カフェ&ギャラリー併設、屋上でひと息もつける素敵な書店


トレンドのお店やおしゃれなカフェなど都会的なエリアがありつつ、商店街をはじめ下町の雰囲気も残す三軒茶屋。路地裏には個性的なお店が点在していたり、老舗店が残っていたりなど、知れば知るほどおもしろみが増す、散策しがいのある街だ。

今回は三軒茶屋のメイン商店街である茶沢通りを歩き、独立書店〈twililight(トワイライライト)〉を訪ねる。三軒茶屋駅から約5分ほど歩くと、目的のビルに到着。入り口にはさりげなく看板が設置されており、まさに隠れ家的な雰囲気がある。
2022年3月にオープンした〈twililight〉は、カフェとギャラリースペースを備えた複合型書店。愛知県でフリーランスとして編集やイベント企画などの仕事をしていた熊谷充紘さんが店主を務めている。三軒茶屋でお店を開いた経緯を尋ねると「たまたまご縁があったから」と熊谷さんは話す。

「このビルの2階のカフェの店主と昔から知り合いで、空いた物件を紹介していただいたのがきっかけです。コロナ禍で家にこもっていたときに、他者がいてこそ自分という存在の輪郭を確かめられると感じたこともあり、誰もが安心して過ごせる場所が必要だと感じて、お店を開きました」
「会話がなくても、その場所に誰かがいてひとときを過ごせる“場”を提供できればと思ったので、お店の形態は正直どんなものでも良かったんです。そこで自分がもともと興味があった書店とカフェ、ギャラリーの機能をもつ複合的なお店にしました。加えてこれまでの経験を活かして、イベントの企画やオリジナル書籍の出版を行っています」物件を紹介されてから、お店のオープンまではわずか4ヶ月あまりというから驚きだ。もともと備え付けられていたタイルなどを活かしながら、カウンターを新しく作ったり、棚を買い集めたりしながら、居心地の良い空間を造り上げた。道路側に配置された大きな窓と奥の天窓から柔らかい光が入り込み、落ち着いた雰囲気で過ごしやすい。
 
階段を上った先には屋上と小さなアトリエがある。アトリエは展示スペースにもなるほか、アトリエとして貸し出したり、展示する作家の公開制作室になったりなどさまざまな用途で使用されている。屋上は休憩スペースになっていて、本やドリンクを買って利用することも可能。ここで見られる夕焼けを楽しみに訪れる方もいるそう。屋上から三軒茶屋の街並みを眺めながら、穏やかで特別な時間が過ごせる。

 

目的を持たないことが旅をもっと自由に、豊かにする


〈twililight〉では新刊書籍に限らず、古本やZINEなどさまざまな本を扱っている。ジャンルも小説からエッセイ、写真集まで多種多様だ。

「お客さんに教えていただいた本もありますが、基本的には僕が好きな本を置いています。正直、〈twililight〉は3階にあって階段を使わないとアクセスできないので、誰もが訪れる“街の本屋”という位置づけは難しいと感じています。それでも、訪れた方がお気に入りの本や今の自分にぴったりの本を見つけることで、“私とあなた(お客さん)”という個々の関係性がいくつも生み出せたら良いなと思っています」なかには熊谷さんがこれまでの経験を活かして作ったオリジナルの出版物も。三軒茶屋をテーマにした「sanchapbook(サンチャップブック)」は、街にゆかりのある方の個々の視点で三軒茶屋を深く掘り下げるシリーズ。一般的なガイドブックに載っていない情報が盛りだくさんで、三軒茶屋の新たな魅力に触れることができる。
本だけでなく、トートバッグやTシャツなどオリジナル商品の販売も行っている。
本だけでなく、トートバッグやTシャツなどオリジナル商品の販売も行っている。
お店をオープンしてから約3年ほど三軒茶屋を見てきた熊谷さんは、街の魅力を「迷える豊かさがある」と表現する。

「三軒茶屋は路地が多くて、未だに僕も迷ってしまうときがあるくらいです。どこにたどり着くかわからない感覚があって、そこがおもしろいと感じます。迷って考えたり、寄り道した先で何かに出会ったり、新しい発見がある街だなと。行き先が決まっていると早くたどり着くことに意識が向きますが、ゴールがわからないからどこだって行き先になるような感じがするんです」
今回、熊谷さんが旅におすすめしたいと紹介してくれた本も、三軒茶屋の街に通ずるところがある。トム・ルッツ著の『無目的-行き当たりばったりの思想-』では、目的をあえてもたないことで、新たな出会いや自由が生まれることを説いている。

「旅は、行きたい場所や体験したいことなど目的を達成するためのものになってしまいがちです。限られた時間でどう効率よく周れるかに注力してしまうと、目的地以外のものがどうしても見えにくくなってしまう。でもあえて目的をもたないことで、思いもよらぬ出来事やいつもとは違う感性に出会うことができると思うんです。

この本自体も目的のない文章が綴られていて、何も書かれてないように思えてしまうんですけど、その“行き当たりばったり感”がまた良いんですよね。『無目的』の良さや考え方を知ることで、旅はもっと自由になって、さらにおもしろみが増すのではないかと思います」〈twililight〉も旅と似て、日常から少し離れるような時間を提供したいと熊谷さんは考えている。あえてポップを設置せず、棚の本も一見しただけではわからないような並べ方にしているのは熊谷さんのこだわり。訪れたお客さんが周遊するうちに、お気に入りの一冊に出会える偶然性を狙っている。本を売る場というより、本を探す時間を提供している感覚なのだそう。

「本でもカフェでも、ギャラリーでも訪れるお客さんの目的は何でも良いので、気軽に立ち寄っていただけたら」と最後に熊谷さんは話してくれた。〈twililight〉を訪れたら、予期せぬ出会いから新しい気づきが得られるかもしれない。


Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う東京都観光には、世田谷区の〈twililight〉がおすすめ。

twililight


所在地東京都世田谷区太子堂4-28-10 鈴木ビル3F・屋上
アクセス東急電鉄「三軒茶屋駅」から徒歩約5分
URLhttps://twililight.com/
Instagram@twililight_
営業時間12:00〜21:00
休業日火曜、第1・第3水曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。