確かな腕で作り出される、鮮やかなディッシュに出会う。

愛知県のほぼ中央にある豊田市は、言わずと知れた〈トヨタ自動車〉の“城下町”。JR名古屋駅から在来線を乗り継ぎ、豊田市駅に着くと、駅前はファミリーや若者層で賑わっていた。そこからさらに15分ほど歩くと、大きなミュージアムが見えてくる。〈豊田市美術館〉は、その建築の美しさでも注目され、県外から通うファンも少なくないという。
そして併設するレストラン〈ル・ミュゼ 味遊是〉もまた、人々を惹きつけるスポットの一つ。外観を彩るカラフルなエクステリアを引き継ぐように、店内にもグリーンが印象的に使われている。建築同様、テーブルや椅子も直線的でスッとしたデザインでまとめられ、気持ちを落ち着けてくれる。

 

ハイクラスのフレンチシェフが手掛ける、手軽で上質なランチ。


ここは、名古屋の有名フランス料理店〈壺中天〉を営む上井克輔さんが手掛けるカフェレストラン。特別な日にぴったりの〈壺中天〉に比べ、こちらは普段着で訪れられる気軽さがある。とはいえ、料理人をはじめとしたスタッフは同じクオリティ。「たとえば〈ル・ミュゼ 味遊是〉で提供するカレーには、高級店では使えないスジ肉を使っています。食材費を抑えられるので料理の価格を下げられますし、2店合わせれば食材を使い切れるのでフードロスもなくなって、気持ちよく仕事できますね」と上井さん。「お客さんもスタッフも楽しめて、食材も無駄にしないのが理想の形」と話す。
アミューズ3点盛り、魚か肉のメインで1,600円のランチには、+400円でミニデザートもつけられる。
アミューズ3点盛り、魚か肉のメインで1,600円のランチには、+400円でミニデザートもつけられる。
提供するメニューは、展覧会ごとに入れ替わる。この日はカラフルな印象の展示に合わせ、夏野菜を彩りよく仕上げた料理に。熟練したシェフにより作られる料理に、上井さんのアイデアでビジュアルを工夫し、美しさもアップ。オリーブオイルもおいしいソースは、パンで余すところなく食べきりたくなる。
この日のアミューズは、夏野菜のアスピック(ゼリー寄せ)、ゴマとパルメザンチーズのサブレ、カボチャの冷製スープ。
この日のアミューズは、夏野菜のアスピック(ゼリー寄せ)、ゴマとパルメザンチーズのサブレ、カボチャの冷製スープ。
この日はスズキを蒸し、ズッキーニやトマトなどの夏野菜を重ね、スパイスを効かせたビネグレットソースをかけている。ハーブが散らされ、香りがいい。(メニューは企画展ごとに変更あり)
この日はスズキを蒸し、ズッキーニやトマトなどの夏野菜を重ね、スパイスを効かせたビネグレットソースをかけている。ハーブが散らされ、香りがいい。(メニューは企画展ごとに変更あり)
合わせるワインは、グラスで赤白3種ずつと充実。新たにフレッシュハーブティーも揃えていくというから、ゆっくりと過ごすのも良さそうだ。

遊び心たっぷりのコンセプトデザートで、新たなカルチャーを発信。


そしてぜひオーダーしたいのが、上井さんが一番力を入れているという企画展の期間だけ登場するコンセプトデザート。「昔はレストランって文化の発信者だったと思うんです。SNSなどがない時代に、人々をアッと言わせるものを作ってきた。今はインフルエンサーがお客さんになってしまったけど、今一度、私たちが発信者になりたいと思っています」と上井さん。その思いの結晶として、自由にアイデアを絞れるコンセプトデザートがあるのだという。「展示の内容がわかるのはギリギリなのですが、少ない情報を膨らませて考えるのがすごく楽しいんです。展示のテーマになった“サンセット”、“サンライズ”の時間はロマンチックですよね。さらに、展示の中に唇が印象的な作品があったので、それをモチーフにしました」。
サンセット/サンライズ 展に合わせた『愛してると云ってくれ ってか..ご飯粒ついてますけど…“あの娘のくちびる”』※レストランインスタグラム@le_cafe_restaurantより
サンセット/サンライズ 展に合わせた『愛してると云ってくれ ってか..ご飯粒ついてますけど…“あの娘のくちびる”』※レストランインスタグラム@le_cafe_restaurantより
ビジュアルもメニュー名も、シャレが効いている。「『“君に薔薇薔薇…という感じ〜感電してfall in love”』は、私の世代ならわかると思いますが田原俊彦さんの曲をもじったもの。事務所の方にも了承を得てますよ(笑)」(上井さん)。こちらは企画展に登場したアトリエ・マルティーヌ《壁紙「バラ畑」》を元に作られたもの。バラの形のライチムースは、バラの香りのフランボワーズとライチのピューレを入れ、ホワイトチョコレートでコーティングされている。バラの葉や茎はバジルのオイルで表現。レストランの技術を詰め込んだ本格的なデザートなのに、1000円台というのは他に類を見ないような価格だという。シンガポールのアーティスト、ホー・ツーニェンの企画展期間には、アッと驚くスイーツを考案。メニューの紹介を見ると、「山羊の頭のスープでムースを作り…豚の血のゼリーとソース…ニワトコの実の香りでアクセントをつけた…“おまえの目玉”…」とユーモアたっぷり。「次の展示が決まった時には『次は何が出てくる?!』と美術館職員の方もワクワクしてくれていますが、私が一番楽しんでますね」(上井さん)。

 

何度も訪れたい、カフェレストラン。


シーズンごとに新しい景色を見せてくれるから、何度も訪れたくなる。上井さんの遊び心を体験しに行こう。


Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う愛知県観光には、豊田市の〈ル・ミュゼ 味遊是〉がおすすめ。
 

ル・ミュゼ 味遊是


所在地愛知県豊田市小坂本町8-5-1
アクセス豊田市駅からタクシーで5分ほど
電話番号0565-32-3332
URLhttps://www.instagram.com/le_cafe_restaurant.musee/
営業時間10:00〜17:00LO(ランチは10:30〜16:30LO)
休業日月曜(祝日を除く)、美術館休業日

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。