レトロスポットが点在する豊橋の街。

愛知県東三河地方にある豊橋市。市の中心部では愛知県で唯一の路面電車「豊橋鉄道市内線」が走り、昭和の時代から続く商店街「水上ビル」があるなど、意外とレトロなスポットがあふれている地域である。今回は路面電車にゆったり揺られながら、豊橋市内でレトロな場所をめぐる旅。昔懐かしい雰囲気の漂うスポットから、豊橋の魅力を探った。

豊橋のソウルフード「チャオスパ」を堪能。

東京駅から東海道新幹線で約2時間ほど、東三河の中心都市である愛知県豊橋市に着いた。東側は弓張山地(ゆみはりさんち)、西側は三河湾に面した自然豊かな豊橋市は、温暖な気候に恵まれた地域。駅の東口側には街のシンボルでもある豊橋鉄道市内線が走る。道路の真ん中をガタンゴトンと路面電車が走る姿は趣深く、レトロな雰囲気が漂う。豊橋鉄道市内線の沿線をはじめ、豊橋には昔を感じさせるレトロなスポットがあちこちに点在している。今回は市内を散歩しながら、豊橋のレトロを探す旅。まずは豊橋駅から徒歩3分ほどの〈スパゲッ亭チャオ 本店〉に訪れる。〈スパゲッ亭チャオ〉は1965年に豊橋駅前地下で開業した老舗レストラン。現在の場所には1979年に移転したという。当時、名古屋で名物になっていたあんかけスパゲッティの名店で修業し、味を再現した「チャオスパ」がオープン当初からの人気メニュー。長きに渡って市民に愛され続けている、豊橋のソウルフードだ。
〈スパゲッ亭チャオ〉のあんかけスパゲッティは、熱々の鉄板にのせて提供されるのが特徴的(※お皿で提供されるメニューもあり)。これは名古屋ではあまり見かけない、豊橋ならではのスタイルなのだそう。特製のチャオソースが鉄板でじゅうじゅうと香ばしく熱せられて、立ち上る香りに食欲がそそられる。
人気No.1の「バイキングランチ(鉄板)」1,420円。サラダ・ドリンク付き。
人気No.1の「バイキングランチ(鉄板)」1,420円。サラダ・ドリンク付き。
このチャオソースは、じゃがいも・にんじん・玉ねぎなど数種類の野菜をたっぷり煮込んで作られる。特に決め手となるのはトマトで、塩とこしょうのシンプルな味付けながらも野菜の甘みとコクで、よりソースのおいしさが引き立てられている。こしょうを強めに効かせたピリ辛の味わいがやみつきになりそう。卵や揚げ物など、どんなトッピングにも合うソースなので、〈スパゲッ亭チャオ〉には日替わりランチなど数多くのあんかけスパゲッティのメニューがある。冬時期は浜名湖産の牡蠣のフライをのせた「カキスパ」が大人気!オープン当初より、男女問わず若い方から年配の方まで、多くの地元民に利用されてきた〈スパゲッ亭チャオ〉。何十年も通い続ける50〜70代の常連客も多いのだそう。市民にとってはなくてはならない存在である〈スパゲッ亭チャオ〉の味を堪能して、豊橋をより身近に感じることができたような気がする。

〈アンティーク雑貨ちひろ〉で昭和レトロに出会う。


お腹を満たしたあとは、さっそく豊橋鉄道市内線に乗って新川駅へ。豊橋のレトロの象徴ともいえる商店街「水上ビル」へと向かう。水上ビルは1964年に水路の上に建設された珍しい建物だ。東西に800メートルほど続く建物は2階より上が住居、1階部分の多くが商店になっている。「豊橋ビル」「大豊ビル」「大手ビル」の3つの建物で構成された水上ビルには、レトロな老舗喫茶や、おしゃれなスイーツ屋さんなど、新旧さまざまなお店が並んでいる。特に目に留まったのは、お菓子や花火、おもちゃなどの問屋さん。駄菓子や、昔ながらのおもちゃが所狭しと並べられていて、レトロ感満載である。
豊橋はかつて問屋街だったのだろうか?豊橋生まれで、水上ビル近くにて雑貨屋さん〈アンティーク雑貨ちひろ〉を営む店主の原田年代さんにお話を聞いてみた。「私が子どもの頃はもっと問屋さんがたくさんあって、豊川市方面などから籠を背負って、朝早くからお菓子を購入しにくる業者の方も多かったんですよ。今は車で買いに来る人が多いですが、昔懐かしい光景として覚えています」

歴史の長い商店街のため、後継者が不在などの理由から営業を辞めてしまったお店もいくつかあるという。それでも新しいお店が入り、近年では朝市が開催されるなど、かつての賑わいを取り戻しつつある。
原田さんも実父が営んでいた自転車屋さんを閉めるタイミングで場所を譲り受け、お店を始めたという。名古屋の骨董市でたまたまアンティーク雑貨を扱う業者さんと出会い、昭和30〜40年代の未使用品を中心に販売する雑貨屋さんを開いた。アンティークボタンや食器、商品パッケージの印刷物など、店内には数多くの商品が並べられていて見てるだけでわくわくする。

