旅にまつわる仕事がしたくて始めた、旅専門の本屋さん

東京を東西に横断するJR中央線。特に杉並区内に位置する中央線沿線のエリアは、昔ながらの情緒ある街並みが残り、独特の雰囲気を醸し出している。今回訪れた西荻窪も、そのエリアのひとつ。古くから骨董店や古道具店などが多い西荻窪は“アンティークの街”として知られ、どこか懐かしく、落ち着いた雰囲気がある。

「おもしろい個人商店などが多く、他の街とは違った雰囲気があり、気に入っています」と話してくれたのは、〈旅の本屋 のまど〉店主の川田正和さん。〈旅の本屋 のまど〉は「旅」をテーマにした本を扱うお店で、2007年にここ西荻窪にオープンした。開業のきっかけとなったのは、吉祥寺にあった旅行代理店が店の一角で経営していた本屋「旅の本屋 のまど」。川田さんはそのお店で4年ほど店長として勤めていたそう。
〈旅の本屋 のまど〉店主の川田正和さん
〈旅の本屋 のまど〉店主の川田正和さん
「『のまど(nomad)』は、英語で『遊牧民』を意味します。自由さを表す言葉が気に入っていたので、元のお店が閉店する際に店名を引き継がせてもらいました。西荻窪という場所を選んだのは、そのタイミングでたまたま良い物件に出会えたから。実際に西荻窪でお店を開いてみて、古き良きものが残る街の雰囲気と、本屋は非常に相性がいいなと感じています」

旅好きで、昔から旅にまつわる仕事をしたいと思っていた川田さん。20代の頃は各地を旅し、自分が将来やりたいことを探していたという。その夢のひとつが独立書店の開業。さまざまな縁が重なり、西荻窪でオープンしてから約17年、多くの人に旅のおもしろさを届けている。

旅も人生ももっと肩の力を抜いて、自由に楽しんでいいはず


店内をぐるりと見渡すと、旅の本屋でありながら、意外にもガイドブックが置かれていないことに気づいた。川田さんに理由を聞いてみると、“誰でも楽しめる本屋にしたい”という想いがあることを語ってくれた。
 
「ガイドブックや地図、旅行記などに限定すると、旅好きの人だけに向けた本屋になってしまうと思ったんです。また、自分の趣味だけの本を置いても、来てくださるお客さんが偏ると思ったので、本の選定には気を遣っています。旅のエッセンスを感じられるものであれば、音楽や文学、スポーツなど何でも有りで、ジャンルにこだわらず、さまざまな本をそろえています。旅好きでない人も楽しめて、ここで本を手に取ったことをきっかけに旅に行きたいと思ってもらえたらうれしいですね」
女子大のキャンパスがある西荻窪は、比較的女性が多い街でもある。〈旅の本屋 のまど〉を訪れる客も、その7割が女性だという。
 
「吉祥寺に店があったときは、年配の男性客が多かったため、どっしりとした読み応えのある旅行記をよく置いていました。今は女性のお客さんを意識してセレクトした本が多くあります。たとえば写真が美しい本や、レイアウトのかわいらしい本など、『モノ』としての魅力がある本も扱っています」
 
店内には、海外の料理や雑貨をテーマにした本、韓国や北欧など特定のエリアの本など、じつにさまざまなジャンルの本があり、見ているだけでわくわくする。本を読むだけで旅行気分が味わえそうだ。
たくさんの本の中から、川田さんが旅に出る前におすすめの本として紹介してくれたのは、石澤義裕著の「今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。」という旅エッセイ。
「移住先を探して、軽自動車で世界中をめぐる夫婦の旅の記録をまとめた本です。著者の石澤義裕さんは世界を放浪しながらデザイナーとして生計を立てるノマドワーカー。自由な生き方が参考になるし、とても心惹かれます。

今の日本は昔に比べ閉塞感が強くなり、若者も真面目で、意味のないことをしたくない人が増えているように感じています。もちろん目的のために生きる人生も選択肢のひとつですが、心のままにやりたいことにチャレンジする生き方も素敵だなとこの本を読んでしみじみと思いました。旅も同様で、目的なく放浪するスタイルがあってもよいですよね」
 最後に、「ゆくゆくは旅の本屋の一角に宿泊できるスペースを備えたゲストハウスを立ち上げたい」と夢を語ってくれた川田さん。本屋併設のゲストハウスは昔からの夢のひとつ。現在、物件を探したり、いろいろな人の話を聞いたりなど実現に向けて動き出しているところだ。川田さん自身も、好奇心の赴くまま、自由に挑戦を続けている。
 


Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う東京都観光には、杉並区西荻の〈旅の本屋 のまど〉がおすすめ。

旅の本屋 のまど


所在地東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F
アクセスJR西荻窪駅から徒歩約5分
電話番号03-5310-2627
Instagram@nomadbooks
営業時間13:00〜20:00(日曜・祝日〜19:00)
休業日水曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。