アマポーラが心の中で聞こえて来る。
ヨーロッパへの憧れから脱却して半世紀。「脱亜入欧」ならぬ「脱欧入亜」で、もっぱら旅の目的地はアジア。それもタイ、それも北の古都チェンマイ。通い始めて約30年。そうなると「旅」というほどの非日常ではなく日々の生活の拠点が移動した感覚も。
チェンマイの自宅で朝食を済ませると毎日いつものカフェでラテを。1時間ほどの読書。その後は家内のご機嫌次第で買い物へ。何故か耳の奥で聞こえてくるのは・・・アマポーラ。何処か褐色の肌から生まれるリズムと曲想。大切なのは「静かな官能」。音の世界の中で振り返る日々。家内との出会い、結婚、仕事、そして旅。いくらトランジットが長くても家内が隣りに居ればそれでいい。何処に居ようが、ただ生きている時間の経過なのだから。それが空港、あるいは新幹線のホーム・・・自宅のソファでも。
そうだ、バンコックから車で1時間のアユタヤ。自転車で訪ねた王立博物館。芝が広がる庭の木陰で家内と孫は涼を取り、私はロッブリースタイル(クメールスタイル)の青銅の仏像を探して館内へ、暫くして回廊から遠く木陰で休む家内の姿が見える。広い庭を心地よい風が流れる。甘い時間。そこでもアマポーラが心の中で聞こえて来た。
1. Amapola | エンニオ・モリコーネ |
2. サニー | ボビー・へブ |
3. ダンシング・オールナイト | もんた&ブラザーズ |
4. Constant Rain | Sergio Mendes |
5. Merry Christmas Mr. Lawrence | 村治佳織 |
6. Ain’t No Mountain High Enough | ダイアナ・ロス |
Text:Gen Nagata
Cover art:Yoshiyuki Okada
永田玄(ながたげん)
1952年東京生まれ。編集者。蒐集家。
1988年まで16年間マガジンハウスで社員編集者。その後独立して企画制作会社代表。著作多数。仕事の傍ら約30年14世紀北タイの古陶を中心に蒐集を続け、2023年長崎県美術館にて「永田玄の眼 タイ古陶の美」として展覧会を開催。