守っていきたい、昔ながらの食材の旨み。

滋賀県信楽、湖南アルプスの山中に、知る人ぞ知る美術館〈MIHO MUSEUM〉がある。“幾何学の魔術師”と称され、ルーヴル美術館の設計で有名なイオ・ミン・ペイが手がけた建築が、豊かな自然の中に美しいコントラストを生んでいる。美術館を運営する公益財団法人秀明文化財団は食の大切さも発信していて、レストランでは季節の農作物を主役にしたメニューを展開している。「ここで使うのは農薬や肥料を使わず自然な力で育った野菜や、昔ながらの製法で作る調味料など。にんじんやトマトなどが本来持つ強い味わいに驚かれることが多いんですよ」とシェフが教えてくれた。海外からの観光客でもリピーターがいるといい、この店ならではのおいしさがあるのは間違いなさそう。季節ごとにメニューをほぼ一新するというランチを見てみよう。

 

素材の力を信じて作られる、優しく力強い食事。


シグネチャーとなる「おむすび膳」だけは、食材を変えつつどの季節でも提供される。自然釉の風合いが素敵なメインの器は辻村史朗さんによる作だ。古代米と白米のおむすびに添えられているのは、だし巻き卵を中心に、煮物、焼き物、揚げ物など、調理法の違うさまざまな副菜。控えめの味付けで、じんわりとしたおいしさだ。「動物性の食材はできるだけ使わないのがベースの考えで、出汁に頼らず野菜の力を信じています」とシェフ。4種の味噌をブレンドして奥深さを追求した味噌汁は、玉ねぎを炊いて引き出した旨みもプラスされている。
おむすび膳につく自家製豆腐は、これを目当てに訪れる人もいるというほどの名品。北海道産の最高級品種「鶴の子大豆」を使い、消泡剤なしのナチュラルな味わいに。添えられているのは、宮古島で作られる「美ぎ島(かぎすま)の塩」。太陽熱と風で濃度を上げた海水を職人が丁寧に仕上げた塩は、パウダー状でサラサラ。豆腐にかけてもさっと溶けてしまう。豆腐を固めるニガリも、この塩とともに作られてものだそう。
「MIHOとうふ」は単品でも注文でき、お土産にすることもできる。
「MIHOとうふ」は単品でも注文でき、お土産にすることもできる。

春、夏、秋と変化する畑の景色を食卓に。


「おむすび膳」以外には、一汁一菜の定食や麺料理など3〜4種類のランチが用意されている。その季節にとれる食材次第で料理を考えるため、和食だけでなくイタリアンや中華などさまざまなジャンルに。この夏いただけるのは、ナスの大豆そぼろあんかけと冷や汁の定食。織部や志野焼など、同じメニューを頼んでもそれぞれ違った器に盛られるのも楽しい。
春にはキャベツや桜の梅酢漬けを使ったショートパスタが登場した。半粒粉でミネラルたっぷりのパスタを味わわせるため濃い味のソースは使わず、ガーリックオイルで極力シンプルに。夏の定食と同じく大豆ミートが使われていてヴィーガン志向の人でも安心でき、米粉麺のチョイスもあるから、グルテンフリーへの対応もできるそう。だからといって物足りない味なわけではなく、きちんと旨みが感じられるのは、そのとき一番元気な食材が使われているからかもしれない。

 

研鑽を惜しまないシェフの革新的なレシピ。


美術館が休みになる冬季は、シェフの大切な修業時間。この期間に他のレストランで働きながら、腕を磨いているのだそう。そうしてブラッシュアップしながら、ここでしか食べられない新しい料理にもトライしている。たとえば取材の日にオンメニューしていたのが「桃谷そば」。動物性食材を使わずにスープを作ることにこだわり、試行錯誤して出来上がった2種のラーメンを考案した。トッピングの野菜も美しく、お腹も心も満足する。「あっさり派の方に」という「桃谷そば 黒」。昆布だしを土台に、薄口、濃口、焦がして香りを立たせた大和醤油と3種の醤油を掛け合わせたスープだ。一方、「桃谷そば 白」は、昆布だしと野菜だしに3種の白味噌を混ぜたスープ。「定食の味噌汁もそうでしたが、同じ系統の調味料を何種類も重ねることで奥行きのある味になるんです。動物性食材を使わずにおいしいスープを作るのは大変でしたが、今回納得のいく味が完成しました」と、シェフも自信の作だ。人気メニューは来季も登場する可能性が高いから、出会えたらぜひ試してみて。

 

大自然の中で、大自然を味わう。


美術館まではJR石山駅からのんびりバスに揺られて約50分。おいしい昼食を目指し、緑の中を満喫しよう。
建築に合わせて選ばれた家具は、デンマークの家具メーカー「マグナスオルセン」。隅々まで質が保たれている。
建築に合わせて選ばれた家具は、デンマークの家具メーカー「マグナスオルセン」。隅々まで質が保たれている。


Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う滋賀県観光には、MIHO MUSEUMの〈Peach Valley〉がおすすめ。
 

Peach Valley


所在地滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300
アクセスJR石山駅からバスで約50分
電話番号0748-82-3411(美術館代表)
URLhttps://www.miho.jp/restaurant/
営業時間11:30〜14:30
休業日月曜(祝日の場合は各翌平日)、冬季、展示替え期間

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。