東京多摩地区初のクラフトジン蒸溜所〈東京八王子蒸溜所〉を訪ねる。
「トーキョーハチオウジン」。商品名を見たとき、即座に東京八王子で生まれたジンだと思った。調べてみると、オープンして間もない蒸溜所のよう。おしゃれなレストランを思わせるモダンな外観、蒸溜所が生まれたストーリーなどをホームページで見て、気になってたまらなくなった。実際に訪れて、新しいクラフトジンに会いに行こう。
宿場町として栄えたこの地で新たなジンを発信
東京駅や新横浜駅から約1時間ほどの位置にある狭間駅。高尾山のほど近くにあるこの地域は自然に恵まれたのどかなエリアで、古くから宿場町、そして織物の町として栄え、工業地帯として発展してきた。今では閑静な住宅街が広がるこの地域に、東京多摩地区初のスピリッツ蒸溜所が誕生した。
1階部分をガラス張りにし、あえて“つくる工程を見せる蒸溜所”にしたのも、発信力を高めたいという考えから。多くの人にクラフトジンの成り立ちに興味を持ってもらうことで、日本のジン業界を盛り上げたいという想いが込められている。
さまざまな経験をクラフトジンづくりに活かして
「大信工業では化学製品である樹脂製品をつくっています。一方でお酒づくりも化学の分野。主原料に添加物を加え、機械を用いて製品化する工程は非常に似ていると感じます。樹脂製品は樹脂を熱して液体にしたものを個体にして加工、クラフトジンづくりでは液体を気体にして液体に戻す蒸留が行われます。最終的な製品が固体か液体か、それくらいの差だと思っています」
モノづくりに携わってきた中澤さんならではの視点だ。同じ加工業と捉えていたからこそ、クラフトジンづくりに挑戦することに抵抗がなかったという。そう話す中澤さんとクラフトジンの出会いは、2019年頃。北海道のバーで「飲める香水」と呼ばれる「DISTILLERIE DE PARIS GIN BEL AIR」と出会い、ジンのイメージが覆った。ジンのつくり方に興味を持ち、調べたことがきっかけで、クラフトジンの無限の可能性に気づく。
「昔から興味があるものには飛び込んでいくタイプの人間だった」と笑って話してくれた中澤さん。
そのお話の通り、これまで中澤さんはさまざまなことを経験してきた。高校卒業後はアメリカの大学に進学し、帰国後には音楽家としての活動をスタート。飲食業界でも経験を積んだ後、最終的に家業を継ぐ決断を下す。
あえて正統派のロンドンドライジンから
「ずっと音楽に携わってきたので、まずは基本を押さえたいという気持ちが強いのだと思います。基礎練習をしっかり行うからこそ、どんな曲でも応用がきくようになります。それにロンドンドライジンも都市部で生まれたジンです。東京でクラフトジンづくりをするなら、あえてスタンダードを意識したロンドンドライジンから始めたいと思いました」
「クラフトジンだからロックで飲まなければいけないと思う方もいるようなのですが、僕としてはいろいろな飲み方を試してほしいと思っています。ソーダ割りやジントニックでもいいし、オレンジジュースで割ってもらっても。どんな組み合わせが合うか楽しみながら試せるところも、ジンの醍醐味です」
「トロンボーンはメロディーを担当しないけど、土台のハーモニーをつくる楽器。同じく、ジンもカクテルの土台をつくる存在だと思っています。現在、このシリーズは業務用酒販店との取引が多く、バーなどの飲食店でも取り扱われているようなので、バーテンダーさんが曲を演奏するようにさまざまな飲み方で自由に表現してくれたら嬉しいです」
中澤さんは「クラフトジンはつくり手の人間性が出る」とも話してくれた。ただ味わうだけでなく、クラフトジンの背景に想いを馳せながら飲むのも、ひとつの楽しみ方なのだと感じる。
蒸溜所見学でクラフトジンの成り立ちを知る
蒸溜所ツアーは、実際に蒸溜所の中を案内してもらった後、2階のBarで「トーキョーハチオウジン」シリーズを楽しむまでがセットとなっている。蒸溜所見学では、ハーブ庫や蒸溜器などを間近で見ながら、クラフトジンの製造工程について学ぶことができる。まずはハーブ庫から。扉を開けた瞬間、ハーブのいい香りが鼻腔をくすぐる。種類の多さに驚きながら、改めてジンには多くのハーブが使用されているのだと実感する。特別に、ジンづくりには欠かせないジュニパーベリーを試食させてもらった。小さな実にジンの中核となる味わいが凝縮されていて、かつ生の実らしいフレッシュな風味を感じることができる。
「漬け込む手法以外に、蒸気で香り付けしてより華やかな香りのジンをつくることもできます。基本のつくり方を押さえたので、今後はさらに勉強してさまざまなジンを開発していきたい」と中澤さん。
中澤さん曰く、クラフトジンづくりは“何を使うかより、どう使うか”が大事なのだそう。どんなハーモニーを生み出したいかを考え、味の骨格をつくる。音楽も構成する音の違いでまったく違う曲ができる。音楽に精通している中澤さんならではのクラフトジンづくりだと感じた。
目指すは八王子から世界へ
来月には第3弾目のクラフトジンの発売を計画している〈東京八王子蒸溜所〉。今後はスタッフを増員し、蒸溜所ツアーの開催回数を増やしたいと考えている。
「このエリアは牧場や農園など頑張っている企業が増えていて、盛り上がりつつあります。〈東京八王子蒸溜所〉も観光スポットのひとつとして、地域の活性化に貢献できたらと思っています。さらにこれから生産量を増やしていって、日本全国にクラフトジンを届けられるようになりたいですね。ゆくゆくは海外展開も目指しています」
Text: Ayumi Otaki
Photo: Hako Hosokawa
いつもと違う東京都観光には、八王子市の〈東京八王子蒸溜所〉がおすすめ。
東京八王子蒸溜所
所在地 | 東京都八王子市椚田町1213-5 |
アクセス | 京王高尾線「狭間駅」から徒歩8分 |
電話番号 | 042-664-0578 |
URL | https://hachioji-distillery.jp/ ※蒸溜所ツアーは予約制です(不定期開催) |
※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。