丘の上に立つ美術館には、気持ちのいいフレンチ・イタリアンがあった。


愛知県のほぼ中央に位置する岡崎駅へは、新幹線の豊橋駅を降りて、東海道本線へ乗り継いでたどり着く。そこからタクシーを走らせていると、直線的なデザインが美しい建物が見えてきた。岡崎市美術博物館だ。球技場やテニスコートがある岡崎中央総合公園の中にあって、広大な土地に驚かされる。標高は130mと、ほどよい高さの丘には爽やかな風が吹き抜けていた。眼下には、旅の疲れも忘れさせる景色が広がっている。
美術館の入り口に、今回の目的地がある。ここ〈YOUR TABLE〉は、その絶景も楽しめるレストラン。テラス席も充実し、広い空と気持ちの良い空気を味わいながら料理をいただけそう。インテリアは北欧の家具で揃えられていて、さすがはミュージアムレストラン。居心地の良さも魅力的だ。

愛知県産食材を使った、カジュアルだけど特別感のあるランチコース。


日中は、フルハイトの窓から太陽の光が気持ちよく入ってくる。ここでは、ぜひゆったりとランチコースを。スタートは、とうもろこしのポタージュ、キャロットラペ、レッドキャベツのマリネ、キャラメリゼしたナッツ、プロシュットなど、目に鮮やかな前菜8種が盛り付けられたプレートから。シャキッと新鮮な野菜は地元産を中心に扱い、レストランの運営会社がある広島の食材も使われることが多いらしい。スパイスやハーブの効いた品々は、よく冷えたビールや白ワインにも合いそうだ。
ランチコースは、前菜プレート、メインのほか、パンかライス、食後のドリンクがつく(カクテルは対象外)。カトラリーには「クチポール」を使っている。
ランチコースは、前菜プレート、メインのほか、パンかライス、食後のドリンクがつく(カクテルは対象外)。カトラリーには「クチポール」を使っている。
メインは、パスタや肉料理など、5〜6種類から選べる。定番人気の「ストウブ」のココットで焼き上げた壺焼きチーズボロネーゼのパスタは、チーズがたっぷり。表面を覆ったチーズ、ボロネーゼをかき混ぜながらいただけば、いくつもの旨味がおそってくる。ココットが温度を保ってくれるので、いつまでもアツアツ。麺にはイタリア産セモリナ粉100%のスパゲッティーを選び、もちもち、つるっと食べやすい。美術館の企画展に合わせた特別メニューも登場。この日開催されていた展示にちなみ、地元の銘柄豚「三河もち豚」を使ったメニューがいただけた。白いんげん豆やにんじんと一緒に長時間煮込んだカスレは、肉がスプーンでも切れるほどほろっと柔らかく優しい味わい。もっちりとした肉質がユニークな三河もち豚は、プロシェットやリエットなど、ディナーのアラカルトでも使用される。
豚肉と野菜の旨味が染み出したスープはパンで拭って残さずいただきたい。三河もち豚と白いんげん豆のカスレ風のコース2,600円(現在は終了)。
豚肉と野菜の旨味が染み出したスープはパンで拭って残さずいただきたい。三河もち豚と白いんげん豆のカスレ風のコース2,600円(現在は終了)。
美術館の展示は3か月ごとに変わり、岡崎の文化財をはじめ、日本画、漫画、西洋画などジャンルはさまざま。その度に新メニューを考える〈YOUR TABLE〉のシェフについて「企画の内容によっては、エスニックやアフリカンなどの要素が取り入れられることも。フレンチとイタリアンが主体ですが、引き出しの多さにはいつもびっくりしますね」と、店長の濱嶋さん。ランチ、カフェ、ディナーとすべてのフードを手掛ける職人気質で、デザートだけを目当てに来るお客も少なくないという。
大きな窓から岡崎市を見下ろせる。
大きな窓から岡崎市を見下ろせる。
ビジュアルもかわいいケーキは、季節のフルーツのタルトやレアチーズケーキに加え、オペラ、シュークリーム、モンブラン、チーズケーキ……と10種類ほどがショーケースに並ぶ。パティスリーかと思うほど、「今食べたい」スタンダードなアイテムがそろっているのがうれしい。ほか、旬の果物を使った焼きたてパンケーキもふわふわでインパクトが強く、人気が高いそう。
季節のタルト620円、カフェラテ550円。
季節のタルト620円、カフェラテ550円。
季節のフルーツタルトは、ドーム型のクリームにカットしたイチゴなどを端正に並べたもの。さっぱりとした生クリームとカスタード、爽やかなフルーツ、まろやかな甘みのアーモンド生地でペロリと食べられる。デザートにも地元食材を積極的に取り入れている。岡崎おうはんのプディングには、濃厚な旨味とコクがあるブランド鶏の卵を使用。バニラビーンズも効いていて、香りも芳醇だ。とろんとしたテクスチャで、まるでカスタードをそのまま食べているようなリッチな味わい。「岡崎おうはん」の卵は、カルボナーラにも贅沢に使われている。

