いくつもの夜空に旅の記憶が呼び起こされる。

数年ぶりにキャンプをした。

向かったキャンプ場は、元は牧場だったそうで、たいそう広々としており、木立の奥に八ヶ岳が望めるところだった。八ヶ岳は大好きな山域で、趣味である登山の目的地としても、以前は頻繁に訪れていた。けれど、キャンプも登山も、今は家族が増えて小さな子どもが二人いるので、足が遠のいている。

久しぶりにひとりテントで寝た（仕事だったので）。子どもが横におらず、開放感に浸るつもりだったのに、実際はなかなかなか寝付けない。テントから外を覗いたら、新月だったこともあり、星空が広がっていた。夜空を見上げることも、久しぶりだと気づいた。

ふたたび寝袋に入って目を瞑ると、まぶたの裏、暗闇のなかに星空が浮かんだ。さっき見た星空、以前に八ヶ岳の山上から見た星空、それよりずっと前に遠く旅先で見た星空。過去に見てきたいくつもの夜空が思い起こされ、同時に、その時々の旅がどんなだったか、たくさんの記憶が呼び起こされた。夜空は無限につながっていた。

慌ただしい日常を送っている東京に戻っても、思い出すことができるたくさんの星空や夜空。そこには、こんな音楽が流れていたと想像を膨らませた。
 

Text：KIKI
Cover art：Yoshiyuki Okada

KIKI

モデル。東京都出身。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。
雑誌をはじめ、広告、TV出演、連載の執筆、近年では芸術祭に作家・審査員・キュレーターとして参加するなど活躍の幅を広げている。
旅や登山をテーマにしたフォトエッセイ『美しい山を旅して』（平凡社）など多数の著書がある。
Instagram：＠kiki_campagnepremiere