140年以上の歴史を持つ老舗醤油屋を訪ねて


静岡県浜松市北部に位置する小松地区。浜松駅から車で30分ほどの場所にあるこの地域は南アルプスの地下水に恵まれ、古くから醤油づくりが盛んだった。このエリアだけでも3軒の醤油屋があったというが、現在残っているのはわずか1軒のみ。その1軒が、当時の面影を残したままの老舗醤油屋〈明治屋醤油〉である。
登録有形文化財に指定されている明治屋醤油店舗兼主屋。
登録有形文化財に指定されている明治屋醤油店舗兼主屋。
〈明治屋醤油〉は明治8年に創業した醤油醸造所。店舗・醸造所・離れの3つが文化財に登録されていて、タイムスリップしたかのような気分が味わえる風情ある佇まいが魅力。昔ながらの製法を大事に守りながらも、醤油を使ったスイーツを開発したり、工場見学を企画したりなど新しい活動にも力を入れている醤油屋だ。今回はここで醤油の絞り体験にチャレンジしてみる。

 

6代目が楽しく案内してくれる工場見学


醤油搾り体験は、まず工場見学から始まる。6代目の野末将平さんが醸造所を案内してくれた。明るく親しみやすい人柄で、醤油づくりについて楽しく解説してくれる。
〈明治屋醤油〉6代目 野末将平さん。
〈明治屋醤油〉6代目 野末将平さん。
醤油づくりの工程は大まかに3つ。まず、蒸した大豆、割砕した小麦、種麴菌を混ぜて麹をつくる。その麹と塩水を混ぜてもろみをつくり、適宜かき混ぜながら熟成期間へ。最後に、もろみを搾り、できた醤油を火入れして完成となる。

〈明治屋醤油〉では富山県産の大豆や、北海道産の小麦などを素材として使っている。近くには自社農園があり、材料の一部を栽培しているそう。素材にこだわった醤油は、体にいいものを食べさせたいと願うママ世代にも支持を得ている。まず見せていただいたのは、小麦を炒ったり、砕いたりする機械だ。昭和初期から使用している機械は現在も稼働中。熱々のままだと麹菌が失活してしまうため、炒った小麦は一度タンクで休ませてから、くだく作業に入るそう。
大きな四角い桶には1年から1年半熟成させたもろみ、丸い桶には3年熟成させたもろみが入っていた。
大きな四角い桶には1年から1年半熟成させたもろみ、丸い桶には3年熟成させたもろみが入っていた。
もろみは2階にある蔵で熟成させる。多くの醤油メーカーが温度調節を行うなか、〈明治屋醤油〉では四季の移り変わりに任せた、昔ながらの天然醸造で醤油をつくっているのが特長だ。熟成期間は1年半から3年と多くかかるが、その分コクと旨味がじっくり引き出される。

「3年熟成の醤油は特にコクが強く、色も濃くなります。一方で1年半熟成の醤油は香りのよさが魅力。それぞれ個性があるので、お好みで選んでもらいたいですね」と野末さん。熟成期間を終えたもろみは搾り作業へ。その後、数日間休ませて油を分離させる。酸化した大豆の油を取り除くことで、雑味のない醤油に仕上がるそう。醸造所のなかを見学していると、ひとつひとつの作業が丁寧に行われており、愛情を込めてつくられていることがわかる。
火入れ作業を行う〈明治屋醤油〉社長 5代目 野末一宏さん。
火入れ作業を行う〈明治屋醤油〉社長 5代目 野末一宏さん。
最後の火入れは香りを引き出すために重要な工程。合わせ調味料の場合は、この段階でだしや砂糖などを加えて調節する。沸騰すると香りが飛んでしまうので、温度調節が大事だそう。香ばしい醤油の香りを嗅いでいると、なんだかホッとした気持ちに。あらためて醤油は日本人の生活に根づいているものだと気づかされる。

昔ながらの醤油づくりを体験!

