1000年以上窯の火を絶やさずに作られてきた焼き物の里で、薪窯焼きのピッツァをいただく。

岐阜県南部、多治見市は美濃焼の産地として知られているが、かつては集落ごとに作るものが決まっていたそう。たとえば今回訪れる市之倉町は、山間にある小さな集落。交通の難所で、なおかつ資源が乏しかったため、少ない原料で多くの製品を作れて、運搬しやすく付加価値の高い盃や箸置きなど小さな陶芸品が作られてきた。作陶の歴史を辿れば、1000年以上も続いているという。山に囲まれ、小川が流れる自然豊かな市之倉町には、由緒ある窯元が点在している。今回訪れた〈市之倉さかづき美術館〉は、2002年、町の中心に建てられた。敷地の入口にはローマ風ピッツァを出すレストラン〈石窯ピッツァ moon〉がある。

 

和素材との掛け合わせにセンスが光る、芳しいランチ。


美術館とともに建築されたという風情のある建物に入ると、落ち着いた色のテーブル&チェアが並んでいる。ここはレストランというよりトラットリアの趣だ。気軽な雰囲気で食事が楽しめる。「かしこまった料理よりカジュアルなものが好き」と話すオーナーシェフの藤田貴広さんは、〈名古屋マリオットアソシアホテル〉で腕を磨いたのち独立。イタリアンやフレンチの本格的な技を、普段着で食べられる気さくなスタイルに落とし込んでいる。
なかでも必食なのがピッツァだ。空気を押し出しながら薄く伸ばしたローマの製法で、クリスピーに仕上げられる。店内には石窯があり、薪で燻された香りも食欲をそそる。「生地が厚いナポリピッツァと違い、具材が主役になります。開店当時はマルゲリータなどの王道だけにこだわっていて、日本人向けに和風のメニューを作るのは抵抗があったのですが、オリジナルを模索して生まれた『和風ごぼうのピッツァ』が予期せぬヒット。今では店の看板メニューになりました」(藤田さん)。生地はオーダー後に伸ばし、ハーブも自家栽培するなど、隅々まで手が込んでいる。テイクアウトもできるけれど、ぜひ、できたてをお店でいただきたい。
ピッツァに合わせて作るきんぴらごぼうは、柔らかく炊かれていて生地との相性が抜群。醤油味はほんのりと、素材の旨味を感じられるバランスだ。単に和風にしたのではない、藤田さんならではの工夫が見える。ハーフ&ハーフの欲張りオーダーもできるから、一番人気のマルゲリータも注文したい。自家製のトマトソースは、玉ねぎ本来の旨味にハーブがアクセントとなったスタンダードな味。いつでも食べに来たくなる。
シェアランチは、Lサイズのピザ1枚、パスタ2品、生ハムのサラダ2皿、ドリンクバー、自家製ミニフォカッチャ付きで3,480円。
シェアランチは、Lサイズのピザ1枚、パスタ2品、生ハムのサラダ2皿、ドリンクバー、自家製ミニフォカッチャ付きで3,480円。
ランチにはさまざまなセットメニューがあり、2名用のシェアランチがおすすめ。ボリュームたっぷりだが、薄生地のピッツァをはじめペロリと食べられてしまう。

ローストポークやローストビーフなど、ホテル時代に身につけた料理もサラダなどに添えられている。パスタとピザは、それぞれ月ごとに変わる4種類から好みのものをセレクト。「ナスとベーコンの甘みそピッツァ、豚バラの和風ペペロンチーノなど、季節の野菜を使った和風メニューもだんだんと増えてきました」(藤田さん)。それぞれの品にファンがいて、毎月同じものを食べにくる常連客もいるという。店では、美濃焼も積極的に使われている。ピザ窯で焼いているという自家製フォカッチャは、店からも程近い名窯〈幸兵衛窯〉の小皿。さらに、サラダの器は〈丸モ高木陶器〉から。この土地の魅力を再認識しながら、食事と会話を楽しもう。

 

食後の自家製ドルチェに心ときめかせる。


ランチタイムにはドルチェがセットにでき、+240円という価格にそぐわぬ豪華なプレートが登場する。こちらも手作りしているというから、さらに驚きだ。ティラミスはイタリアンチーズから作り、フレッシュなフルーツやクリームでデコレーション。これを食べずには帰れない、気分の上がるスイーツだ。
セットになるドルチェは単品でも提供するフルポーション。
セットになるドルチェは単品でも提供するフルポーション。

何度でも通いたい、いつものレストラン。


セットメニューだけでなく、季節ごとのアラカルトメニューやドルチェピッツァなど、1回では楽しみ尽くせないほど目移り必至。旅の基点にするのもいいかもしれない。


Text:Kahoko Nishimura
Photo:Natsumi Kakuto



いつもと違う岐阜県観光には、多治見市の〈石窯ピッツァ moon〉がおすすめ。

石窯ピッツァ moon


所在地岐阜県多治見市市之倉町6-30-1
アクセスJR多治見駅からタクシーで約15分
電話番号0572-21-3353
URLhttp://www.moon-t-f.com/
営業時間11:30〜17:00(土日祝〜22:00)
休業日火曜(美術館に準ずる)

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。