滋賀県甲賀を、ぐるりと巡る。「NOTA_SHOP」から始まる旅。
“組み合わせ”を楽しく学ぶ、ハイブリッドな「NOTA_SHOP」の世界。
「もともとは親戚がやっていた焼きものの工場だったんですよ。本当にボロッボロのゴミ屋敷状態だったのを購入して、改装して使ってます」。15トンものゴミを処分したというからすごい。
「東京では広告業界にお世話になっていました。ダイナミックに動いていく面白さはあったんですけど、作ったものが少しずつ薄まっていくような感じが僕にはあまり合わなくて。焼きものだったら、ものを作って相手に届けるところまで一貫してできるんじゃないかと思って、2008年に信楽に戻ってきたんです」
「当時は僕らが行きたいと思うようなお店も、ほとんどなかった。今は新しいお店も増えてきて、若い子がレンタカー借りて来てくれたりする。温泉とか以外に「地方に遊びにいく」っていう感覚って、昔はあんまりなかったと思うんですけど、それがかなり変わりましたね」
取材日の少し前まで展示されていたアーティスト・野田幸江さんの作品(現在は終了)。野田さんはオープン当初から店内の生け込みを毎月担当している。「彼女は、ちょっと本当に天才なんです」
「人間て生き物で唯一、色や形に興味があってそういう感覚でものを選べる。だから、情報だけじゃなくてそっちも大事にしてほしいんです。丁寧にしすぎると、考えなくなるでしょ。できれば実際にものを見て選んでほしいし、いろいろ迷うくらいのほうが、ちょうどいいんちゃうかって」信楽だから、といって焼きものだけの店にしようと考えたことは一度もなく、広い広い店内には焼きものも木工も、ガラスも衣服も、オブジェも日用品もある。
「僕らが扱っているものは機能的なものではないので、合わせるものや空間っていう他の要素が重要になってくる。現代美術にしろ工芸にしろ余程のコレクターでもない限り、みんなそれを生活の中に置くじゃないですか。だから、買って帰ったあとのイメージを膨らませられるような見せ方を意識しています」
よそからきた方に地元のものを知ってほしいので、焼きものに関しては近隣の作家さんものと自社商品を少し。そのほかのものは逆に、地元の人や若い人に見てもらいたいものをセレクトしている。
ここ2年くらいでお客さんに若い人がすごく増えた。
「“ここに来たらものを作りたくなった”とか言ってもらえたり。すごく嬉しいです」
店内には小さなカフェも。左に見える円柱は「泥漿」という陶芸用の泥をつくるスペースだったものをそのまま生かしている。
「なんとかしたい気持ちはあるから、会議上では順調に進んでいくんですよ。でも実際に動き出してみると、こっちが思う“いいもの”と、他の人が想定しているものとがぜんぜん違っていたりする。描いているものが違うんです。じゃあ仕方ない、自分でやるしかないなと」
いろいろと考え話し合いを重ねた結果、奥様とふたりでゼロから始めようという結論に。
「もちろんみんなで盛り上がっていくのも、すごく大事なこと。とはいえ方向性が違うものを無理やり一緒くたにしたら、それこそやりたいことが薄まってしまうし、責任も曖昧になりますよね」
窓が多い建物なので、居ながらにして変わっていく景色を楽しめる。「なんだか飽きないですねえ。この周りの環境が、この店にとって大きいんちゃうかなって気がしますけどね」
「僕も映像とかグラフィックとか出身で、奥さんもグラフィックやってて、陶器だけ作ってたわけじゃないというところもこういう形につながっているのかなと思います」
「最初に道を切り拓いていく人がいて、そのフォロワーが出てくることで大きな動きになると思うんですけど、切り拓いた人と同じことをやることに僕は興味がなくて。リスペクトは大いにあるけど、それを踏まえて違うことをしていきたい。やってることは、昔からあんまり変わってないですね」
とすると、すでに売れっ子で知名度の高い人の展示はしないというのも頷ける。
「ここでやる意味がないかなと思って。まだ知られていなくても力があって、50年後も100年後も残るような人、ものを紹介していきたいんです」
ものも人も“自分がいま何に興味があるのか?” というのを常に見極めること。その本気度がたくさんの人を惹きつける。
田んぼの間を走る信楽高原鐵道。「田舎で都会みたいなことをしても意味ないな、と思う。こういう景色だったり、ゆったりした感じとか自然っていう田舎の良さ…… そういうのを大事にしたい」
「信楽って聖武天皇の時代に都があったんですよ。その跡地が紫香楽宮跡っていうんですけど。そこ、すごくいいです」。
誇りを持って限りなく地元を愛する人が作ったお店、なのである。
ちょっと日本ではないような佇まいの工房、気持ちよさに驚き。土日以外は稼働していて、お店は土日も開いている。よって加藤さんはほぼ休みなし。「社員はお店が2人、工房に奥さん含め4人。僕を入れて全部で7人で、必死で回してます(笑)」
創意工夫と自由を味わう、「ちょっと中華な食堂 alo」。
15年ほど前に大阪から移住したお二人は建築業界出身。飲食業はこれが初めてという。
「子どもがここ(信楽)で育つことを考えたときに、“子どもの近くで働いて、地域にも密着したい”と思ったんです。それを実現するために自分たちに出来ることは何かと考えた結果、この形に辿り着きました」
駐車場はお店から少し離れているので、車で行かれる方はご注意を。
コーヒー(¥550)もとても美味しい。「豆は滋賀県の高島市にある『漕人』さんにお願いしてます」。この日は信楽在住の陶芸作家・山田洋次さんのスリップウェアカップで。
