かねてからの夢を叶えた、居心地の良さにこだわった本屋

隅田川に沿って発展してきた、東京・墨田区。昔から“ものづくりの街”として名高い墨田区は、今でも商人気質の残る下町情緒があふれるエリアだ。両国駅から徒歩約15分の位置にある〈YATO〉の店主・佐々木友紀さんは、「墨田区は広く、場所によって文化が違うからおもしろい」と話す。「本屋を始める前に街の雰囲気も知ることができるため、水道メーターの検針員の仕事をして、墨田区を隈なく回りました。 さまざまな方が住んでいる、賑わいのある街だと感じています。人とのつながりも感じていて、区内のお店同士はもちろん、墨田区の中だけではなく、たとえばお隣の台東区蔵前のお店などとも訪問し合ったり、人が温かい街というイメージ。店同士が直でつながって一緒にイベントを実施するなどの活動も盛んです」

教師になることと、お店を開くことがかねてからの夢だったという佐々木さん。地元・青森で教師として活躍したのち、もうひとつの夢を叶えるため再上京。台東区にあるブックカフェ「ROUTE BOOKS」で店長を経験したのち、2019年1月に〈YATO〉をオープンさせた。もともと倉庫だった場所を知り合いの大工と一緒に改装し、佐々木さんも実際に手を動かしたという。他の現場で余ったタイルや端材などを使い、唯一無二の空間をつくり上げた。つい時を忘れてしまうような居心地の良さが魅力である。

 

街や人とつながりを生むようなお店に


「独立系書店はどうしても置かれている本が似通る傾向もあると思うので、少し工夫してこだわって、なるべくそうならないように本を選んでいます」
 
店をはじめる当初はペルソナを設定していたそうだが、実際には子どもから80代の方まで幅広い方が〈YATO〉を訪れている。近所の方だけでなく、日本全国・海外からのお客さんも多いそう。多くの方に愛される店づくりをしていることがわかる。
そんな佐々木さんが旅に出る前におすすめの本として紹介してくれたのは、出版社インセクツが手がけた「いいお店のつくり方 保存版」。同社が編集・出版するローカルカルチャーマガジン「IN/SECTS」のVol.6.5とVol.9で紹介したお店を再取材し、まとめたものだ。あわせて、全国の書店が紹介されている「IN/SECTS Vol.13」もおすすめとして挙げてくれた。「この2冊は旅に出る前にセットで読むことをおすすめします。『いいお店のつくり方 保存版』は“つくり方“という視点でお店が紹介されており、私も〈YATO〉を立ち上げる際には京都の誠光社の堀部さんやホホホ座の山下さんが書かれたものからかなり影響を受けました。旅先で訪れるのにもおすすめのお店が多く載っていますし、読み物としても大変おもしろいです。

数多くの書店が載っている『IN/SECTS Vol.13』も本好きの方が旅先を決めるにはとても良い雑誌です。私も旅先で本屋さんを訪ねることが多くあります。特に何かに行き詰まったときに、思いつきで京都などに行き、新しいお店を訪ねて刺激を受けています」〈YATO〉の店名は、助詞の「や」、そして「と」が由来なのだそう。「本やコーヒーと〇〇」など物事の関係性を示す助詞に着目し、オープン当初はカフェスペースを設け、イベントなども行っていたという。コロナ禍の影響でカフェスペースが縮小し、本が増えてイベントをする場所がなくなってしまったため、現在は吾妻橋にイベントができる新店オープンを計画中(2024年1月現在)。

1階のカフェ・レストランの店名は「ORAND」。「や(or)」、「と(and)」を合わせた造語であり、佐々木さんの地元・青森の津軽弁「おらんど(わたしたち)」の意味も込められている。フランス語で「or」「and」の意味を持つ「OU ET(ウエ)」の名がつけられた2階は、イベントスペースの予定。〈YATO〉からは徒歩20分ほどの位置にあり、「この辺りのお店を周遊するきっかけになってくれたら」と希望を話してくれた佐々木さん。
他のお店や街、人と、多くのものをつなぎ、さらにおもしろく進化させてくれるような〈YATO〉。訪れたら、本の楽しさや街のおもしろさをより感じられそうだ。



Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う東京都観光には、墨田区の〈YATO〉がおすすめ。

YATO


所在地東京都墨田区石原1丁目25-3
アクセスJR両国駅から徒歩約15分
Instagram@yatobooks
営業時間14:00〜21:00
※日曜は13:00〜20:00(変更も多いため最新の営業時間はSNSで要確認)
休業日水曜、木曜

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