「特にラベルのような印刷物が大好きで、ついついたくさん仕入れてしまいます。千代紙も昔、自分が買ってもらえなかった記憶が残っていて、憧れの気持ちから惹かれてしまうんですよね。この昔懐かしさにときめいています」と原田さん。最近ではレトロブームの影響で若いお客さんが増えているのだとか。意外と男性客も多く、年配の常連客もいるなど、幅広い年代がレトロブームの虜になっているよう。
原田さんとお話ししながらのショッピングはとても楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまった。街の話や商品のことなどさまざまな話を聞きながら、昭和の時代に思いを馳せてみたら、レトロ感をより満喫できた。

豊橋の喫茶文化を支えた〈cafeびーどろ〉。


新川駅から豊橋鉄道市内線に乗り、次は市役所前駅に降り立つ。お目当てのカフェに行く前に、豊橋市公会堂に立ち寄った。
豊橋市公会堂は1931年に建てられた、ロマネスク様式を基調とした建物で、1998年には国の登録有形文化財に指定された。幾何学模様の半球ドームや、シンボルである鷲など、その意匠は建築界で高く評価されている。市内には、ほかにも豊橋ハリストス正教会など歴史ある建物がいくつかあるので、近代建築めぐりをするのも楽しそうだ。本日最後の訪問先は、豊橋市公会堂より徒歩10分ほどの位置にある〈cafeびーどろ〉。住宅地にひっそりと佇む、雰囲気のステキな老舗喫茶だ。店内は椅子の青色が映える落ち着いた空間になっていて、ゆったりと過ごせそう。カウンター席に案内していただき、店主の山口孝さんにお話を聞いた。
「ここはもともと別の方が喫茶店を営んでいて、お店を閉めるタイミングで丸ごと引き継ぎました。内装もメニューも店名も、すべてそのまま引き継いだので、常連のお客さんの中にはお店が変わったのに気付かなかった方もいるかもしれませんね」

山口さんがお店を引き継いだのは1981年頃。豊橋市内は昔から喫茶店が多く、かつてはこの近辺にも喫茶店がいくつもあったという。「昔はこの辺に中小企業が多くて、サラリーマンが喫茶店でたむろしている様子がよく見られました。ここにも日中から多くの営業マンがサボりに来てましたよ(笑)。携帯のない時代でしたから、会社から喫茶店によく電話がかかってきてました」

今では喫茶店の数が減ってしまったが、〈cafeびーどろ〉は今も変わらず、地元住民の憩いの場として愛され続けている。カウンター横の専用棚には、常連客の名前が書かれたコーヒーチケット(※前売りのドリンク回数券のこと)がずらり。コーヒーチケットを販売するシステムも、昔から変わらないスタイルなのだそう。利用客は地元の方が中心だが、最近では若い方も訪れるようになった。思わず写真に収めたくなるようなフルーツパフェやあんみつなどのデザートが人気。確かに、昭和にタイムスリップしたような没入感が味わえてたまらない。
ブレンドコーヒー450円、フルーツパフェ800円。
ブレンドコーヒー450円、フルーツパフェ800円。
店主の山口さんやスタッフの方、常連のお客さんの笑い声がたえない店内はとても居心地が良い。まるで昔から通っていたような温かさで迎えてくれる〈cafeびーどろ〉は、何度でも通いたくなるお店だった。また豊橋を訪れた際は、ぜひ立ち寄りたい。
豊橋市内を散策していると、レトロなお店や看板などが点在しており、気づいたら写真をたくさん撮っていた。帰り道の新幹線で写真を眺めながら、今日の旅路に思いを馳せる。旅の素晴らしさを写真とともにシェアしたくなる、豊橋はそんなステキな街だった。

豊橋で見つけたレトロなモノたち



Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki



いつもと違う愛知県観光には、豊橋市の〈スパゲッ亭チャオ 本店〉〈アンティーク雑貨ちひろ〉〈豊橋市公会堂〉〈cafeびーどろ〉がおすすめ。

スパゲッ亭チャオ 本店


所在地愛知県豊橋市広小路1-45(OGIYA 2F)
アクセスJR豊橋駅から徒歩約3分
電話番号0532-53-1684
URLhttps://ogi-ya.co.jp/restaurant/
営業時間11:00〜21:30(L.O.21:00)
休業日年中無休


 

アンティーク雑貨ちひろ


所在地愛知県豊橋市新川町53
アクセス豊鉄市内線 新川駅から徒歩約4分
電話番号0532-53-1491
 Instagram@sosuke0610
営業時間11:30〜17:00
休業日水曜、木曜


 

豊橋市公会堂


所在地愛知県豊橋市八町通二丁目22番地
アクセス豊鉄市内線 市役所前駅から徒歩約1分
電話番号0532-51-3077
URLhttps://www.bunzai.or.jp/publichall/index.php
開館時間19:00〜21:00
休業日毎月第3月曜(当該日が国民の祝日または振替休日に当たるときはその翌日)、年末年始(12月29日〜1月3日)


 

cafeびーどろ


所在地愛知県豊橋市湊町146
アクセス豊鉄市内線 市役所前駅から徒歩約10分
電話番号0532-53-1219
営業時間7:30〜18:30 ※祝日のみ16:00まで
休業日日曜、GW、お盆、年末年始

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。