自分たちの好きな昔の文化や本、雑貨を集めたお店
JR沼津駅から、バスを使って約10分ほど。沼津港や千本浜公園などの観光地からほど近い場所に〈山仲〉はある。〈山仲〉は古本とレトロ雑貨のお店で、2025年1月末にオープンしたばかり。沼津港の水産会社で働いていた後藤さんと宮崎さんが共同経営している。オープンの経緯について後藤師珠馬(ごとうしずま)さんにお話を聞いた。
静かな住宅街のなかにある〈山仲〉。
お隣の三島市で三島甘藷(みしまかんしょ)がブームになったこともあり、石焼き芋屋はメディアに取り上げられるほど大繁盛。しかし食材費の高騰によりリーズナブルな価格で提供できなくなったことをきっかけに、「それならば自分たちの好きなものに立ち返ろう」とリヤカーでの古本の販売へシフトした。
〈山仲〉を経営する後藤師珠馬さん。
いくつか物件を見たなかで、最終的に選んだのは沼津市を拠点に活動した画家・故高木倶(たかぎとも)さんのアトリエだった建物。築年数が60〜70年ほどのため、土地のみが売りに出されていたが、二人とも建物が気に入ったため、そのまま譲り受けることになったという。宮崎さんが高木さんと同じ美術大学を卒業していたことにも、運命を感じたそう。
店内は柔らかい光が差し込む穏やかな空間に。床を張り替えたり、建物の補修をしたりなどのリノベーションは宮崎さんが担当した。
〈山仲〉で提供しているドリンクを高木さんがよく利用していた酒屋から仕入れるなど、かつてのつながりも大事にしている。最近では高木さんと親交のあった方も、お店に足を運んでくれるようになったという。古いものや文化を大事にする二人だからこそ、〈山仲〉ならではの温かい空間が作り上げられているように思う。
さまざまな活動で沼津の魅力を伝える
〈山仲〉では主に戦前から1990年代まで幅広い本や資料を扱っており、なかには江戸時代や縄文土器、古墳から出てきた貴重なものも。古本市場で買い付けるほか、お客様の本を買い取るなどして冊数を増やしている。本だけでなく、レトロ雑貨や古道具なども販売しており、レトロ好きにはたまらないラインナップが魅力だ。「お客様は地元の方が中心で、僕たちのように歴史や文学が好きな方が多いです。アート好きの方もよくいらっしゃいます。
最近の古本屋のなかには、インターネットや市場での販売で生計を立てて店舗をもたないお店も多いですが、僕はコミュニケーションをとるのが好きなので、お店での体験を大事にしています。ここに来て、いろいろなものに出会って、興味の幅を広げるきっかけとなってもらえたら。本の買取も強化しているので、地元以外にもさまざまな方に訪れてもらいたいです」
「若山牧水は明治から昭和初期にかけて活躍した歌人で、晩年は沼津で過ごしたといわれています。こちらの本では牧水が沼津で過ごしていた時代に焦点を当て、彼が残した歌や彼の人生を紹介しながら、沼津との関わりがまとめられています。
〈山仲〉の近くには若山牧水記念館があったり、千本浜公園に彼の歌碑があったりなど、つながりを感じて選びました。彼は旅と歌と酒を愛した人物でもあったので、そういった意味でも今回の企画にぴったりだと思います」
「宿場町として栄えた原地区だったり、避暑地のような雰囲気をもつ千本松原だったり、漁業や農業が盛んな地域など、さまざまな顔をもっているのが沼津の特徴です。駅まわりには昭和の時代に栄えた商店街の名残が見られるなど、それぞれ魅力があります。僕も最近、沼津市内を巡って楽しんでいるのですが、まだまだ知らない魅力がたくさんあるんですよね。
地域の伝説や伝承が残る場所を訪ねるといった新しい旅のカタチもきっと楽しいだろう。歴史や文化を知ってから訪れると、また違った魅力に気づけるに違いない。
Text:Ayumi Otaki
Photo:Akihiro Morita
いつもと違う静岡県観光には、沼津市の〈山仲〉がおすすめ。
山仲
所在地 | 静岡県沼津市千本緑町3-12 |
アクセス | JR「沼津駅」からタクシーで約8分 |
@yamanaka_books | |
営業時間 | 12:00〜17:00 |
営業日 | Instagramをご確認ください。 |
※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。