目的地にしたい料理屋【朔】
自生している茶葉を手摘みしたお茶を使ったスパークリングティーが、この日のウェルカムドリンク。芳醇な香りに初っ端から感激する。
料理のメニューは「季節のおまかせ(9~10皿)」¥7,700(税込)のコース1種類のみ(内容は仕入れ状況や時期により異なる)。前菜は、鳥羽産サザエと美杉の山の幸の合わせ盛り・稚鮎の白扇揚げ・米ナスのオランダ煮・アマゴの握り・ほうれん草と水菜の胡麻よごしの5品。
佐知子さんの故郷・三重県海山を流れる銚子川は日本でも有数の清流。その透き通るコバルトブルーを写した器に、炭火で1時間じっくり焼いた新鮮なアマゴが泳ぐ。頭から尻尾までガブッと、丸ごと。
お椀は空豆のスリ流し。伊勢湾の鰆と原木椎茸、蕪、モッツァレラチーズ、米団子に、香り高いジャバラをぱらり。絶品。
お肉は美杉在住の罠師・古田洋隆さんが仕留めた鹿肉のロースト、畑の野菜添え。「古田さんの鹿は間違いないです」(敬さん)。後ろ脚に罠が掛かると逃れようと暴れて肉に傷がつき、体温も上昇して味が落ちる。古田さんは、そうならないように罠を前脚で踏ませることが出来るというからすごい。
「ちょうど那須で家を建ててたんですよ。ハーフビルドみたいな感じで5年かけてコツコツやってて、最後の最後に自分の大工部屋に棚を作って、そこにスプレー缶を置く、っていうときにグラグラッときて」(敬さん)
「そしたらこの人がまた急に大工仕事し出して。何やってるかと思ったら、車に乗せるための山羊用の移動小屋を作ってるんですよ。それでもう、あっ山羊連れてみんなで行くんだなって。3月15日の朝には、家族で三重に着いていました」(佐知子さん)
「物件はネットで1,000軒くらい見たと思います。“水がきれい”、“自給できる環境”、“安い”の三つを条件にとにかく探して。京都とかも見てたんですけどなかなか条件が合わなくて。三重に絞って探したら、ふっとここが出てきて、まず一番安かった(笑)。それとなんとなく可能性を感じて、とりあえず下の古民家を見にきたんです。結局1,000軒探したけどここしか内見しないで決めちゃった(笑)。家っていうよりやっぱり川かな。あの川がよかった」(佐知子さん)
「子供らを放したら、もうずっと川に夢中なんですよ。ぜんぜん家なんて見てなくて(笑)。でもその反応を見てここに決めたっていう感じですね」(敬さん)
締めのお食事は、自家栽培の白米と赤だし、糠漬け。ご飯はまずはそのままでいただき、2杯目はお焦げ。さらに3杯目は鹿肉丼か、菜種油と塩をかけたもの、お醤油をひと垂らしして炙った香ばしいご飯から選べる。きれいな水と空気の中で自然農法で育ったお米を竃(かまど)炊き。美味しくないはずがない。
「ここに手を入れるのと同時に経済的なことなんとかしないとと思っていたので、家のことをやりながらバイトをして生活していました。この人は教員免許を持っていたんで、そのうち地元で講師をやるようになって」(敬さん)
「いやなんかね、“無駄に時間を費やしてるな”っていう気がしたんですよ。(敬さんは)バイトであっても100%やってしまうから、下手したらそのままそっちに行ってしまいそうで。
でも私はもっと家のこと、中のことに真剣に向き合ってほしかった。だから私が外に出て働いて、この人にはここのことに集中してもらって。“どう生きていくか”ということに…なんで、4年くらいかかりましたね」(佐知子さん)
「山をお借りしている身ですから。こんなところで営業していて、汚れた水を川に流すっていう時代じゃない。ましてこんな上流で汚してどうすんのって話で。でもこういう場所だからこそ、そんなようなことが出来ているんですけどね。
水菓子は自生のニッキと豆乳のゼリーに茶葉ソースをかけたもの。
自家製ヨーグルト入りクッキーと茶葉入りクッキーは、お茶と一緒に。こちらは近くのお菓子屋さんにオーダーしている。
今日はもう、ここで過ごした時間で1日を終わらせたい。余韻に浸って舌も感覚も更新したくない。そんなお店に出会えたことが、この上ない幸せだ。
Text: Kei Yoshida
Photo: Hako Hosokawa
いつもと違う三重県観光には、津市美杉町の〈朔 saku〉がおすすめ。
朔 saku(さく)
所在地 | 三重県津市美杉町八知3541 |
アクセス | JR松阪駅から車で約50分 JR名松線 伊勢鎌倉駅から徒歩約20分 |
電話番号 | 080-6928-3939 |
URL | https://saku.jp.net/ |
営業時間 | 11:30〜16:30(11:30〜/13:15〜の2回・完全予約制) |
休業日 | 水曜、木曜、金曜 |
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