深川エリアの歴史を紡ぎながらジンづくりを行う〈深川蒸留所〉を訪ねる。
クラフトジン蒸溜所を巡る旅【深川蒸留所編】
2023年3月、東京の深川エリアに新しい蒸留所がオープンした。その名も〈深川蒸留所〉。ガラス張りのおしゃれな外観に、センスの良い商品パッケージ。何より蒸留器の製造まで手がけているということに興味が湧いた。普段はクラフトジンの製造のみを行っているが、毎月のオープンデーでは蒸留器を眺めながらクラフトジンが楽しめるという。蒸留所の立ち上げに関わった「関谷理化」代表の関谷幸樹さんと、〈BAR NICO〉の店主・小林幸太さんにお話を伺った。理化学ガラス職人に仕事を生み出したいという思いがきっかけ
清澄白河・森下・門前仲町・木場など東京都江東区の北西部一帯は昔から「深川」と呼ばれていた。江戸時代に摂津国の深川八郎右衛門らが開拓したのが始まりで、縦横に張り巡らされた運河網を活かし、材木の貯木場として発展してきた街である。
自然が豊かで、どこか昔懐かしい下町情緒と古き良き文化の残る深川。
〈深川蒸留所〉。ガラス張りの建物のなかに、洗練された雰囲気のバースペース「奥の澄」が見える。
これまで製造してきたクラフトジンは、オープンから3年で20種類以上にも及ぶ。目指すのは、深川を代表する地酒だ。深川の酒販店を中心に販路を拡大し、地域密着の流通を主体としている。清澄白河をはじめ、森下や門前仲町など〈深川蒸留所〉のクラフトジンを味わえるお店も増えているそうで、地元で愛されるお酒として着々と存在感が増しているように感じる。
〈深川蒸留所〉のクラフトジン。
関谷「2015年に清澄白河で一般消費者向けに理系雑貨の販売を行うアンテナショップ〈リカシツ〉を立ち上げました。取っ手付きビーカーなどオリジナルの製品も手がけています。理化学ガラスの耐熱性を活かした製品をもっとつくれないかと考えていたときに、アロマテラピーの講師の方々からお声がかかり、家庭用蒸留器『リカロマ』の開発を行いました」
「関谷理化」3代目の関谷幸樹さん。
関谷「三浦さんが熱量高くクラフトジンについて話してくれて、そのおもしろさや可能性を知ることができました。でも、この時点では自分でクラフトジンを製造する気はありませんでした。あくまで僕の目的は理化学ガラスの職人に仕事を生み出すこと。他社の蒸留器を仕入れてクラフトジンを作るという考えはなかったですね」
ここで事態が大きく進む契機となったのは、清澄白河で〈BAR NICO〉を経営する店主の小林幸太さんの存在でした。
マイクロ蒸留所の先駆け〈アルケミエ辰巳蒸留所〉との出会い
小林さんもまた、クラフトジンに魅了されたうちの1人。〈BAR NICO〉でも多くのクラフトジンを取り扱い、ジンに特化したバーとして来店する客にその魅力を伝え続けていた。
小林「関谷さんを通じて、クラフトジンに関わっている方を何人か紹介してもらい、さらに自分のなかでの熱量が高まっていきました。ちょうどコロナの影響で、お店の運営が落ち着いていたタイミングで、余った時間を活用し各地の蒸留所の見学に行くことにしたんです」
ちなみに関谷さんと小林さんの出会いは、深川の交流イベント「コウトーク」が始まりだそう。深川地域を盛り上げようと始まったイベントで、2人はこの出会いをきっかけに、街歩きイベントなどの企画も手がけてきた。
〈BAR NICO〉店主の小林幸太さん。
関谷「辰巳蒸留所でみたカブト釜蒸留器とリカロマの構造がほぼ一緒だったので驚きました。この原始的な構造でこんなに素晴らしい製品がつくれるのであれば、自分たちにもできるのではないかと考えたんです。何より蒸留器を自社で開発したら、職人たちの仕事につながると思い、オリジナルの蒸留器づくりにトライすることにしました」
もともと「関谷理化」で取引があったチェコ産のフラスコを使って蒸留器づくりをスタート。カブト釜蒸留器のような口径の大きい構造にするのは難しかったため、辰巳さんのアドバイスを元に、江戸時代に流通したといわれる古典的なツブロ式蒸留器を参考に開発が進められた。試行錯誤の末、完成したのが「ニューツブロ蒸留器」だ。研究室で使われるマントルヒーターとフラスコをイメージしたデザインになっているそう。「ニューツブロ蒸留器」は、立ち昇った蒸気がドーム状の銅製冷却部にあたった際に冷やされて液体化するというシンプルな構造の蒸留器。理化学ガラスを使っているので、中の様子を見ながら蒸留できるのも利点だという。
