歴史息づく神楽坂で古き良きものに触れられる古書店
東京都新宿区にある神楽坂は、江戸時代には花街として栄え、料亭や神社仏閣など古き良き文化と歴史が息づく街。さまざまなお店が連なるメインストリート・神楽坂通りから横道に入ると、雰囲気のある小路や石畳の横丁などがあり、散策スポットとしても人気だ。
今回訪れるのは、古書店〈アルスクモノイ〉。神楽坂駅から赤城神社の先、江戸川橋のほうへ坂を降りていった静かなエリアにある。
「以前働いていた古本屋で、自分がこれまで興味をもっていなかった写真集やアートなどに触れたときに、世界がどんどん広がっていく感覚に出会いました。古本屋自体、こういった巡り合わせを感じられる場所だと思うんです。古書市場で本を仕入れるときも一期一会だし、お客様の本を買い取るときも予期せぬ出会いがあります。さまざまな人と一緒にお店を作り上げている感じがおもしろいですね」こちらの物件は「先入観をもたずにいろんな街を見たい」と、自転車で東京のあらゆる場所を巡るうちに出会ったのだそう。通ううちに、神楽坂には製本所や活版印刷工房、出版社や取次店など本にまつわる会社が多くあると気づいたという。
「職人の街という感じで、とても素敵だと思いました。神楽坂は華やかなイメージがあったのですが、坂を下ると下町らしい雰囲気があり、本の文化を下支えしているような空気感もあります。さまざまな角度から本を見るのにおもしろい場所だと感じたのも、この街を選んだ理由です。
お店を開いてから街の人々に、昔は神田川で紙を運んでいたなど多くの歴史を教えてもらって、さらに神楽坂が好きになりました」
インテリアの足踏みミシンは祖母の形見だという。
旅の感覚が何でもない日常を豊かに、鮮やかにしてくれる
〈アルスクモノイ〉で扱っている本は写真集から絵本、デザイン本や哲学本までじつに幅広い。海外の出版社やアーティストから直接取り寄せた、珍しい本も多くある。選書のキーワードは“新しい発見のある本”だ。
上原さんのその想いは店名にも現れている。ラテン語で「アート」を意味する「アルス」、古語の「蜘蛛の網(くものい)」を組み合わせ、ひとつの出会いから蜘蛛の巣のように点と点が線になり、広がっていくようなお店でありたいと願いを込める。上原さんが素敵な書店や本に出会うと目の前が拓けていくような清々しい気持ちになった経験から、空の曇りが晴れていく「雲間」の意味も含めた。
蜘蛛の巣や雲をイメージした〈アルスクモノイ〉のロゴ。
この写真集は、写真家・北井一夫さん主宰ののら社から約20年のときを経て出版されており、巻末には木村氏が亡くなる2ヶ月前に語った『思い出すことども』が掲載されています。江戸っ子らしい小気味よい口調で、パリへ行った当時について話すその語り口がまた素敵で。まるで昨日写真を撮ってきたばかりのように思い出を語るので、旅の風景が鮮やかに蘇ってきます。いつ見ても良いなと思う本です」
「東京でも、旅先での感覚を忘れずに過ごしたいと常々思っているんです。どこにいても旅の感覚をもっていれば、何でもない街路樹も素敵に思えたり、新鮮に感じられたり、新しい視点が開けていく気がします。日常を思い切り楽しめる“身軽なお年寄り”を目指しているんです」
上原さんが話す“旅の感覚”を楽しむなら、神楽坂の街は最適かもしれない。〈アルスクモノイ〉では、お店に通うお客さんと一緒に作ったディープな街歩きマップを配布している。驚くほど細い道があったり、マップを見てもなかなかたどり着けないスポットがあったり、探検する楽しさが味わえる。
〈アルスクモノイ〉の場所を伝えるために作り始めた「このあたりてくてくマップ」は、バージョン6まで進化した。
Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka
いつもと違う東京都観光には、新宿区の〈アルスクモノイ〉がおすすめ。
アルスクモノイ
所在地 | 東京都新宿区西五軒町10-1 |
アクセス | 東京メトロ「神楽坂駅」から徒歩約6分 |
電話番号 | 03-6265-0849 |
URL | https://arskumonoi.net/ |
@arskumonoi | |
営業時間 | 12:00〜20:00 |
休業日 | 月曜、火曜 |
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