余白の時間が旅そのものなのかもしれない。

窓の外を見ている。その景色は揺れていて空には雲が暇そうに浮かんでいる。浮かぶしか今はやることがないのだというように。
空は青さをどこかに置いてきたのかいつになく白っぽく霞んでいて暇そうな雲と今にも交わりそうに手を伸ばしている。ここはどこだっけ。思い出せない土地の景色を目の奥で見つめている。

旅は好きだと思う。二十歳になった頃、バックパッカーに憧れて大きなリュックを背負って日本を出た。
三つ上の兄が当時住んでいたフランスのパリで数年ぶりに兄と落ち合い、そこから北上し、3、4都市まわった後にスペインへ飛んでまた4都市ほどまわった。兄と2人で旅をするなんて初めてのことだった。この人の周りではたぶん時間が普通の人の7倍くらいの遅さで回っているのだと思うほどゆったりした兄との旅は最初不安もあったが、初めての土地と自分が向き合う余白の時間の大切さを与えてくれたように思う。
少し旅慣れてきた頃に兄と別れて1人でイタリアを10日ほどまわった経験もあわせて今のわたしの旅に対する考え方を作るとても貴重な経験になった。

ガイドブックを開き街を決める。宿を決めて列車に乗る。浮くような足を無理やり地面につけて歩いてみる。ホテルに着いて重いバックをベッドの足元に落とし必要最低限のものを持って外へ出る。何もない通りを歩き木々のざわめきを聞く。扉の開いた教会の中を覗き足を踏み込んでみる。その土地が抱いている時間と自分の身体が横に並んだとき、そこに縁があるかどうかを感じる。

その余白の時間。いや、もしかしたらその余白の時間が旅そのものなのかもしれない。
わたしが知りたいのはそこに縁が流れているかなのかもしれない。

分からないことばかりだ。

思いのまま、足の向くままに進めば何かを得られるかもしれないと旅をする。
思いのまま、言葉の向かうままに進んだらこの散文が繋がるかもしれないと記憶を探る。

分からないことばかりだ。

知らない国を歩くのも、頭の中を旅をするのも。

けれども私たちは旅をしている、いつも、どこかで。
 


1. Clouds Moving on the SkyEmahoy Tsege Mariam Gebru
2. View from My WindowHiroshi Yoshimura
3. RainSam Wikes, Craig Weinrib, Dylan Day
4. Aguas Frías Helado Negro
5. Baby NowKath Bloom, Loren Connors
6. Don't LookMary Lattimore
7. WhispersLoren Connors
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Text:Yuga
Cover art:Yoshiyuki Okada


優河(ゆうが)

2011年にシンガーソングライターとして活動を開始。2022年、ドラマ『妻、小学生になる。』 (TBS系)の主題歌 「灯火」が話題に。今年は『ミュージカル「手紙」2025』に出演。映画『ファーストキス 1ST KISS』のエンディングテーマソング「next to you」の作詞・歌唱を務める。TBSラジオ「CITY CHILL CLUB」内の「優河のmidnight whispering」を担当。
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