昭和28年創業の老舗和菓子店が営む、暮らしの複合ショップ


日本に12しかない現存天守。そのひとつである彦根城はかつて、内堀・中堀・外堀という三重の堀に囲まれていた。外堀は埋め立てられたものの、当時の町割りは現在も残っている。彦根市中央商店街は内堀と外堀の間に位置する商店街。通りに面した片側アーケードに、昭和レトロを感じる。その一角に〈&Anne(アンドアン)〉はある。隣接する老舗和菓子店〈菓心 おおすが〉が運営する、洋菓子店と書店と展示室(ギャラリー)という3つの空間を持つお店だ。
オープン時から働いているというスタッフさんに話を聞いた。「ここは元々空きビルでした。〈おおすが〉のオーナーが『商店街を盛り上げたい』とビルをリノベーションして2013年にオープンしました。お菓子を買ってすぐに帰るのではなく、雑貨を見たり、本を選んだり、ゆったりした時間を過ごしていただきたい。そんな思いで暮らしに近い商品を紹介しています」。店名の「Anne」は、あんこの餡。まさに「あん(お菓子)と一緒に」である。

流行り廃りに流されるのではなく、毎日を淡々と、丁寧に


和菓子にとって餡は、命を吹き込む大切な存在。〈&Anne〉で扱っている商品はすべて、オーナーがひとりで選んでいるという。「一時の流行りではなく、ずっと愛せるものを選ぶようにしているそうです。実際10年前から、商品もあまり入れ替わっていないと思います。作家さんも変わりません。本も何かのブームでベストセラーになった本ではなく、長年読み継がれてベストセラーになっていった本が多いです」。
エバーグリーンな品揃えの中から、旅に出る前に読みたい本を選んでもらった。ベテランスタッフさんが持ってきたのは、松浦弥太郎さんの「くいしんぼう」というエッセイ。「旅とお土産って近いですよね。誰かに会いにいく旅なら手土産とか、旅先で買う家族や友達へのお土産とか。この本には、51軒の東京の名店(手土産)が紹介されています。松浦さんは雑誌〈暮しの手帖〉で編集長をしていた方で、暮らしにおける楽しさ、豊かさ、学びについての造詣も深くおありです。エピソードやエッセイを読んでいると、思わず食べたくなってしまいます。またこの本は、見開きページの右側がエッセイ、左側が写真という構成なので、どこから読んでもいいし、読みたい分だけ読める。気軽に手に取れるところもおすすめです」。
オープンから10年。オーナーの思いも積み重ねられてきたという。
「私たちの基本はお菓子づくり。お客様に美味しいって喜んでいただけるよう、初心を忘れず真摯に向き合うこと。そういう毎日の繰り返しです」。流行り廃りに流されるのではなく、毎日を淡々と、丁寧に過ごす。それこそが暮らしを豊かにする“餡”なのかもしれない。


Text:Atsushi Tanaka
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う滋賀県観光には、彦根市の〈&Anne〉がおすすめ。

&Anne


所在地滋賀県彦根市中央町4-35
アクセスJR彦根駅から徒歩約15分
電話番号0749-22-5288
URLhttp://www.and-anne.com/
Instagram@_and_anne
営業時間10:30〜18:00
休業日水曜、木曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。