7坪の空間にマニアックな本が集まる個性的な書店


愛知県のほぼ中央、名古屋市からは約30kmの位置にある安城市。農業で発展してきた地域であり、かつては農業先進国のデンマークになぞらえて「日本デンマーク」とも呼ばれていた街だ。都市開発が進んだ今でも農業は盛んで、自然を身近に感じられる環境の良さが魅力。今回は、そんな穏やかな街にある独立書店〈七坪書店〉を訪ねる。
一般の民家かと思いきや、じつは本屋さん。
一般の民家かと思いきや、じつは本屋さん。
住宅街の一角にある〈七坪書店〉は、2023年12月にオープンしたばかり。店主の松崎通彦さんの祖父母がかつて住んでいた民家の1階を店舗として活用している。

「もともと本は好きだったのですが、自分で本屋を開きたいとまでは思っていませんでした。この家をなんとか活用したいという思いで始めたんです。このあたりは三河安城駅の前にチェーンの本屋が1軒あるだけだったので、個性的な独立書店がハマるのではないかとも考えました」
店主の松崎通彦さん。
店主の松崎通彦さん。
安城市は名古屋市まで電車で1時間程度の距離のうえ、岡崎市や豊田市にも近いため、市街地へ遊びに出かける20〜30代が多いという。だからこそ松崎さんは、〈七坪書店〉を自分と同年代の人々がのんびりできるような場所にしたいと考えた。

「安城は“ほどほど”というキーワードがぴったりの街です。そこまで田舎でもなく、住むのに必要なものはだいたい揃うので、子育てしやすい場所だと思います。名古屋や空港へアクセスしやすい交通の便の良さも魅力でしょう。ただ、過ごすにはちょうど良い一方で娯楽が少ないので、一般書店にはあまりないようなマニアックな本を扱って立ち寄りたくなる本屋を目指しました」
店舗スペースが約7坪だったことから、店名はシンプルに「七坪書店」。
店舗スペースが約7坪だったことから、店名はシンプルに「七坪書店」。

内装も選書もイベントも。どんどん進化する〈七坪書店〉


〈七坪書店〉には松崎さんの“好き”がたっぷり詰まっている。店内には趣味で描いた絵が飾られ、本棚やカウンターはDIYが得意な松崎さんご自身が作ったもの。コーヒーが好きだったことから書店にカフェの機能を持たせ、カウンターでドリンクの提供も行っている。
店頭に並ぶ本の8〜9割は自身が好きなジャンルである小説・エッセイ・短歌・詩。松崎さんが実際に読んで気に入ったものを中心に、お客さんの好みを考えながら選定している。

「オープン当初からカフェのメニューやレイアウト、本の種類もかなり変わったと思います。今でも週1くらいで内装などに手を加えているので、訪れるたびに変化が感じられる本屋になっていると思います。本も今は400冊くらいですが、もっともっと増やしていきたいですね」
 
そんな松崎さんが旅に出る前におすすめしたい本として今回紹介してくれたのが、「銀河ヒッチハイク・ガイド」。イギリスの作家ダグラス・アダムスのSFコメディ小説だ。
 
「突然地球が消滅し、主人公のアーサーが宇宙人とヒッチハイクして旅をするという内容です。非日常こそ旅で、僕は日常を忘れさせてくれるならちょっとした散歩もドライブもすべて旅だと思っています。僕自身、理由や目的のない行き当たりばったりの旅が好きなので、この本の物語がしっくりきました。

昔、ヘミングウェイの『移動祝祭日』を読んで、本の題材となったパリにそのまま2週間ほど滞在したことがあります。パリの生活を疑似体験する旅が楽しくて、散歩した先でたどり着いた公園がきれいだったことなど、些細な出来事が記憶に残っています。自分の予想しないモノに出会える行き当たりばったりの旅はすごくおすすめです」
 
お話を聞いていると、奥泉光さんの本格SFエンタメ「ビビビ・ビ・バップ」や、横浜駅が日本を浸食するという奇想天外な設定の「横浜駅SF」など、興味をそそる本が松崎さんの口からどんどん飛び出してくる。〈七坪書店〉には、そんなマニアックでおもしろい本があふれているのだ。
さらに月1回行われるイベントもユニーク。昨年末にはバーテンダーと共同で文芸とカクテルのコンテストイベントを開催。参加者に執筆してもらったストーリーをもとにオリジナルのカクテルレシピを作るというイベントで、大変好評だったよう。
 
今後も進化し続けていく予定だという〈七坪書店〉。訪れれば、きっとおもしろい本や体験に出会えるはず。

Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う愛知県観光には、安城市の〈七坪書店〉がおすすめ。

七坪書店


所在地愛知県安城市桜井町西町上54番地
アクセス名鉄西尾線「桜井駅」から徒歩約10分
URLhttps://nanatsubobooks.com
Instagram@nanatsubobooks
営業時間11:00〜19:00
休業日水曜、木曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。