津駅からすぐ、唯一無二のフレンチレストラン。


三重県の県庁所在地、津市。その海岸側に位置するJR津駅からバスで約2分というアクセスの良さで〈三重県立美術館〉に辿り着く。それを感じさせないほど、辺りは静かで穏やか。小鳥のさえずりが聞こえ、緑が気持ちいい庭もある。ここはまさに、アートをじっくり楽しむにはもってこいの場所。近所からは犬を散歩させる人もやってくる、ピースフルな雰囲気だ。
芝生の広場に面したフレンチレストラン〈ミュゼ ボンヴィヴァン〉は、ガラス張りでサロンのよう。テラスでも食事ができるというから、風が気持ちいい季節にはピクニック気分を味わうのもいいかもしれない。夜になり、一段と落ち着いた静けさを堪能するのもまたよし。

地元生産者と直につながり、上質な食材を生かす四季折々の味。

前菜盛り合わせ、スープ、メイン、自家製パン、デザート付きで3,600円は破格の、豪華なランチコース「ムニュ ジョリ」。メインは豚、鶏、魚、鹿などから選べるが、おすすめは鹿。
前菜盛り合わせ、スープ、メイン、自家製パン、デザート付きで3,600円は破格の、豪華なランチコース「ムニュ ジョリ」。メインは豚、鶏、魚、鹿などから選べるが、おすすめは鹿。
ここは、県内随一のレストランとの噂。それどころか、都会でも実現できないクオリティの料理を提供している。オーナーシェフの出口直希さんは「三重にいないと、同じ料理は作れない」と、県外出店のオファーも断ってきたという。伊勢湾に面した津市では水揚げしたばかりの魚介が手に入るし、山深い紀伊半島にあるから鹿などのジビエも良いものが揃う。伊勢海老や松阪牛だけではない、三重の隠れた名物に出会えそうだ。出口さんは、それらの生産者と密にコミュニケーションを取り、山菜や魚を自分で調達しに行くこともあるそう。だから、料理に使われるのはフレッシュな食材ばかりだ。
ハマグリには香草バターをかけ、彩りも美しい。
ハマグリには香草バターをかけ、彩りも美しい。
ランチコース「ムニュ ジョリ」がお手頃で内容充実。前菜の盛り合わせから、三重の旬の味を堪能しよう。この日は、出口さんが「どこよりもおいしい」と語る津産のハマグリ、イサキのカルパッチョ、鹿肉・兎肉・干しイチジク・フォアグラで作った自家製パテ……。「ジビエは苦手とおっしゃるお客さんが多いのですが、メインだけでなく前菜にも織り交ぜて召し上がってもらっています。『実はこれ、鹿肉なんですよ』と伝えると、食べやすさに驚く方は少なくないですね」(出口さん)。さらには、紀伊長島の漁港に赴いて自ら仕入れたという鯖を使ったエスカベッシュも。今日ここでしかいただけない料理の数々に、早くも再訪を考えてしまう。
添えられる日替わりの自家製パンは、三重県産の強力粉を使ったもの。手前から、干しあんずとくるみ、あおさ。
添えられる日替わりの自家製パンは、三重県産の強力粉を使ったもの。手前から、干しあんずとくるみ、あおさ。
スープも、季節ならではの野菜を使ったもの。「今日はカブのポタージュです。初夏の今は“ひねた”カブと言って旬ではないのですが、商品価値がないものでもピュレやスープならおいしく食べられます」(出口さん)と、食材を無駄にしない姿勢も素晴らしい。牛肉や鹿肉の端を煮詰めたコンソメゼリーと蟹を合わせ、旨味たっぷり。地産の小麦粉を使ったパンも自家製し、素朴で味わい深い。
絶妙な火入れでローズピンクに仕上げられた鹿肉のロースト。付け合わせは、行者ニンニクやホワイトアスパラのグリル。
絶妙な火入れでローズピンクに仕上げられた鹿肉のロースト。付け合わせは、行者ニンニクやホワイトアスパラのグリル。
そして、メインは鹿肉を選んで。部位や状態に合わせ調理方法を変えていくそうだが、今回はシンプルなローストで。「いかに軽やかに食べていただくか」と考え、紅芯大根の鬼おろしや人参ジュースを煮詰めたソース、松阪牛や鹿肉の骨とスジで作ったフォンを添えてある。柔らかい肉質を噛み締めるごとに、獣臭さではなく、鹿の豊かな香りを感じられる。胃にもたれず、あっさりとした味わいだ。

