さまざまな書店が集まる“本屋のアンテナショップ”


ウルトラマン誕生の地として知られる祖師ヶ谷大蔵。3つの商店街が融合した「ウルトラマン商店街」が名物となっており、下町情緒あふれる温かい雰囲気が魅力の街。そんな商店街のなかに、ギャラリー併設で棚貸し本屋の顔をもつ、新刊書店〈BOOKSHOP TRAVELLER〉がある。
5軒長屋の一角にある、2023年4月オープンの〈BOOKSHOP TRAVELLER〉。
5軒長屋の一角にある、2023年4月オープンの〈BOOKSHOP TRAVELLER〉。
棚貸し本屋とは、本棚の一角を借りて誰もがひと箱店主として自分の好きな本を販売できるシェア型書店のような仕組み。多数の書店が集約された、まさに「本屋のアンテナショップ」だ。棚貸し本屋としてお店をスタートさせたのは、「本屋を開くうえで、自分ができることを模索した結果」とオーナーの和氣正幸さんは話す。
 
「サラリーマンをしていたときから本屋を開きたいとは思っていたのですが、経験もコネクションもなかったため、まずは独立書店など個人の店を周って、調べるところから始めました。得た情報をブログで紹介したことをきっかけに、ライターとして独立し、自身で本も手掛けるようになったんです。知人が経営するカフェの一角で、いざ書店をオープンするとなったときに、“自分の活動の延長線上でできること”を考え、『本屋を紹介する書店』を開くことにしました」

店名は、“ここに来ればさまざまな本屋を旅するように楽しめる”という意味を込め、〈BOOKSHOP TRAVELLER〉に。同時に、全国各地のあらゆる書店を訪れ、話を聞き、その地域で過ごすというおもしろさを伝えたいという思いもあった。
〈BOOKSHOP TRAVELLER〉オーナーの和氣正幸さん。
〈BOOKSHOP TRAVELLER〉オーナーの和氣正幸さん。
2018年に下北沢でオープンし、下北沢のエリア内で一度移転したあと、2023年より祖師ヶ谷大蔵の地へ。祖師ヶ谷大蔵は馴染みのある街ではなかったが、一度訪れた際に「次はこの街で本屋を開くのも良いかも」と密かに思っていたそう。

「祖師ヶ谷大蔵には以前、知人の展示会で訪れたことがあって、駅前の広場やウルトラマン商店街などの雰囲気の良さに惹かれました。おいしい飲食店が多いのも気に入っているところで、散策しがいのある街です。

下北沢では店舗を間借りして運営していたので、もう少し広くしたいという思いがあり、祖師ヶ谷大蔵への移転を決意しました。2階建ての物件を選んだのは、ひと箱店主とコミュニケーションがとれるスペースが欲しかったから。階段など段差のある空間が好きなので、2階へ上がる階段も気に入りました」

現在、〈BOOKSHOP TRAVELLER〉を訪れる方は地元民が4分の3を占めるという。下北沢で運営していた頃に比べ、若者だけでなく、上の世代の方も訪れるようになり、より幅広い年代に〈BOOKSHOP TRAVELLER〉を楽しんでもらえるようになった。

ひと箱店主の仲間たちとつくるZINEも豊富


開業当初、棚貸し本屋として貸している本棚は30箱8店だったが、現在は256箱100店まで拡大した。ヘイト本やフェイク本以外であれば、どんな本でも置くことができるため、〈BOOKSHOP TRAVELLER〉ではひと箱店主の個性が光るさまざまな本に出会うことができる。
大阪のシェア型書店にインスパイアされ、手づくりの木箱を使ってレイアウト。
大阪のシェア型書店にインスパイアされ、手づくりの木箱を使ってレイアウト。
建物2階はギャラリースペースになっている。訪れたときはちょうどZINEのイベントが行われていて、さまざまなZINEが並んでいた。1階の棚貸し本屋スペースはひと箱店主全員で作り上げるスペースとして考えているが、2階は和氣さんの好みがかなり色濃く反映されている。一角には和氣さんセレクトの本も。

さらに奥にはZINEが制作できる「ZINE LABORATORY」のスペースがある。デスクトップPCやモノクロレーザープリンター、裁断機などの設備が揃っており、誰でも本づくりを始められる空間を提供している。
 
「〈BOOKSHOP TRAVELLER〉にはひと箱店主の方々が100人いるので、一緒に何か取り組めたらおもしろいと思い、始めました。これまで15人近くが参加し、ほとんどが初めてZINEづくりに挑戦する方ばかり。制作したZINEは20冊ほどになりました。知り合いの日記を読んだり、自分とは違った視点の本を読んだりするのが個人的におもしろくて、すっかり楽しんでいます」
2階スペース。
2階スペース。
今回、旅に出る前におすすめの本として紹介してくれたのも、仲間たちと一緒に制作した本。「BOOK SHOP TRIPS」は下北沢でお店を運営していたときに、ひと箱店主をしていた約20人とつくった“旅”をテーマにしたZINEだ。
 
「『本屋と旅』をテーマに、エッセイや短歌などをみんなに執筆してもらいました。普段あまり文章を書かない人から定年退職したおじいさん、本を出している歌人さん、下北沢エリアで診療所を経営している医師まで、さまざまな人が参加してくれてました。もちろん僕も執筆しています。

ほかにも幻想文学でフランスで賞を受賞したことがあるおじいさんや、アートと本と落語をつなぐ活動している人などじつに個性豊かなメンバーが揃っています。旅って広がりを感じられるのが楽しいと個人的に思うので、この本でいろいろな価値観に触れていただけたら嬉しいです」ひと箱店主たちそれぞれの想いで集められた本に出会える〈BOOKSHOP TRAVELLER〉も新しい価値観に触れられる場所。訪れたら、本の楽しみ方がどんどん広がっていきそうだ。



Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う東京都観光には、世田谷区の〈BOOKSHOP TRAVELLER〉がおすすめ。

BOOKSHOP TRAVELLER


所在地東京都世田谷区祖師谷1丁目9-14
アクセス小田急線「祖師ヶ谷大蔵駅」から徒歩約2分
URLhttps://traveller.bookshop-lover.com/
Instagram@bookshop_traveller
営業時間12:00〜19:00
休業日火曜、水曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。