箱根の文化的エリアにひっそりと佇む、風光明媚な屋敷。

箱根、小涌谷。ここは、有名な箱根小涌園ユネッサンなどの温泉テーマパークや、明治16年創業の箱根小涌園 三河屋旅館などがあり、箱根湯本駅前とはまた違った趣きを見せるエリアだ。標高500m以上という山深い場所にあり、小涌谷駅前は箱根駅伝のルートとしても知られている。近くに迫る山の緑を愛でながら、アートにも触れられる。
2013年にオープンした〈岡田美術館〉は、ミュージアムが集まる箱根の中では新しい存在。傾斜地を利用した五層の建物は、明治時代に外国人向けホテルとして使われていた〈開化亭〉の跡地に作られたもの。その歴史にちなんで名付けられたミュージアムレストランが、今回の旅の目的地だ。美術館の建物とは別館にあり、ここにしかない景色が堪能できる。

 

箱根のそぞろ歩きに立ち寄りたい、心休まる食事どころへ。


昭和初期に建てられたという日本家屋をリノベーションした〈開化亭〉は、伝統的な和のスタイルでありながら、モダンな雰囲気。板の間のコの字カウンター席、奥座敷には掘りごたつ式の座席があり、どちらも旅の疲れを癒してくれる温かみがある。外の景色を眺められる窓には、昔ながらの歪みが見えるガラスが残されている。独特の景色を作り出し、現在では出会うことは少ない貴重な窓だ。
テーブル席がある床の間には、掛け軸の絵にあたる部分がくり抜かれ、借景を楽しめる仕掛けも。よく見ていくと遊び心のある意匠に出会えるから、食事だけでなく、この建物自体もじっくりと味わいたい。
ここでいただけるのは、海の幸、山の幸をふんだんに取り入れたうどん。温かいうどんは手延べの太い麺、冷やしうどんには稲庭風の細麺と、2種類のうどんが選ばれていて、どちらも捨てがたい。
そしてどれも具材がたっぷり。冷やしぶっかけうどんは、山芋、ひきわり納豆、めかぶなどのネバネバ食材が乗った、ヘルシーな印象。そこにサクサクとしたちくわ天が二本ついて、満足感も忘れられていない。海苔や大葉の風味が加わり、ツルツルと喉越しのいい麺はあっという間に完食してしまう。女性に人気だというキノコうどんは、温かい方がおすすめ。なめこ、えのき、きくらげ、しいたけ、ひたらけと馴染みのあるキノコに加え、ならたけなどの珍しいものも。これだけの種類が使われるから、旨みも2倍、3倍、4倍と広がっていく。食感のいい山菜・細竹や鰹の削り節なども盛り付けられ、一口ごとに楽しい。
風味豊かなだしは、カツオといりこがベース。太さがランダムでもちもちとした手延べ麺を、より味わい深くしてくれる。このほかに、名物豆アジ天うどんや牛ごぼううどんなど、数量限定の人気メニューもあり、チョイスに悩むのも醍醐味の一つ。

 

体に優しいケーキと共に、まったりとした喫茶時間。


〈岡田美術館〉は、日本、中国、韓国などアジアの陶磁器や、日本の屏風・襖絵・掛け軸を中心に常時約450点の美術品を展示している。中でも陶磁器のラインナップは壮観で、器好きはもちろん、インスピレーションを求めてやってくるアーティストやクリエイターも少なくないという。お店で使われている器も趣のあるものが多く、お茶の時間は有田焼のティーカップとともに、ゆったりと過ごそう。
パウンドケーキ300円、ダージリン・ティー700円。
パウンドケーキ300円、ダージリン・ティー700円。
大きな花豆が入ったパウンドケーキは、葉山の創作和菓子店〈和がし 葉な〉から。北海道産の小麦、北軽井沢産の紫花豆などの国産素材にこだわり、無添加で作られている。美術館ではお土産としても販売されるが、すぐに売り切れとなってしまう人気の品だ。甘味を抑えた優しい味だから、花やハーブのような香りのダージリン・ティーを合わせて軽やかに味わうのがおすすめ。
          

食後は庭園散歩で自然を満喫。


〈開化亭〉は美術館自慢の庭園の入り口にある。できる限り自然の姿を残して整備されているといい、季節ごとに花や木々の彩りが移ろっていく。11月下旬のこの日は、鮮やかな紅葉と常緑樹の色合いが美しいコントラストを作り出していた。勾配のある園内の階段を登れば、〈開化亭〉を一望でき、建物見物にもピッタリ。
庭園には池もあり、夏になれば花菖蒲が見事に咲く。
庭園には池もあり、夏になれば花菖蒲が見事に咲く。


Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う神奈川県観光には、足柄下郡箱根町の〈開化亭〉がおすすめ。
 

開化亭


所在地神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
アクセス箱根登山鉄道「箱根湯本」駅からバスで約20分
電話番号0460-87-3931
URLhttps://www.okada-museum.com/facilities/restaurant_kaikatei/
営業時間11:00〜16:30LO(喫茶は14:00〜16:30LO)
休業日12月31日、1月1日、美術館の展示替期間

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