出口さんは鹿を1頭買いで仕入れていて、年間約60頭という数は国内トップクラスだという。「こちらは1歳の牝鹿のモモ肉で、2週間熟成したもの。飼育ではないので、時期によって味が変わります。5月ごろは、若い牝鹿がおいしいんですよ。ローストのほかには、炭で炙ったり、燻製したりします」と、細かく教えてくれる。
「みえジビエ」というブランドができたのは約10年前。それ以前からこの店で鹿料理を手がけていた出口さんは、ジビエを売りにした店として知られるようになり、次第に生産者の方から声がかかるように。その後、県のバックアップで、生産工程など品質が厳しく管理された「みえジビエ」が誕生することになった。現在、出口さんは、市内美杉村の猟師・古田洋隆さんと連携をとり、おいしい鹿肉をそろえている。古田さんは世界からも注目され、知る人ぞ知る名手だ。

「仕入れた鹿は冷凍することなく、熟成させて良い状態に持っていきます。鉄分が多い肉なので酸化も早い。だから骨から外すのは注文が入ってからなんですよ」(出口さん)。
そしていま、ジビエを目当てに来店する人が増えているという。「ジビエはフレンチの料理人の憧れ。以前はマニアの世界でしたが、私は特別なものではなく、豚や牛や鶏と同じステージに上げたかったんです。いかに野性味を消し、ワインを飲まなくても食べられるか。『臭い、硬い』というマイナスなイメージを変えようと思っていました」。「みえジビエ」の盛り上がりもあり、出口さんの想いは実現しつつある。

 

アイスクリームも自家製で。デザートまでゆっくり味わいたい。

コースの最後に登場する、自家製アイスクリームやフルーツが綺麗にトッピングされたクレームブリュレ。
コースの最後に登場する、自家製アイスクリームやフルーツが綺麗にトッピングされたクレームブリュレ。
メインを食べ終えたところに、美しいデザートが運ばれてきた。香ばしいクレームブリュレには、バタフライ型のサブレ、自家製アイスクリーム、色とりどりの果物が盛られている。コーヒーや紅茶と合わせ、食後の時間もゆったり。
グランデセール1,250円は14時〜17時の提供。ホットコーヒーかティーポットの紅茶付き。単品は1,000円。
グランデセール1,250円は14時〜17時の提供。ホットコーヒーかティーポットの紅茶付き。単品は1,000円。
もう少しじっくりとデザートを味わうなら、「グランデセール」がおすすめ。パティシエのおすすめが8種ほど、少しずつ盛り付けられている。この日は、コーヒーのブランマンジェ、こし餡入りのガトーショコラ、蜂蜜と醤油のアイスなど。ひねりの効いたお菓子が目白押しだ。出口シェフは、日本ソムリエ協会の上位資格、ソムリエ・エクセレンスも保持しているから、ワインもぜひ楽しみたいところ。白、赤、泡、ロゼとグラスで30種ほど用意するという品揃えで、料理だけでなくデザートとのマリアージュも試してみたい。

 

アートや自然に囲まれたガーデンの、肩肘張らないフレンチレストラン。

レストランは、横長に設計された美術館の端にある。芝生の先には彫刻作品や緑豊かな林があり、居心地がいい。美術館目当てに来たお客さんにもハードルを感じさせない適度な気軽さがあり、フレンチのビギナーにもおすすめしたい1軒だ。

※〈ミュゼ ボンヴィヴァン〉は移転に伴い、2023年3月31日に閉店となりました。新店舗の情報につきましては、InstagramなどSNSにてご確認ください。


Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う三重県観光には、津市の〈ミュゼ ボンヴィヴァン〉がおすすめ。

ミュゼ ボンヴィヴァン


所在地三重県津市大谷町11 三重県立美術館内
アクセスJR津駅からバスで約2分
電話番号059-223-7070
URLhttps://www.musee-mie.com/
営業時間カフェ10:40〜16:00LO、ランチ11:30〜14:00LO、ディナー18:00〜21:30(19:30LO)
休業日月曜、美術館の休館日

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。