“地元のいいもの”を丁寧に集めた、ショウルームのようなカフェへ。

滋賀県甲賀市信楽町。狸の置物で知られることの多い陶芸の里。信楽駅からタクシーに揺られていると、道の両脇に窯元やギャラリーなどが続き、あの狸も大勢で歓迎するように並んでいる。周りには田畑も広がり、穏やかな景色に心癒されていく。ここに、人や物の交流の場〈滋賀県立陶芸の森〉がある。陶芸家などのアーティスト・イン・レジデンス、資料館、ミュージアムなどが設けられ、文化芸術の発信地になっている。中でも、入り口付近にあるカフェ〈山とおむすび 銀月舎〉は、食を通して気軽に土地の魅力を知れる、いま人気のスポットだ。地産地消を推進し、もちろん料理は信楽焼に盛られている。

 

自分たちが美しいと思えるものを、お盆の上に。


信楽産業展示館に併設している〈山とおむすび 銀月舎〉。元はプロダクトデザインを行う会社が、食器の製作を通して飲食業を始めた。店内にはアンティーク家具が置かれ、天井や床まで木の温もりたっぷり。窓の外には完全無農薬の“ファーデン(ファーム&ガーデン=食べられる小さな森)”も。思わず深呼吸したくなる空間で、ゆったりと過ごしたくなる。
館の中からカフェに入っていくと、おむすびや焼き菓子などが並んだショーケースに胸が躍る。ランチは、おむすびふたつに具沢山の味噌汁がついた定食。「これが1番のおすすめ」と話すのは、店を営む能登正太郎さん。
「味噌作りや干し柿など、かつてはみんなが知っていた食文化が、どんどん失われている気がします。それを改めて学びながら、このお店のメニューにも活かしています。地元にこんなにいいものがあるのに触れないのは勿体無い。地元の人にもおいしさに気づいてもらえるように、田舎の良さを発信していきたいんです」。
ゴロゴロ炙り角煮味噌汁定食 1,480円。写真のおむすびは鮭と昆布。
ゴロゴロ炙り角煮味噌汁定食 1,480円。写真のおむすびは鮭と昆布。
日常のご飯の最上級を目指して作っているという“ケ”の料理。鈴鹿山系の水で育ったお米、米粉で作った季節の天ぷら、伊賀や信楽の有機野菜で自家製したぬか漬け、滋賀高島産の在来大豆「水くぐり」で作った味噌など、一つ一つじっくりと味わいたいものばかり。メイン料理のように楽しめる味噌汁は、ホテルの中華レストランで腕を磨いたシェフのアイデアによる角煮入りだ。

自然な甘さが引き立つ、優しいティータイム。


陶器だけでなく、信楽にはものづくりをしている人が多いという。能登さんによれば、「隣近所に作家さんや農家さんなどが普通にいて、ものづくりと生活が密接な特殊なエリア。」だという。コーヒーや自家製チャイなどのドリンクを地元作家のカップで提供されたり、こだわりの食材について説明してもらったりと、このカフェにいるだけで信楽の素晴らしさに浸れる。
クルミの冷やしお汁粉650円。自家製豆腐で作った白玉はもっちりとしている。トッピングにはクコの実が。
クルミの冷やしお汁粉650円。自家製豆腐で作った白玉はもっちりとしている。トッピングにはクコの実が。
ほうじ茶のシフォンケーキ、米粉のガトーショコラなどの焼き菓子をはじめとした、自家製スイーツにも注目。くるみ、牛乳、黒胡麻、甜菜糖で作った冷やしお汁粉に浮かんでいるのは、なんと豆腐を練り上げて作ったという白玉だ。ほんのりとした甘味、くるみや胡麻の香ばしい香りが口いっぱいに広がる。

パブリックなスペースだからこそ、オーガニックなものを。


店内には、店で使う調味料やセレクトした食材、雑貨、器などのショップも併設。このラインナップを見ているだけでも、安心安全でおいしいものを提供してくれることが伝わってくる。「ここで食べたり飲んだりして、おいしさに気づいてくれたら、食の大切さ、無添加食材・オーガニックの良さについて考えてくれるかもしれない。文化を継承していくための、ものづくりをしていきたいんです」と、能登さん。
能登さんの会社では養蜂にも取り組んでいて、無殺菌のナチュラルなハチミツは店頭でしか買うことができない。「蜂がいなくなったら、人間は生きられません。社会課題へもアプローチしながら、町づくりに貢献できたら」。


人の営みと自然をつなげる、緑あふれるランチタイム。

お店の前にある“ファーデン”。
お店の前にある“ファーデン”。
天気のいい日には、店の外の芝生エリアでピクニックを行うことも。心をほぐす食事と、体を解放してくれる豊かな自然に身を委ねて、しばし旅の休憩を。



Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う滋賀県観光には、甲賀市信楽町の〈銀月舎〉がおすすめ。

山とおむすび 銀月舎


所在地滋賀県甲賀市信楽町勅旨2188-7 県立陶芸の森 産業展示館内
アクセス信楽高原鐵道信楽駅からタクシーで約5分
電話番号0748-83-2882
URLhttps://gindawara.co.jp/pages/gingetsusha
営業時間11:00〜17:00(16:00L.O、ランチは15:00L.O)
休業日月曜(祝日の場合は翌火曜日がお休み)

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。