境界線を自由に行き来するとき、身体に流したい音楽。
旅先では、目の前の景色や知らない言葉に心を奪われることが多いが、ふとした瞬間、そのとき居るどこかの旅先ではなく、いつもの自分の居場所や自分自身に入り込む時間も訪れる。
いつもの「こちら」側が旅先では「あちら」側になり、場所の移動も繰り返すから、町、国、世界、文化、世代、土地、様々な境界線を、縦横無尽に往来しながら感じ入ることが多い。
普段は触れることが後回しの自分の心を撫でる時間も生まれる。そういうことは旅でしかできない。つくづく、人間にとって「移動すること」「日常から遠くにいくこと」「境界線を越えること」は大事だなぁと思う。
ニューヨークやパリといった街に向かうとき、私は、日中ひたすら街を歩き回る。もれなく日の暮れる頃には足もクタクタになり、メインストリートから道を数本それて、川沿いで一息つくのが好きだ。
ドラマティックな日の傾きの風景の中で知らないその場所のベンチに座り、定点観測をしばし楽しむ。自分はいったいどこにいるのだろうと、自分の人生の地点にも、ゆるやかに思いを馳せる。向こう岸の景色が気になりだす。「明日は、川に架かる橋を越える電車に乗って、あっちに行ってみようかな」と思う気持ちは、明日への希望に気づかせてくれる。
此処から、向こうへ。
大自然に包まれるような旅でも、同じだ。見えない境界線を自由に行き来することに、旅の醍醐味を感じる。
音楽は、その土地と自分、人と人などの、境界を曖昧にして繋いでくれたり、静かに明日への力をもらうような曲たち。そして、移動のリズムを刻むもの。よかったら、旅先で試してみていただきたい。
1. Windows | Chick Corea |
2. Guys like me | Aimee Mann |
3. Shoot The Moon | Norah Jones |
4. Polaris | 上原ひろみ, Sonicwonder |
5. Last Train Home | Pat Metheny Group |
6. Star Guitar | The Chemical Brothers |
7. Wind | 明星/Akeboshi |
8. DON'T THINK TWICE IT'S ALL RIGHT | おおはた雄一 |
9. 灯火 | 優河 |
10. ハンキーパンキー | ハナレグミ |
11. さすらい | 矢野顕子 |
Text:Chris Tomoko
Cover art:Yoshiyuki Okada
クリス智子
東京のFMラジオ局J-WAVEでナビゲーターデビュー。
現在はJ-WAVE「GOOD NEIGHBORS」(月〜木13:00〜16:00)レギュラーナビゲーターの他、MC、ナレーション、エッセイ執筆など幅広く活躍中。
https://christomoko.com/
Instagram:@chris_tomoko