旅で重要なのは、その土地の音を拾いながら歩くこと。

遊び疲れた帰り道、瞼の裏に街灯の明かりを感じながら、心地よいまどろみに身を委ねた車の後部座席。
灼熱の砂漠のど真ん中、陽炎を追いかけるようにスピードを上げた車の助手席。
数時間前に手を振り合い別れた友人と、時速900kmで離れていく高度10,000mの空の上。

思い返してみれば、私が旅の中で音楽を聴くのはいつも決まって、はじまりと終わりの揺れの中だった。

旅の仕方は様々だが、私にとっての「旅」で重要となるのは、「その土地の音を拾いながら歩く」ということだ。音や人の声にも、その街の温度や湿度、空気感が表れる。夜明けとともに街に降り注ぐ祈りの声、鳴り止むことを知らないクラクション、駆け抜けていく子ども達の笑い声…数歩歩くごとに変わるその土地に根付いた音を聴き逃さぬよう歩くので、正直旅の最中に関しては、イヤホンをして音楽を聴いている余裕はないのだ。

その分、移動中の乗り物の中では音楽を聴きたくなる。子どもの頃、父の運転でルート66を走りながらリピートしていたEaglesの 「Take It Easy」は、旅行先のラスベガスに着いてからもずっと頭の中で流れていたし、帰りの車内の後部座席では、ポータブルCDプレイヤーで宇多田ヒカルの「Eternally」を聴きながら、旅の終わりを噛み締めてひっそりと涙した。ハワイ島からの帰りの上空でイヤホンから流れてきたRyu Matsuyamaの「kid feat. 優河」と、海のような空を後方へゆっくりと泳いでいく雲との相性が思いがけず破壊的で、旅の道中に出会った人々の表情やオレンジの波が打ち寄せる浜辺を思い浮かべて、なんとも言えない切なさに包まれた。

私にとって旅における音楽とは、その旅を綴じる表紙と背表紙なのだ。


1. Take It EasyEagles
2. Castle on the HillEd Sheeran
3. ハイウェイくるり
4. Take Me Home Country RoadsOlivia Newton-John
5. Deep Inside My HeartPriscilla Ahn
6. 風をあつめてはっぴいえんど
7. kid feat. 優河Ryu Matsuyama, 優河
8. Eternally宇多田ヒカル
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Text:Kei Takebuchi
Cover art:Yoshiyuki Okada


竹渕慶(たけぶちけい)

幼少期、近所の教会でゴスペル音楽に触れることから⾳楽⼈⽣がスタート。Goose houseのメンバーとして活動後、2018年ソロ活動をスタート。2024年春フルアルバムをリリース、5月からソロ活動5周年を記念して「竹渕慶47都道府県ツアー 〜そろソロ会いに行くよ!〜」を開催。
Instagram:@keibamboo