伊勢神宮近くにある森のなかのような本屋さん

三重県の名所といえば、「お伊勢さん」の愛称で親しまれている伊勢神宮。JR伊勢市駅から伊勢神宮・外宮までの道のりである外宮参道は、古くからお伊勢参りをする人々を迎え入れる宿場町として栄えてきた。今でも老舗の料亭やお土産店などで賑わっている。最近では新しいお店も増えているようだ。
そんな外宮のほど近くに、今回の目的地〈本屋 散策舎〉はある。古いビルの2階にあり、一見すると入りにくさもある外観だが、中に入ると大きな窓から入る自然光が暖かく、ホッとするような空間になっている。
「2021年7月にリニューアルオープンした際に、地元の建築士さんに内装を整えてもらいました。濃い緑色の壁を背景に、木製の本棚や造作漆器などを配置して、森の中をイメージした造りに。お客さまが店内をゆっくり散策できるような空間を目指しました」と話すのは、〈本屋 散策舎〉代表の加藤優さん。
〈本屋 散策舎〉は2017年4月にオープン。最初は土日営業のみの本屋としてスタートした。当時、加藤さんは東京から伊勢に通いながら本屋の運営を行っていたという。

「かねてより本屋を立ち上げたいと思っていたのですが、東京でひとりでスタートするイメージが湧かなくて…。名古屋市出身で子どものときはよく伊勢に来ていましたし、その後伊勢市の大学に進学したのもあり、ここで本屋を立ち上げるのも良いかなと思って始めました。大学時代に比べ、今は新しいお店も増え、伊勢はおもしろい町になっています。その流れに乗れたら、という気持ちもありましたね」

散策するように本屋を楽しんでほしい


「この地域は“観光”と“暮らし”のバランスがちょうど良い場所」と話す加藤さん。伊勢神宮近くという立地もあり、〈本屋 散策舎〉を訪れる人は地元の方と観光客でちょうど半々くらいだそう。
「多くのお客さまに本を楽しんでもらいたいという思いから、自分たちの好きなジャンルだけでなく、訪れる方に好まれそうな本を考えて選んでいます。選書のテーマは大きく3つで、食・旅・心。伊勢神宮・外宮に食の神様がまつられていることや、伊勢は旅人が訪れる場所であることから選書のテーマに据えました。“心”には日本の文化や民俗学、哲学などさまざまな意味を込めています」3,000冊近くある本のなかから、加藤さんが旅におすすめの本として今回選んでくれたのが 「犬の伊勢参り」(仁科邦男著)。その昔、犬が単独で伊勢参りをしている目撃談がたくさんあり、文献資料などをもとにさまざまな角度からその謎を解き明かすという内容の一冊だ。
「犬が伊勢神宮にお参りする不思議な話を真面目に検証していく本です。伊勢神宮の入口まで犬がトコトコとやってきて、お座りする姿があまりに立派だったから、御札(おふだ)をあげたなんて話も実際にあったそうです。後日、その辺を歩いている犬が『あの時の犬じゃないか』なんて噂が広がったりもして。神話のような話が日常にあるところが伊勢らしくておもしろいなと感じます。伊勢を訪れる前に読んだら、また違ったイメージで町を楽しめるのではないかと思います」
伊勢の地で今年で7年目を迎える〈本屋 散策舎〉。伊勢市内にチェーンの大型書店は2店あるが、伊勢神宮近くのエリアには本屋がないことから、「日本の文化を発信する場所として、今後も変わらずここで町の本屋さんを続けていきたい」と展望を語ってくれた加藤さん。多くの人に本に触れてもらうため、お店の運営以外の活動も積極的だ。県内の古本市やマルシェへの出店のほか、近隣の店舗とのコラボなども増やし、活動の幅を広げている。

「散策舎店内ではコーヒーの販売も行っているので、ぜひ気軽に訪れてみてください。本のある空間を気軽に楽しんでもらえたら嬉しいです」店名である「散策舎」の由来は、読書という行為が本の中を散策するイメージがあることから。本屋はその散策者が集まる場所だから、散策舎という名称にしたのだそう。伊勢に来たら本の森を散策して、新しい出会いを楽しむ旅も良いかもしれない。



Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う三重県観光には、伊勢市の〈本屋 散策舎〉がおすすめ。

本屋 散策舎


所在地三重県伊勢市本町15-26 サンエスビル2F
アクセスJR伊勢市駅から徒歩約7分
Instagram@baladeur_jp
営業時間10:00〜16:00
休業日不定休

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