オリジナルのエプロンをつけ、さっそく醤油搾り体験。
オリジナルのエプロンをつけ、さっそく醤油搾り体験。
醤油づくりについて深く知ったところで、さっそく搾り体験をさせてもらうことに。今回挑戦するのは醤油体験の竹コース。〈明治屋醤油〉で熟成させたもろみを使い、搾りから火入れまで体験できる。ほかにも搾りのみの梅コースや、オリジナルの醤油キットを使った「仕込み」体験などもあり、子どもから大人まで幅広く楽しめる。大豆や小麦など醤油づくりに欠かせない材料について説明を受けながら、熟成期間の異なるもろみを見せてもらった。熟成が進むにつれ、色が濃くなっていることがわかる。普段何気なく食べている醤油がどう熟成し、おいしさが増していくのか知ることができる。今回は1年半熟成させた、同店の人気商品「四季造り」を搾らせてもらうことに。
体験で使う道具は、3枚のふきん、オリジナルの大小の升、搾り器など。升や搾り器は、地元の木工所で特別に製作してもらった道具だという。ひとり用の小ぶりなサイズの道具はどれも思わず写真におさめたくなるかわいさ。
 まずは升にふきんを1枚敷き、なかにもろみを入れていく。指定された量を入れ終わったら、ふきんの端を内側に入れて包む。この作業を3回繰り返していく。
 
次にひと回り小さい升を上に重ねて。このあと搾り器で上から圧をかけ、醤油を搾っていく。
升をセットし、注ぎ口の下に器を置いたら、搾り器の取っ手を持ってぎゅっと押し込む。垂直に30秒間ほど圧をかけ続けるのがコツ。
搾り器ごと傾けると、澄んだ色の美しい醤油が注ぎ口から流れてきた。120ml搾る必要があるので、何度か繰り返し作業を行う。
次は別の作業台へ移り、火入れの作業へ!
小さな鍋で、80度まで熱する。立ち込める醤油のいい香りがたまらない。火入れすると日持ちしやすくなるので、旅行中でも安心だ。最後にフィルターで漉して、火入れは完了。小さな瓶に醤油を詰め、蓋を締める。「じぶんしぼり醤油」のパッケージを貼ったら、自分だけの醤油が完成! 野末さん曰く、刺身や煮物などどんな料理にでも使いやすい万能醤油だそうだ。開封したら冷蔵庫で保存すると、香りが飛びにくいのでおすすめ。
「じぶんしぼり醤油」のほか、地元のメーカーと協同製作した醤油クッキーや手織りのコースター、オリジナルの手ぬぐいなどをお土産に。
「じぶんしぼり醤油」のほか、地元のメーカーと協同製作した醤油クッキーや手織りのコースター、オリジナルの手ぬぐいなどをお土産に。

搾りたての生醤油や火入れ醤油などを味比べ!


搾り体験後は、実食タイム。搾りたての生醤油・火入れ醤油に加え、3年熟成させた醤油やうすくち醤油の4種類を豆腐にかけて味比べした。
生醤油は酸味が効いて、フレッシュな味わい。一方、火入れすると穏やかな味わいになり、醤油のコクをより感じられるようになる。まろやかで奥深い3年熟成の醤油や、軽やかな味わいのうすくち醤油など、それぞれの違いが感じられておもしろい。工程の違いで、ここまで醤油の味に違いが出るのだと感心した。

生活に欠かせない醤油をより身近に感じられる体験

日本の食生活において中心的な存在である醤油。つくり方や味わいの違いを知れて、その奥深さをより感じることができた。何より昔ながらの機械や道具を間近で見れたことで、古くから醤油は日本人にとって欠かせない調味料だとあらためて実感。6代目から始めた工場見学と醤油体験には、野末さんの「醤油がどうやってつくられているか知ってもらいたい」という想いが込められている。
自社農園では、3頭のヤギが草取りなどをお手伝い。
自社農園では、3頭のヤギが草取りなどをお手伝い。
「昔からつくり方や味はほとんど変えていないんです。生活の一部になるような醤油屋を目指して、これからも頑張っていきます」と最後に話してくれた野末さん。店内には小瓶サイズの醤油も豊富に用意されているので、お土産にもぴったりだ。

醤油のおいしさを再認識できる〈明治屋醤油〉。醤油づくりをじっくり体験したら、ありがたみが増し、より食事を楽しむことができるようになるに違いない。

 


Text: Ayumi Otaki
Photo: Takashi Katakura
 




いつもと違う静岡県観光には、浜松市の〈明治屋醤油〉がおすすめ。

明治屋醤油


所在地静岡県浜松市浜北区小松2276
アクセスJR浜松駅から車で約30分
電話番号053-586-2053
URLhttp://meijiyashouyu.com/
営業時間月~金 10:00~18:00、土 10 :00~16:30
休業日日曜、祝日

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。