閑静な住宅街にある、凛とした佇まいの書店


大阪市東住吉区にある南田辺は閑静な住宅街。駅周辺には商店街やスーパーのほか、有名な人気居酒屋「スタンドアサヒ」がある。そんな街の雰囲気に馴染みつつ、異彩を放つ独立系書店〈LVDB BOOKS〉を、今日は訪ねる。築100年近くの長屋の一角をリノベーションした店舗は、木の柱や建具などがそのまま活かされ、味わい深い空間に仕上がっている。店主の上林翼さんのセンスが光り、独創的でありながら不思議と落ち着きのある店内は、ついつい長居したくなる心地良さだ。
〈LVDB BOOKS〉内観。天井が高く、開放感のある空間。
〈LVDB BOOKS〉内観。天井が高く、開放感のある空間。
〈LVDB BOOKS〉がオープンしたのは2015年。もともとは南田辺の隣駅・駒川中野で店を始めたのだという。手狭となったことをきっかけに、2018年に南田辺へ移転。上林さんは、南田辺エリアの「道が好き」と話す。

「この辺りは路地が多くて、道も入り組んでいます。散歩が好きなので、昔からの道と新しい道が入り混じったこのエリアを歩くのは楽しいんです。本屋にしては珍しく南向きなのも、路地の細さから周囲が建物で囲まれ、日が入りづらいからこそですね」店名の「LVDB」も、一見すると本屋とは思えないような珍しい名前。アキ・カウリスマキ監督の映画「ラヴィ・ド・ボエーム(La Vie de bohème)」の頭文字からとっているという。あえて意味を持たない文字の羅列にすることで、本屋だけでなく他の業態のお店とも店名が被らず、よりユーザーの目に止まりやすいのでは、と考えたそうだ。
「情報をあまり表に出したくない」という上林さんの考えで看板もあえて作っていない。
「情報をあまり表に出したくない」という上林さんの考えで看板もあえて作っていない。

お客さんとともに変化する、その偶然を楽しみたい


〈LVDB BOOKS〉の本棚には、アート本から写真集、詩集までジャンルや国を問わずさまざまな新刊本・古本がぎっしり並べられている。上林さんのセレクト以外に、お客さんとの会話や、問い合わせなどをきっかけにラインナップに加えた本も多いという。
「本はジャンルが広いので、同じ本を置き続けることはなく、お客さんの要望などで入れ替えることが多いですね。古本の買い取りの際にも、新しいジャンルの本が入ってきます。お客さんの声や出会いでお店が変化していく、その偶然がおもしろいです」

多種多様な本を揃えているからこそ、〈LVDB BOOKS〉には老若男女さまざまなお客さんが訪れる。ペットの散歩ついでに立ち寄る方がいるなど、近隣の方も多いそう。併設のギャラリーでは作家やアーティストの作品展示、新刊発売記念のトークイベントなども開催しており、イベントをきっかけに来店される方もいる。店内イベント以外に、京都や富山をはじめとする各地の古本市などへの出店も積極的だ。「イベントで各地を周ることは旅気分で楽しい」と話す上林さん、もともと旅をするのが好きなのだそう。お店を始める前は大好きなカンボジアの音楽を求めて、レコードを探しにカンボジア・ラオス・ベトナムをひとりで周った経験もある。
そんな上林さんが旅におすすめの本として紹介してくれたのが、管啓次郎氏のデビュー作「コロンブスの犬」。詩人であり、翻訳家でもあった著者が、ブラジルに1年間滞在していた時の記録をまとめたエッセイだ。ただの旅行記ではなく、旅をする行為そのものに思考をめぐらせ、ひたすら深掘りしていく異色の一冊である。
「人との出会いや景色の美しさなど、旅先で体験して感じたことをうまく他人に伝えられず、共有できないもどかしい感覚は誰しもあると思います。著者はその感覚をひたすら思索し、過去の書物からの引用を散りばめながら言語化していきます。『旅』というキーワードに関連してあらゆる文学が引用されているため、旅のアンソロジーのような本です。

その引用も的確で、『旅』について改めて深く考えることができる一冊かと思います。ブラジルのことについて書かれていますが、内容が普遍的なので、どこへ旅するときでもおすすめです」「旅とは何か?」を考えさせる同書を読めば、旅への向き合い方が変わるかもしれない。



Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う大阪府観光には、大阪市の〈LVDB BOOKS〉がおすすめ。

LVDB BOOKS


所在地大阪府大阪市東住吉区田辺3-9-11
アクセスJR南田辺駅から徒歩約6分
URLhttps://lvdbbooks.tumblr.com/
Instagram@lvdbbooks
営業時間13:00〜20:00
休業日日曜、月曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。