さらに2024年には蒸留器製造のノウハウを活かし、新しい蒸留器「ニューエバポ蒸留器」を完成させる。もともと「関谷理化」で取り扱っていた減圧蒸留器「ロータリーエバポレーター」を参考にして開発されたもので、「ニューツブロ蒸留器」よりも低い温度で蒸留できるのが特徴だ。熱に弱い香り成分も抽出できるので、「ニューエバポ蒸留器」が加わったことでより香り豊かなクラフトジンの製造を可能にした。
人と人とのつながりで生まれたクラフトジンの数々
〈深川蒸留所〉は、2023年4月29日に「FUEKI」をリリース。その後は、季節限定として「深川ツブロ」シリーズを月に1種類ずつ発売している。いずれも「ニューツブロ蒸留器」と、「ニューエバポ蒸留器」を素材に合わせて使い分けながら製造を行っている。
商品名は、松尾芭蕉の「不易流行(いつまでも変わらない“不易”の精神を大事にしつつ、新しいものを取り入れること)」を元に名づけられた。じつは深川は、松尾芭蕉のゆかりの地でもある。さらに、ラベルには地元の祭である「水かけ祭」の水しぶきを撮影した写真が使われるなど、深川を強く意識した商品設計になっている。
通年販売している「FUEKI」
提供:深川蒸留所
提供:深川蒸留所
関谷「深川出身で今は静岡で農家をしている知人から苺を仕入れたり、同じ江東区の企業・カミツレ研究所のカモミールを使ったりなど、これまでのつながりを製品づくりに活かしています。人気の『深川ツブロ/珈琲』は、地元の名店〈ARiSE COFFEE ROASTERS〉で出している水出しコーヒーの出がらしを活用。第5弾まで発売されていますが、ネロリやスターアニスを組み合わせるなど、すべて異なるレシピになっています」
オープンデーでは「ツブロ蒸留器」を眺めながら、クラフトジンのオリジナルカクテルなどが飲める。当日はボトルの購入も可能。
〈BAR NICO〉で深川蒸留所のクラフトジンを楽しむ
毎月開催される〈深川蒸留所〉のオープンデーのあとは、さらにクラフトジンを楽しむべく〈BAR NICO〉に立ち寄る方が非常に多いという。小林さんに案内していただきながら、〈深川蒸留所〉から徒歩15分ほどの位置にある〈BAR NICO〉に足を運んだ。
明るいグリーンの建物が目印。
〈BAR NICO〉内観。
小林「ジンごとに味わいが大きく違う、個性派ぞろいのクラフトジンの世界にどんどんのめり込んでいきました。多種多様な味わいがあるので、ジンを飲んだことがない人や飲み慣れていない人にも勧めやすいお酒だと感じました。『クラシックなドライジンの味わいが苦手だったら、こっちのジンはどう?』など人に勧めるのが次第に好きになっていったんです」
小林「難しく考える必要はなく、王道のペアリングとしてまずはスパイスやハーブを使った料理に合わせてみてはどうでしょう。クラフトジンはスパイスやハーブをボタニカルとして使用しているので、カレーやエスニック料理などによくマッチします。ほかにも『深川ツブロ/苺』だったら大福と合わせて、苺大福のようなコンビネーションを楽しむのもおもしろいですよ」
「旨馬カレー」1,700円
「ラム肉とミントのクミン炒め」900円
Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki
いつもと違う東京都観光には、江東区の〈深川蒸留所〉がおすすめ。
深川蒸留所
所在地 | 東京都江東区平野2丁目3-15 |
アクセス | 東京メトロ「清澄白河駅」から徒歩約8分 |
URL | https://fukagawa-distillery.tokyo/ |
@fukagawa.distillery | |
営業日 | ※詳しくは公式Instagramをご確認ください。 |
BAR NICO
所在地 | 東京都江東区高橋11-1 2階 |
アクセス | 東京メトロ「清澄白河駅」から徒歩約3分 |
電話番号 | 03-3846-1211 |
@bar_nico25 | |
営業時間 | 20:00〜翌3:00 |
休業日 | 日曜、月曜 |
※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。