ここ以外、どこにもない「ハナノエン」という空間。
「ここ(店舗)は農機具を入れたりアトリエとして使っていて、軽トラとかで入れるところだったんです。けどお店にするんやったら庭があるほうがいいなと思って、アスファルトを崩して庭にしました」
町中で50年ほど営業していた家業の生花店を現在の場所に移したのは2021年のこと。画家をしながら手伝っていた野田さんは、いつか理想の庭や空間を追及できたらいいなと、心のどこかで思っていたと言う。
庭にも店内にもりっぱな石がいくつも使われている。「うちはもともと、造園土木の会社やったんです。だから資材置き場にこんな石が眠っているのがもったいないなと思って。簡単に動かせないからなかなか難しいんですけどね。あ、ちょっと違った元戻して~! って、うへえーってなる(笑)」
お店を訪ねたのは12月。生垣代わりのサザンカは花絨毯も見事だった。「これがもっとうわーっと咲くとちょっと狂気じみた感じになって、ますますいいなあって思って」
「そしたらもう、お客さんが来るとか来ないとかどうでも良くなったというか(笑)。前に進むしかないなってなりました」。
「雑草を入れたらいま50種くらいかな。これからどうするか迷ってますけど、ちょっとずつ気に入ったものを植えて増やしていけるといいなと思っています。近所の方もみんな畑仕事をしているからたまに手伝いに来てくれて。草ボーボーやないか!って雑草を抜いてくれたりするんですけど、「いや、それ残してんねん!」って(笑)」。
「スティパのエンジェルヘアーって呼ばれてるイネ科の仲間なんですけど、日本の土壌にあんまり合わなくてすごく枯れちゃって、今は4分の1くらいだけ残ってる。貴重なんでもうこれは『大切なスティパ』っていう作品になりました(笑)」
「自然で生えてる感じをよく観察して、それを真似するということもいいかもしれないですね。(花束の状態で)ぎゅっと詰まった揃った感じもそれはそれでかわいいですけど、生けるときにはちょっと隙間を開けて、花と花を当たらへんようにするというのもいいと思いますね。茎がね、きれいなんですよ。お花が生えている茎が、きれいやなあと思って」
壁際に並んでいるのは日野町在住の陶芸作家・田中敬史さんと、aloでも使われていた山田洋次さんの花器たち。こちらはすべて購入可能。「棚を作って置いてみたら、しっくりきすぎて展示だと思われちゃって(笑)」。手前の巨大な藁の束は作品かと思いきや「椅子です、どうぞ座ってください」。
「例えばカゴに苔を敷いて地表みたいな感じにして、そこに花を刺して…… 生えてるところからそのまま来た、みたいな感じをイメージしたり。覗き込んだらいろいろ見えてくるようなね。けっこう作り込まへんとできひんけど(笑)」
「ずっと田舎で育って、“風景で見てる”っていうのがあるのかもしれない。例えばここもね、秋はあっちにススキ、こっちにセイタカアワダチソウが同じくらいの量感でワーーッ!て咲いてすごいんです、もう真っ黄色で。ああ、美しいなあ……と」
春は桜並木と鯉のぼり、夏は青く茂った畑と山々、そして真冬には雪景色。自然を直球で愛でられる場所にありながら、街中からのアクセスも悪くない。心地よい空気に満たされた、ハナノエンという名の異空間。この魅力にたっぷりと触れてほしい。
畑と田圃、山々に包まれた美しい風景の中に魅惑のスポットが点在する甲賀。現実と非現実の世界が合わさった不思議な場所のように感じたけれど、自然と人が調和するってそういうことなのかもしれない。そうだ、次回はローカル線だ。温かくなったらすぐ来よう。
Text: Kei Yoshida
Photo: Hako Hosokawa
いつもと違う滋賀県観光には、〈NOTA_SHOP〉〈ちょっと中華な食堂 alo〉〈ハナノエン〉がおすすめ。
NOTA_SHOP(ノタ ショップ)
所在地 | 滋賀県甲賀市信楽町勅旨2317 |
アクセス | JR「京都駅」から車で約60分・JR「名古屋駅」から約80分/信楽高原鐵道「勅旨駅」から徒歩12分 |
電話番号 | 0748-60-4714 |
URL | www.nota-and.com |
営業時間 | 11:30〜18:00 |
休業日 | 火曜・不定休 |
ちょっと中華な食堂 alo(アロ)
所在地 | 滋賀県甲賀市信楽町黄瀬1613 |
アクセス | JR「京都駅」から車で約50分(国道307号線「牧」信号付近)/信楽高原鐵道「雲井駅」から徒歩12分 |
問い合わせ | インスタグラムのメッセージより受付 |
URL | https://www.instagram.com/alo_shigaraki/ |
営業時間 | 11:00〜15:00入店まで |
休業日 | 日曜、月曜、祝日、不定休 ※月2回火曜 |
ハナノエン
所在地 | 滋賀県甲賀市水口町春日947 |
アクセス | JR「京都駅」から車で約60分/JR草津線「貴生川駅」から車で約17分/名神高速道路「竜王インターチェンジ」から車で約30分 |
電話番号 | 0784-62-3107 |
URL | https://www.hana-no-en.com/ https://www.instagram.com/hana_no_en_flowers/ |
営業時間 | 11:00~18:00 ※火曜日は予約制 |
休業日 | 水曜、木曜、第1・第3日曜 |
※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。