浜松という地域に根ざしながらも、窓は世界に向いている。そんな本屋を作りたい。


JR浜松駅から田町中央通りを北へ歩くこと約8分。ゆりの木通りの交差点に昭和レトロなビルがある。KAGIYAビル。その2階にある〈BOOKS AND PRINTS〉は、浜松出身の写真家・若木信吾さんがオーナーを務める書店だ。「浜松という地域に根ざしながらも、窓は世界に向いている。そんな本屋を作りたい」。そんな思いを形にしたのだという。
東海道の交通の要所として、また、城下町として栄えた浜松は、静岡県でもっとも人口が多い都市。戦後の高度経済成長期に建てられたKAGIYAビルも、かつては地域の人で賑わう場所だった。しかし時代とともにテナントは減り、気づけば廃ビル寸前に。そこで地元の不動産会社が立ち上がり、新オーナーとなってリノベーション。今ではセレクトショップや雑貨店、カフェなど個性的なテナントが入居し、今回の目的地でもある書店とともに、浜松の文化発信基地の一翼を担っている。

 

偏っていてもいい。独自の視点が、おもしろさにつながる。


〈BOOKS AND PRINTS〉では、若木さん自身が本のセレクトを担当。本人が若いころニューヨークに留学していたため、アメリカの写真集は充実している。一方で「一般的な写真集専門店だったらあるべき写真集がないことも珍しくない」と店長の新村(しんむら)さん。「若木信吾の本棚というか、若木信吾の頭の中を見られるというか。そこを楽しみに来られるお客さんが多いと思います」。他にも若木さんの絵本レーベル〈若芽舎〉の絵本や、トークイベントのゲストに参加された方の書籍も扱っている。
今回、数ある本の中から新村さんに選んでもらったのは、岡本仁さんの「また旅。」というエッセイ集。雑誌「暮しの手帖」で連載されていた「今日の買い物」(のちに「また旅。」にリニューアル)をまとめたもの。浜松編では〈BOOKS AND PRINTS〉も紹介されているが、新村さんは取材先候補のリストアップに協力し、取材現場に同行したそうだ。「岡本さんと一緒に取材先に行って、一緒のものを見て。『どういう文章になるんだろう?』と考えるのも面白かったし、贅沢な経験でした。思い入れの強い本です」。実はコロナ禍の中、店頭でよく売れた本だった、というのも選考理由のひとつとして挙げてくれた。「旅に出る前に読んだら楽しい、行きたくなるワクワク感が増す本だと思います。その土地の人におすすめの場所を聞いて、岡本さんが自分でそこを歩いてみて、いいなと思ったところをまとめている。シンプルですが、やはり岡本さんの視点が面白いんですよね」。
〈BOOKS AND PRINTS〉は、浜松という街にとって、どんな存在になっているのだろうか。新村さんに聞いた。「ウチは偏った本屋なので、若木信吾が大好きで、写真集が大好きで、みたいな人が多いです。近くに静岡文化芸術大学やデザイン系の学校もあるので、学生も多いですかね」。ビルの4階にはギャラリーがあり、写真展やトークイベントなども開催している。そこから広がる人脈もあるそうだ。「若芽舎で出した絵本『しんまいぐま』は、ギャラリーでの展示会がきっかけでイラストレーターのオカタオカさんと知り合い、出版につながりました。他にも、よくお店に来ていた静岡文化芸術大学の卒業生に、デザインの仕事をお願いしたことも。そういうつながりはできつつあります」。将来的には、いろいろな才能を持つ人が集まり、羽ばたいていく場所にしていきたいと新村さんは話す。「ウチのトークイベントのゲストに来て『私、昔ここでスタッフやってたんですよね』みたいな。そういう場所になれたらいいですね」。
Text:Atsushi Tanaka
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う静岡県観光には、浜松の〈BOOKS AND PRINTS〉がおすすめ。

BOOKS AND PRINTS


所在地静岡県浜松市中区田町229-13 KAGIYAビル201
アクセスJR浜松駅から徒歩約8分
電話番号053-488-4160
URLhttp://booksandprints.net/
Instagram@books_and_prints
営業時間13:00〜18:00
休業日火曜、水曜、木曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。