創作に向かう時、音楽によって想像上の旅に出る。
旅と聞くと、そこには旅に憧れている頃の自分、旅が日常となっている自分、そして旅を懐かしく慈しむ自分がいる。そしてこれから先に訪れるであろう旅の気配のことも。それぞれに、自分だけの、自分の旅だけの音楽がともにある。
創作に向かう旅をはじめる時、僕は音楽によって想像上の旅に出る。The Gloamingの緻密で壮大なサウンドスケールは、その入り口の扉をいつも開いて待っている。
無印良品のBGMアルバムは、手っ取り早く彼の地で鳴る音に触れられる素晴らしいシリーズ。なかでも僕のお気に入りはBGM8。この曲を聴くと、行ったことのないスウェーデンの、美しい森と水の麓にある小さなコンサートホールに鳴り響く、美しく力強い、そして素っ気ない音楽が目に浮かぶ。
ケルト音楽には本当に感謝している。この音楽に出会ったおかげで、僕は世界中の友人と言葉を介さずにコミュニケーションを深めることができる。
僕はどうやらニューヨークに憧れを持っている。未だ訪れたことのないその地の、名もない地下のライブハウスに、ものすごいセンスの塊のようなティーンズのバンドが、まるで息をするようにそこらじゅうに生息していると思っている。Florist はその一つに違いない。いつどんなふうに彼らの音楽に出会ったのかはすっかり忘れたが、僕は彼らの音楽の向こうにまだ見ぬニューヨークを見ている。
Gregory and the Hawkもそうだ。僕がまだ自分の音楽とともに旅をすることすらままならない頃から、彼女は想像上のニューヨークで歌っていた。ギターの音というのはどうしてこんなにも旅を彷彿とさせるのだろうか。旅になにかひとつだけ荷物を持っていくなら、僕は迷わずギターを選ぶ。
1曲だけ自分のバンドの曲を。バンドはいい。存在の歴史そのものが、自分にとってかけがえのない旅となっている。
旅を終えるとき、僕は日本語の歌、それも同時代を生きる者が歌う歌を聴きたくなる。water water camel は、僕と違う景色を見てきた尊敬する友人たちが、きっといつかどこかで同じ景色を見ているのだろうと思える稀有なバンド。
1. The Old Favourite | The Gloaming |
2. 2 Polskor efter Schedin | MUJI BGM |
3. Gordon’s | Gnoss |
4. Vacation | Florist |
5. Oats We Sow | Gregory and the Hawk |
6. Lovely Day | Elizabeth Mitchell |
7. Danny Boy | tricolor |
8. 想像をこえる日 | water water camel |
Text:Hirofumi Nakamura
Cover art:Yoshiyuki Okada
中村大史(なかむらひろふみ)
⾳楽家、作曲家。北海道⽣まれ。幕別町応援大使。
ソロプロジェクト「Hirofumi Nakamura」名義での音源発表のほか、tricolor、John John Festival、OʼJizo等のケルト音楽バンドのメンバーとして国内外で演奏活動をおこなう。
hirofuminakamura.com
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X(旧Twitter):@hirofuminakamur