オープン日がわからない。自然な流れではじまった路地のお店


日本最大の湖・琵琶湖の東岸に接する彦根市。城下町として栄えてきたまちの中心部には、現存天守が残る彦根城がそびえ立っている。〈MiTTS FINE BOOK STORE〉は、まちを象徴するお城のそばにある、本と雑貨のお店。カルチャーや衣食住にまつわる本をはじめ、雑貨や糸、文具なども扱っている。店主の細江恵子さんは「ここにしかないものを、と考えて増やしていったら、こうなりました」と笑って話す。
京都出身の細江さん。結婚を機に旦那さんの地元・彦根にやってきた。「主人の実家が老舗の本屋で、当時はショッピングセンターの中にお店があったんです。店頭販売のほかに、セレクトショップへの卸しもしていて、この場所は倉庫でした。子育てをしながら卸しの仕事を手伝うようになり、エアコンや本棚、什器、ライト、扉を付けたら『お店みたいだね』となって。それで、子どもが幼稚園に行っている間とか、不定期でオープンするようになったんです。自然な流れではじまったので『この日がオープン』というのが曖昧なんです」。

お城のついで、ではなく「ここに行ってみたい」と思ってもらえるお店にしたい

〈MiTTS FINE BOOK STORE〉の選書は、細江さんの暮らしにヒントがある。「衣食住がテーマの本が多いですね。娘がアレルギー体質だったので、食べるとか、暮らすとか、そういう本を読んでいた影響ですね。他にも困っている人はいるだろうなと。絵本などは、子どもに読み聞かせていた本も多いです。子育てをしながら出会った本が増えていくので、お店の本も一緒に成長している感じですね。最初は主人が本を選んでいて、亡くなって7年たちますが、彼が選んだ本も一部残っています」。
旅に出る前に読みたい本、というテーマで選んでくれたのは、コマヤスカンさんの「新幹線のたび ~はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断~」。「息子が小さいころ、電車が大好きだったんです。新幹線を見るために米原まで行ったこともありました。この本には出てこないですけど秋田新幹線「こまち」を見るために、東京まで連れていったこともあります。子どもとの思い出の本ですね。私も電車に乗って何かを食べたり飲んだりして、風景を見ながら旅をするのは好きです。新幹線に乗ると富士山を見たくなりますよね(笑)。それで見られるとちょっとトクした気持ちになる。この本にも彦根城が出てくるのは、私はうれしかったです。絵も細かくて、よく見たらこんなのが、という発見もあっておもしろいと思います」。
お子さんが小さいころ「ひとつ、みっちゅ」と「ふたつ」を飛ばして数えていた響きがかわいくて店名にしたという細江さんらしい選書かもしれない。「彦根の子どもは、お城を見ながら育つんですよ」。細江さんが教えてくれた。地域の小学校では、彦根城の勉強をして、ちびっ子ガイドとして一般の観光客に発表する習慣もあるという。「彦根で育った主人もお城に詳しかったですし、娘も詳しい。彦根の人はみんな地元愛が強いですよね。そんなに大きなまちではないので、お客さんとの距離感も都会のそれとは違って、よく声をかけていただきます。展示会やワークショップなどを開くと、お客さん同士でつながることも多くあります。誰かと誰かがつながる活動は、これから増やしていきたいと思います。個人としては絵本作家の荒井良二さんが好きなので、いつかお呼びしてイベントを開くのが目標です。あとは、今のところ『彦根城を見に来たついでに来ました』という人が多いので、『このお店に行ってみたい』と思ってもらえるようなお店にしていきたいです」。


Text:Atsushi Tanaka
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う滋賀県観光には、彦根市の〈MiTTS FINE BOOK STORE〉がおすすめ。

MiTTS FINE BOOK STORE


所在地滋賀県彦根市本町2-2-44
アクセスJR彦根駅から徒歩約18分
電話番号0749-24-2111
Instagram@mittsfinebookstore
営業時間12:00〜18:00(金、土、日祝)
休業日月、火、水、木

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。