ドリンクにもこだわりあり。ティーセレクションにはサンフランシスコ発の「マイティーリーフ」がラインナップし、高品質な紅茶やハーブティーがいただける。この「マイティーリーフ」はティーポーチが土に還るバイオ素材で作られ、糸の部分には天然のコットンが使用されていることから、自然や健康意識が高い人に人気を集めているブランド。旅先でふとした発見があるとうれしいもの。「車でいらっしゃるお客さんが多いので、シャーリーテンプルなどのノンアルコールカクテルも充実させています」と濱嶋さん。ワインもセラーを設けて揃えているが、ノンアルコールスパークリングが用意されているのも、ここならではのおもてなし。

 

この空間で味わうから、もっとおいしくなる。

開放的な空間に、圧巻の眺望。唯一無二のロケーションに、心が躍る。美術館でアート鑑賞をした後の休憩なら、その感動もひとしおかもしれない。が、レストランだけを楽しみにくる人も多そう。テラスには小さな子ども連れやペット連れが思い思いに過ごしていた。だれもが気兼ねなくゆっくりとできるレストランは、案外なかなか見つからない。カジュアルな魅力がある一方、週末になると“ハレの日”のディナーに訪れる人が増えるという。店の奥には街の夜景を一望できる特等席の半個室があり、一番人気の場所だ。この建築は美術館と同じく、平等院鳳翔館などを設計してきた栗生明さんによるもの。窓のある一面はアールを効かせて柔らかな印象がある反面、コンクリート壁のデザインや高い天井でクールな表情も同居。天井から吊り下がる照明が、空間にリズムをつけている。
昼と夜で表情がガラリと変わる。夜景が見えるようになるディナータイムには、パーティーが催されることも。
昼と夜で表情がガラリと変わる。夜景が見えるようになるディナータイムには、パーティーが催されることも。
美術館の下には暖かな日差しをたたえる恩賜池が。周りには日本庭園や遊歩道があり、ランチの後に敷地内を散歩するのもいいかもしれない。
料理やスイーツ、ドリンクまで、季節ごとの味わいが楽しめて、時間による表情の変化も面白い。いつ訪れても、ここでしか出会えない一品をいただけそうだ。
入口と店内のアートは、愛知県立美術大学出身の松村かおりさんによるもの。
入口と店内のアートは、愛知県立美術大学出身の松村かおりさんによるもの。


Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う愛知県観光には、岡崎市の〈YOUR TABLE〉がおすすめ。
 

YOUR TABLE(ユアテーブル)


所在地愛知県岡崎市高隆寺町峠1 岡崎市美術博物館
アクセスJR岡崎駅から車で約30分
電話番号0564-28-0141
URLhttps://your-table.owst.jp/
営業時間木 11:00~17:00(LO 16:00) 火・水・金 11:00~17:00(LO 16:00)/18:00~21:00(LO 20:00) 土・日・祝 10:00~17:00(LO 16:00)/18:00~21:00(LO 20:00)
※ディナーは予約制の金・土・日・祝のみ
休業日月曜

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