季節のクレマチスが咲く丘は、アートも食も楽しみがいっぱい。


静岡県東部、JR三島駅からシャトルバスに揺られて25分ほど行くと、緑豊かな長泉町に到着する。ここにある「クレマチスの丘」というエリアは、知る人ぞ知る施設。花とアートと食がコンセプトだという。クレマチスとは、主に5月から6月ごろに見ごろを迎える花のことだが、ここでは一年を通して250品種が入れ替わり立ち替わり咲くのだとか。この「クレマチスガーデン」は、イタリアの現代具象彫刻家・ジュリアーノ・ヴァンジの世界で唯一の個人美術館「ヴァンジ彫刻庭園美術館」の中にある。広大な敷地には、ほかに「ベルナール・ビュフェ美術館」や「長泉町井上靖文学館」など、さまざまな施設が点在している。カフェやショップも併設し、そこだけで1日過ごせそうな充実っぷりだ。
「ヴァンジ彫刻庭園美術館」のすぐ近くにあるのが、今回訪ねたい〈ピッツェリア&トラットリア チャオチャオ〉。美術館と店をつなぐアプローチにもクレマチスが咲き、穏やかで明るい気分にしてくれる。トラットリアの周りも植物で飾られ、リラックスしたムードのまま店内へ。


素材のおいしさに手を加えすぎない、旨み際立つナポリ料理。

ここは、東京・南青山のイタリア料理店「Ristorante ACQUA PAZZA」のオーナーシェフ・日髙良実さんが手がけたお店。と聞けば、食好きは見逃せないはず。日髙さんの元で腕を磨いた北川恵以シェフは、その味を求めて県外から訪れる人も多いという腕前。「三島に来ていただいたからには、地元のものを召し上がってほしい。ブランド野菜の『箱根西麓三島野菜』は、店のスタッフが農家に直接取りに伺っていて常に新鮮ですよ」(北川さん)。その他、肉や野菜も地産品を積極的にピックアップしている。〈ピッツェリア&トラットリア チャオチャオ〉では、素材の味をストレートに味わえるシンプルな仕立てが最大の魅力。たとえば、桜海老ピザにはあえてチーズを乗せず、酸味が心地よいトマトベースに。「ピザはトマトベースとチーズベースのものを用意していますが、桜海老の場合チーズベースでは重くなりすぎてしまうんです」(北川さん)。桜海老の香ばしさは、食べる前からわかるほどだ。ほおばると、トマトと桜海老の旨味にガーリックの香りも加わり、たまらない。
桜海老のピザ2,100円。ピザはナポリのスタイル。
桜海老のピザ2,100円。ピザはナポリのスタイル。
生地はイタリアの小麦粉を使い、練った後は数日間寝かせて熟成させている。そうすると小麦の甘みや香りが立ち、風味豊かな生地に仕上がるのだという。そこにトマトソースが見えなくなるほどの桜海老を乗せ、力強い味わいのあるイタリアのオリーブオイルを。シンプルだからこそ、一つ一つの素材が丁寧に選ばれているのがわかる。
厨房を覗くと見える大きなピザ窯は、イタリアから職人を呼び寄せて作った自慢の品。ここは、沼津や三島で店を開く人が修行しにくる店でもあるという。20年の歴史の中で、さまざまな職人が育ってきた。
パスタもまた、食材が引き立つ味わいが素晴らしい。駿河湾の釜揚げしらすをニンニクと唐辛子と合わせ、しらすの塩分で炒めたペペロンチーノは、しみじみおいしい素朴さだ。細めのスパゲッティーニとよく絡み、レモンをぎゅっと絞ればさらに爽やかに。旅先のレストランでは、普段の生活では出会えない食材を発見できるのもうれしい。ピザやパスタと共にぜひオーダーしたいのが、店でも人気が高いというマッシュルームのサラダ。富士市にあるマッシュルーム農家「長谷川農産」の香り豊かなブラウンマッシュルームに惚れ込み、熱を加えずフレッシュな味わいで提供している。野菜の上に、約4つ分というたっぷりの量を、薄くスライスすることで香りを立たせてトッピング。さらに、葉と一体感が出て食べやすい。直接仕入れているという箱根西麓野菜は、ランチでも注文できるバーニャカウダや、ディナーの窯焼きなどでいただける。

 

木漏れ日の中でのんびりと味わうランチタイムに、プラスしたいもの。


ガラス張りの店内でもテラス席でも、周りを取り囲む緑を感じながら過ごせる。穏やかな日差しを感じながらゆっくりと滞在するには、ドリンクやデザートにも手を伸ばしてみたい。
テラスは店の奥にもあり、暖かい季節には特等席になりそう。
テラスは店の奥にもあり、暖かい季節には特等席になりそう。
シーズナルのオリジナルドリンクはノンアルコールで作られ、誰でも気持ちよく飲めそう。春はチェドラータ(白ワインと柑橘を煮込んだシロップのソーダ)、夏はレモネード、秋はプルーニャ(すもものドリンク)、冬にはホットサングリアが登場する。季節の気分をさらに盛り上げてくれそうだ。食後にはイタリアンドルチェも外せない。オリジナルジェラートのフレーバーはバニラ、チョコ、ミルクに加え、カシスやベリーヨーグルトなどさまざまなフレーバーが選べるから、あれこれ並べたくなってしまう。ほかに、ティラミス、アフォガード、プリンなど、王道のドルチェがそろっている。ジェラートでさっぱりと終わらせるもよし、ティラミスやアフォガードでビターな余韻を楽しむもよし。

 

目でも舌でも春夏秋冬を楽しむ、気軽なトラットリア。

〈ピッツェリア&トラットリア チャオチャオ〉の前には、ミュージアムショップ〈NOHARA BOOKS〉やフラワーショップも立ち並び、季節の移ろいが感じられる。「庭園の花が変わるように、地のものを使った季節ごとの楽しみを料理に表現していきたいです」と北川さん。自然の魅力を体いっぱいに取り込める、豊かな時間が過ごせそうだ。

※〈ピッツェリア&トラットリア チャオチャオ〉は2022年12月25日に閉店となりました。


Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う静岡県観光には、長泉町の〈ピッツェリア&トラットリア チャオチャオ〉がおすすめ。

ピッツェリア&トラットリア チャオチャオ


所在地静岡県駿東郡長泉町東野クレマチスの丘347-1
アクセス三島駅から無料シャトルバスで約25分
電話番号055-989-8789
URLhttps://ciaociao.clematisnooka-restaurant.jp/
営業時間10:00〜21:00(ランチ11:00〜14:30LO、カフェ14:30〜17:00、ディナー17:00〜20:00LO)
休業日水曜

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