インテリアもプロダクトも、ここで見つける小さなアート。


JR岡崎駅からタクシーに乗り約30分。ぐんぐんと丘を登ってたどり着いたのは球技場やテニスコートがある岡崎中央総合公園だ。その中にある岡崎美術博物館の敷地に入ると視界が一気に開け、深呼吸が気持ちいい。ここに、今回目指すセレクトショップがある。

美術館のある愛知県岡崎市は、徳川家康生誕の地としても知られる街。家康が暮らした岡崎城跡から東へ約7kmの場所にあるのが、その名を〈YAGURA〉と冠したセレクトショップだ。街を見下ろす天守閣のような眺めが、屋号の由来だという。ミュージアムショップとしての役割だけでなく、独自のセンスで国内外から集めるデザイン雑貨にも触れられる。街中の土産店とも東京のセレクトショップとも違う買い物体験ができそうだ。

 

国内外からセレクトする、佇まいの良い品を生活の一部に。


〈YAGURA〉は、岡崎市の隣・安城市にあるインテリアライフスタイルショップ〈soup.〉の姉妹店。店を営む松本典之さんは「良いデザインに触れてもらいたい」と、家具や日用雑貨、民芸品などをセレクトしている。街中にある〈soup.〉と違って山を登ってわざわざ訪れる場所だからこそ、美術館ではなくこの店が目的地になるような特別な演出が随所に感じられる。
〈soup.〉は創業18年を迎え、作り手とのコミュニケーションも密にとってきた店主の松本典之さん。
〈soup.〉は創業18年を迎え、作り手とのコミュニケーションも密にとってきた店主の松本典之さん。

ディスプレイの棚は、店名にもある矢倉をイメージしたデザインが印象的。決して広くはない店内に、「柳宗理」や「ミナペルホネン」などの人気ブランドをはじめ松本さんが集めた品が所狭しと並んでいる。松本さんが店を始めたのは、日本の民藝運動に影響を与えたデザイナー、チャールズ&レイ・イームズがきっかけ。世界中から民芸品を集めたイームズ夫妻の家ように、松本さんが選び取ってきた国内外のデザインは不思議な調和を生み出している。

手前のテーブルに並べられた木の葉猿は、イームズハウスでも見かけたものだという。
手前のテーブルに並べられた木の葉猿は、イームズハウスでも見かけたものだという。

新たな目線で、デザインに触れる。

左から、リサ・ラーソンの「ミア」15,440円(セミミディアム)、遮光器土偶2,640円(12cm)、仮面土偶5,940円(19cm)。土偶や埴輪は、亀ヶ岡遺跡などの出土品のレプリカを作る「夢職人」によるもの。
左から、リサ・ラーソンの「ミア」15,440円(セミミディアム)、遮光器土偶2,640円(12cm)、仮面土偶5,940円(19cm)。土偶や埴輪は、亀ヶ岡遺跡などの出土品のレプリカを作る「夢職人」によるもの。

スウェーデンの人気作家、リサ・ラーソンの陶芸が古墳時代の土偶と同じ棚にディスプレイされているのは、新鮮な景色。「リサ・ラーソンの作品を見た時、国内にも匹敵するものがあるような気がしました。 “日本の陶芸の元祖”とも思われる埴輪や土偶も、こうして並べると新しい魅力が感じられます」と松本さん。教科書や博物館でしか見ることのなかった素焼きの土偶も、松本さんも目線が加わると素敵なインテリアに見えてくる。

店内では、ミュージアムグッズや企画展限定品だけでなく、展示に合わせたアイテムをそろえることも。美術館の帰りに立ち寄るなら、アートの余韻をより長く楽しませてくれそう。過去には、企画展「暮らしのうつりかわり」に合わせ、東京・谷中の荒物問屋〈松野屋〉から竹かごやザルなどをそろえた「あらもの市」が人気を博した。さらに、店独自のイベントを開催することもある。沖縄の焼き物を集めたやちむん市は、〈soup.本店〉〈soup.Life Store〉を含めた3店のいずれかで毎年開催される評判の企画。やちむんや〈松野屋〉などは普段ショップにも並ぶが、その作り手を深掘りできるのはうれしい体験だ。

 

手に取るアイテムが、街を深く知るヒントに。

〈YAGURA〉は作品に込められたストーリーも含めて紹介してくれる。いま店で特に人気があるのが、起き上がり小法師「寅童子」だそう。これは、徳川家康の逸話に基づいた縁起物。「寅年、寅の日、寅の刻に家康が生まれると、母・於大の方が出産前に参詣した鳳来寺の十二神将像のうち、『寅童子』と呼ばれた真達羅大将像が姿を消し、家康が亡くなると戻ってきたといいます。家康は、以来『寅童子』の化身と信じられるようになり、天下統一まで七転び八起きの人生を送りました。それで、起き上がり小法師に虎の絵を施した郷土玩具が生まれたんです」(松本さん)。

黒は、新型コロナウイルスの終息を願って厄除けの意味を込めて作られた新色。1体1,320円。
黒は、新型コロナウイルスの終息を願って厄除けの意味を込めて作られた新色。1体1,320円。

鳳来寺が鎮座し、起き上がり小法師が作られる新城市は岡崎市の東隣。窓の外からの景色は家康も眺めたものかもしれない。この店でしか感じられない思いが湧いてくる。

左から、彩雛2,800円(一対)、鯉のぼり1,400円(大)、ペーパウェイト各700円。
左から、彩雛2,800円(一対)、鯉のぼり1,400円(大)、ペーパウェイト各700円。

そんな風に、ものづくりの背景を知ると思わず語りたくなる。この美しい作品は、岡崎市内で回収された廃ガラスびんを再利用して作られたもの。市が運営する〈岡崎リサイクルプラザ〉内の〈岡崎ガラス工房葵〉で、3人の女性作家が制作しているという。雛人形や鯉のぼりなど季節に合わせてテーマも変わり、それぞれの作風で個性豊かに作られていて目移り必至。県外からの人気も高まっているというのも納得だ。〈岡崎ガラス工房葵〉のアイテムは市内の限られた施設のみで販売されているというから、お土産にもぴったり。

工芸品以外にも、お菓子やお茶、衣類、メッセージカードなど、衣食住のアイテムが粒揃い。中にはスタンダードなプロダクトもあるが、旅先で見つけたものはたとえ家の近所で手に入るものでも特別に思える。じっくりと考えながら、ライフスタイルをアップデートするのもいいかもしれない。〈YAGURA〉でしか手に入らないカフェオレベース。岡崎のカフェ〈洋食喫茶もりねこコーヒー〉のオリジナルブレンドだ。かつて〈soup.〉にあったコーヒースタンドを、この店主が手がけた縁が繋がっている。旅の目的地にしたい場所が、もう一つ増えた。

ショップがある美術館のエントランスは、開放感抜群な高さ11.35mのホール。この建築に馴染みつつ、存在感を放っている。


Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う愛知県観光には、岡崎市の〈YAGURA〉がおすすめ。

YAGURA(ヤグラ)


所在地愛知県岡崎市高隆寺町峠1(岡崎市美術博物館内)
アクセスJR岡崎駅から車で約30分
電話番号0564-83-5952
URLhttps://b-soup.com/shop/yagura/
営業時間10:00〜17:00
休業日月曜(岡崎市美術博物館の開館スケジュールに準ずる)

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。