約100の作り手が集結する、美濃焼のギャラリーのようなショップへ。

今回の目的地は、岐阜県多治見市にある市之倉というエリア。陶芸の町として全国的に知られる多治見市の中でも、ここでは盃が盛んに作られてきた。町内には、1804年開窯の〈幸兵衞窯〉をはじめ、〈玉山窯〉や〈光峰窯〉など、50以上の窯元が点在している。窯元めぐりを楽しむ中で、ぜひ訪れたいショップがある。

そのショップがあるのが、町の中心に建つ〈市之倉さかづき美術館〉。ここでは盃の小さな世界に細密な意匠を施した名作や、時代による盃の変化がわかる歴史的な品など、たくさんの実物が展示されている。

飲み終わると美人画が現れる「透かし美人盃」。
飲み終わると美人画が現れる「透かし美人盃」。

「茶道より以前に『酒道』というものがありました。現在は茶道の懐石でお酒をいただくので、茶道の中に含まれてしまいなくなってしまいましたが、『三々九度』『献立』『無礼講』などはしきたりとして残っていますね。」と美術館スタッフの方が教えてくれた。盃一つで、先人たちが身近に感じられる。ショップには、新旧さまざまなスタイルの盃がずらり。お気に入りを探しに行こう。

 

地域の名窯をホッピングした気分で、さまざまなスタイルを見る。


市之倉や近隣に住む作家のほかに、ゆかりのある約100作家のアイテムが並んでいる。ショーケースの一箱一箱が作り手ごとに分かれていて、内容はそのときごとに変化。お酒好きはもちろん、器好きも県外から訪れるというから、人気の作家の品は争奪戦になることも。ここで好みのものに出会えたら、ぜひその場で手に入れたい。

膨大なラインナップから、市之倉を代表するものを集めてみた。一口に盃と言っても、色、柄、形は本当にさまざま。使うシーンを思い浮かべながら、選んでみよう。

美術館からも近い場所にある〈幸兵衛窯〉は、青釉のシリーズが人気だという。ビビッドなカラーは、小さな盃なら取り入れやすい。ヨーロッパやアフリカのようなテイストも感じられるから、酒器としてだけでなくアミューズを盛る小鉢としても活用できそうだ。


美濃焼の一種でもある織部焼きは、桃山時代から作られ懐石や茶器で親しまれてきた。〈玉山窯〉ではその伝統を受け継ぎ、力強い造形と色使いの品々を手がけている。

盃のほかに食器やカップなどを作る窯が増えているが、〈光峰窯〉は盃が中心。時代劇などでもお馴染みの平盃は、広い口から香りが立つため、ゆっくりとお酒を味わえる。


ここで、盃の形がもたらす味わいの違いを知ってみよう。〈カネコ小兵製陶所〉では口の広さや器の高さなどが違う4つのタイプを作っており、1本の日本酒を飲み比べてみると、その差がわかりやすい。香りを強く感じられるラッパ型、旨味を味わえるワングリ型、スッと喉の奥に届かせすっきりと飲めるストレート型、香りを閉じ込める形で濃厚さを堪能できるツボミ型、と、それぞれに合う日本酒も見つけられそう。

〈カネコ小兵製陶所〉のミニ一献盃各1,100円。左から、ストレート、ツボミ、ワングリ、ラッパ。
〈カネコ小兵製陶所〉のミニ一献盃各1,100円。左から、ストレート、ツボミ、ワングリ、ラッパ。

洒落の効いた昔ながらの道具を、日常のエッセンスに。

うぐいす徳利 富士 2,300円、うぐいす盃(木箱付き)3,850円。
うぐいす徳利 富士 2,300円、うぐいす盃(木箱付き)3,850円。

お座敷や宴会を盛り上げた、趣向を凝らした品々は、実際に使ってみたいもの。たとえばこの「うぐいす徳利」と「うぐいす盃」は、明治から昭和にかけて流行したという形だ。お酒を注ぐときに「ぴよぴよ」とうぐいすの鳴き声のような音が鳴り、その仕組みに合わせたかわいらしいデザインも多い。

升とサイコロがセットになった「サイコロ盃」。「踊」「唄」などのお題や、「壱合」「五合」など飲む酒の量が書かれたサイコロで遊びながら、お酒を酌み交わしていくものだ。オブジェとしても置いておきたいほど、美しい図柄も魅力。

サイコロ盃(木箱付き)6,600円。全て重ねてしまっておくことができる。
サイコロ盃(木箱付き)6,600円。全て重ねてしまっておくことができる。

美濃焼の幅広い作品でコーディネイト。


店内には、盃以外の陶磁器もたくさん。盃と共にこの地で多く作られてきたという箸置きも、ユニークな形のものが集まっている。

現代の作家で今特に人気があるというのが、県内を拠点に活動する村上雄一さんの作品だ。陶器、磁器、半磁器とさまざまなスタイルで制作し、凛としたシルエットが印象的。機能的でありながら、個性も感じられる。

左から、白磁輪花 楕円小皿2,200円、リムプレート 中 湖水色4,400円。いずれも村上雄一さんによるもの。
左から、白磁輪花 楕円小皿2,200円、リムプレート 中 湖水色4,400円。いずれも村上雄一さんによるもの。

アクセサリーも人気のジャンルだそう。〈幸兵衛窯〉でも繊細なネックレスを作るほか、〈七窯社〉のイヤリング、荒木亜美さんのブローチなど、顔まわりを華やかにしてくれるデザインのものが揃っている。種類もさまざまだから、プレゼントとして選ぶのも楽しい。

こちらはショップオリジナルのミニ徳利&ミニ盃セット。奥にある通常サイズと比べてみてほしい。ミニサイズのかわいらしさで、花器にしたり、インテリアとして飾ったりと、使い道いろいろ。

ミニ徳利&ミニ盃セット 1,650円(左上をのぞく2点)。
ミニ徳利&ミニ盃セット 1,650円(左上をのぞく2点)。

盃をきっかけにお酒の魅力を再発見。


お気に入りの盃を見つけられたら、せっかくならば、地酒もチェック。隣町の笠原にある蔵元〈三千盛〉では、辛口を中心に作られている。ラベルも華やかな一本をお土産に、旅の思い出を語り合いたい。



Text: Kahoko Nishimura
Photo: Natsumi Kakuto




いつもと違う岐阜県観光には、多治見市の〈市之倉さかづき美術館〉ミュージアムショップがおすすめ。

市之倉さかづき美術館 ミュージアムショップ


所在地岐阜県多治見市市之倉町6-30-1
アクセスJR多治見駅からタクシーで約15分
電話番号0572-24-5911(美術館)
URLhttps://www.sakazuki.or.jp/
営業時間10:00~17:00
休業日火曜(美術館に準ずる)

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。