉の声を聞き、秋はお月見、冬は雪見と、四季折々の風情を堪能することができる。大自然の中で満天の星を仰ぎ見れば、心も身体もゆるりとほどけ、日々の悩みやストレスもちっぽけなものに感じられることだろう。

木の温もりあふれるレストランで味わう、本格的なフレンチ

ディナーに案内されたのは、天井が高く、開放的なフレンチレストラン「ラ・リヴィエール・ブランシュ」。ここでは地域との共生という視点から、あえて白川郷の民宿などで味わえる郷土料理とは異なる、本格的なフレンチを提供している。
オードブル:ローストビーフとコシアブラのライスサラダに、ホタテのテリーヌ、豚肉のテリーヌ、えびのマリネ。
オードブル:ローストビーフとコシアブラのライスサラダに、ホタテのテリーヌ、豚肉のテリーヌ、えびのマリネ。
この日いただいたのは、オードブルにメイン料理、スープ、パン、ドリンク、デザートがセットになった、食事代が宿泊料金に含まれるスタンダードコース。オードブルには、白川村で採れたコシアブラの山菜らしい香り高さとほろ苦さが味わえるライスサラダが登場。世界的フレンチシェフ三國清三氏プロデュースのレストランで料理長を務めた後、大自然の中で働ける場所を探してこの自然學校にたどり着いたというシェフの田中理永(たなかただなが)さんだからこそ、“できるだけ、この土地の食材を”という思いは強い。メイン料理は、富山産の鯛をこんがりと焼き上げたグリル。カリリと香ばしい皮目と対照的に、肉厚の白身はふわりと優しく口の中でほどけ、バターのコクたっぷりのソースブールブランとよく絡み合う。レモンの風味も爽やかで、あっさりした後味も心地いい。デザートは濃厚なグラムプリンとほろ苦い抹茶アイス。コーヒーや紅茶とともにゆっくりと味わって、食後の余韻に浸ろう。
フルコースへは、宿泊代+2,400円/人で変更できる。(写真提供:トヨタ白川郷自然學校)
フルコースへは、宿泊代+2,400円/人で変更できる。(写真提供:トヨタ白川郷自然學校)
田中シェフの想いと技が込められた料理をより堪能したい人は、メイン料理とデザートがそれぞれ2種類ずつ味わえるフルコースがおすすめ。見た目も華やかな料理に心が躍る。森で過ごした時間を振り返りながら味わえば、ここでの思い出がいっそう特別なものになりそうだ。

 

森での食材探しからはじまる、本格石窯で焼く森の恵みピッツアづくり


自然學校では、この地の文化や自然環境を生かしたユニークなアクティビティが豊富に揃い、“インタープリター(森の案内人)”と呼ばれるスタッフが、それぞれの得意分野を活かしてガイドをしてくれる。たとえば、彼らと一緒に森を散策するだけでもその豊富な知識や経験に導かれ、何気なく見過ごしている木々や草花、生きものたちへの解像度がぐっと高まる。
今回は初夏と秋に開催される「本格石窯で焼く森の恵みピッツア ―旬を味わうアウトドアランチ―」に参加。インタープリターの旭祐貴(ゆうき)さんのガイドのもと、初夏は山菜、秋にはきのこといった“森の恵み”を探しに、まずは森の中へ。「食べられないものは私が教えますので、それ以外はぜひ味見してみてください」と旭さん。真夏間近のこの日に収穫できたのは、コシアブラやタラの芽、山椒といった山菜に、ニガイチゴやクローバー。森に茂る植物を食べられるかどうかの視点から観察するのは、とても新鮮な体験だ。幼い頃に道草をしながら、草花や木の実を摘んでいた懐かしい記憶がよみがえり、童心に帰ってわくわくする。食材と一緒に、テーブルを彩るための色鮮やかな草花もカゴの中に入れていく。すると、小さな奇跡が起きた。なかなかお目にかかれない、タマゴダケを発見!まるで作り物のように鮮やかな赤色の傘と愛くるしいフォルムは、森の中でも一際存在感を放っている。すぐに傘が開いて襞に虫が入ってしまったり、森の動物に食べられたりしてしまうため、ちょうど食べ頃のタマゴタケにめぐり合えるのは、まさに幸運なのだとか。
タマゴダケは、動物の卵のような膜を突き破り真っ赤な傘をのぞかせる。旭さんは数日前から森を見回り、目をつけていたと言う。
タマゴダケは、動物の卵のような膜を突き破り真っ赤な傘をのぞかせる。旭さんは数日前から森を見回り、目をつけていたと言う。
食材探しの旅を終えたら、いよいよピッツア作り。生地にソースを塗り、採ったばかりの山菜やキノコを散らす。森の畑で育てられた野菜やハーブも加え、最後にチーズをたっぷり乗せたら、スタッフが手作りした立派な石窯で焼くこと数分。チーズがとろりと溶け、こんがりと焼き色がつけば、完成だ。
草花を飾ったテーブルで、早速、熱々のうちにピッツアに手を伸ばす。ほろ苦さのある山菜やシャクシャクとした歯応えのキノコ、とろりと溶けたチーズ。森の中でその森の恵みをいただく、シンプルだけれど贅沢なごちそうに思わず笑みがこぼれる。季節や気候によって森で出合える食材は違うため、「次はどんな森のピザが作れるだろうか」と何度も体験に来たくなる。
アクティビティ「本格石窯で焼く森の恵みピッツア」(小学生以上3500円/1人、3歳以上1500円、3歳未満無料)は初夏と秋に開催される。※要予約
アクティビティ「本格石窯で焼く森の恵みピッツア」(小学生以上3500円/1人、3歳以上1500円、3歳未満無料)は初夏と秋に開催される。※要予約
そのほか、夏はエメラルドグリーンの白水湖に漕ぎ出すラフトボートクルーズや、秘境大白川に飛び込むシャワークライミング、冬は一面の銀世界が堪能できるスノーシュートレッキングやスノースライダーなど、季節ごとにそのシーズンならではのアクティビティが楽しめる。
写真提供:トヨタ白川郷自然學校
写真提供:トヨタ白川郷自然學校
大自然に囲まれた環境を存分に生かし、さまざまな楽しみ方を提案してくれる<トヨタ白川郷自然學校>。アウトドア好きな人はもちろん、不慣れな人にとっても安心して過ごせる配慮や工夫が行き届いているため、その人にとって最適な “森の過ごし方”が見つけられる。森の中で五感を研ぎ澄ませ、雄大な自然とふれあえば、慌ただしい日常では気付くことができない新しい発見や学びに心が震え、忘れられない旅の休日を過ごすことができるだろう。



Text:Narumi Tsuda
Photo:Makoto Kazakoshi




いつもと違う岐阜県観光には、大野郡白川村の〈トヨタ白川郷自然學校〉がおすすめ。

トヨタ白川郷自然學校


所在地岐阜県大野郡白川村馬狩223
アクセスJR「高山駅」から濃飛バス「白川郷バス停」まで約50分、「白川郷バス停」から無料送迎バスで約10分
電話番号05769-6-1187(受付時間 9:00~18:00)
URLhttps://toyota.eco-inst.jp/
宿泊15:00チェックイン/10:00チェックアウト

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